着物のかけつぎ・かけはぎとは?よくある疑問を解説します
かけつぎ・かけはぎは、着物に起きたトラブルに対処してくれる頼れるお直し方法です。「虫食いで着物に穴が空いてしまった」「ひっかけて傷ができてしまった」そんな時こそかけつぎ・かけはぎの出番なんですよ。
でも初めて着物のお直しやかけつぎ・かけはぎを依頼する時には、わからないことが多くて不安ですよね。
1.着物かけつぎ・かけはぎとは何?リフォーム?
着物の「かけつぎ(かけはぎ)」は、何らかのトラブルで着物にできてしまった穴や傷を埋めて、目立たなくさせる修復技術のことを言います。「リフォーム」というとサイズ直しやお仕立て直しのことになりますが、より直接的に傷を直す「リペア」に近い技術です。
衣類のリペア技術は海外にもありますが、日本では着物向けのかけつぎ・かけはぎ技術が何百年も前から受け継がれてきました。現在でも専門の職人が、着物の傷や穴を直しています。
2.着物「かけつぎ」「かけはぎ」はどんな穴を直せる?
着物のかけつぎ(かけはぎ)では、ひっかけでできた穴など、様々なトラブルに対処できます。ここではその一例をご紹介しますね。
着物の虫食いの穴
着物に穴があく原因のひとつが虫害(虫食い)によるものです。ヒメマルカツオブシムシやイラガ等の幼虫は、絹やウール等の繊維が大好物。タンスやクローゼットの中で産卵が行われると、孵化後に幼虫が繊維を食べ、その部分が「穴あき」になってしまいます。
虫食い穴は基本的に5mm~1センチ以内の比較的小さな穴であることが多いものですが、かけつぎでは大きさによって糸だけで直したり、共布をあてて直すこともあります。
なお虫害については基本的に1箇所見つけるとその他の複数箇所が虫食い被害に合っていることが多いです。まずは全体の被害状況をよく確認して、どこをかけはぎしていくか見定めることが大切です。
タバコでできた穴
タバコの灰が落ちたりタバコの先端が着物に触れたりすると、繊維が高熱で溶かされて穴が空いてしまいます。最近ではタバコを吸う人が減ったようですが、それでも着物のタバコ穴トラブルは意外よく耳にするものです。
タバコの穴は1センチ以上の大きなものになってしまうことも。それでも共布をピッタリと当ててかけはぎ(かけつぎ)していくことで、トラブル箇所を目立たなくしていくことができます。
ひっかけてできた穴
木製のイスがささくれていた、ちょっと尖った部分に触れてしまっていた…思いもよらない理由で、着物には「ひっかけ穴」ができてしまうことも。ひっかけ穴というとニット等にできるものと思われがちですが、実は意外と着物にも多いのです。
ひっかけ穴や傷についても、かけはぎ・かけつぎで対処が可能です。大きさに合わせて、ベストな方法を選んでいきます。
転倒でできた破れ
「慣れない草履や下駄で転んで、着物を破ってしまった」着物ではこのようなトラブルも珍しくありません。破れの大きさにもよりますが、かけつぎやかけはぎでは転倒等による破れ穴を塞ぐこともできます。
「せっかくの着物が破れて二度と着られない」と嘆く前に、ぜひ一度お店に「かけはぎ(かけつぎ)」を相談してみてくださいね。
3.「かけつぎ」と「かけはぎ」の違いは?
かけつぎ・かけはぎの違いについては「地域性によるもの」や「技術内容」等の諸説があります。ザックリと「どちらも同じ着物の穴の修復技術」と覚えておけば大丈夫です。
ここではいくつかある説についても解説しておきます。
関西・関東での名称
① 関東地方 → かけはぎ
② 関西地方 → かけつぎ
上記のような「地域性によるもの」という説も有力です。ただ意外と関東でも「かけつぎ」が通じたり、関西でも近畿の一部では「かけつぎ」と呼称しなかったり…といったバラツキもあります。一概に東西で割り切れないのが実情です。
技術内容による名称
① 糸を使って修復するもの → かけつぎ
② 布をはめ込んで修復するもの → かけはぎ
※逆の地域もあったりします
糸だけで継ぐから「かけつぎ」といった説もあるのですが、実はこれも地域性が大きいようです。あまり「かけつぎ=糸だけ」と決めつけず、「かけつぎ、かけはぎ、どちらも穴を直すための修復する方法」という程度に考えておいた方が、会話での行き違い(齟齬)などを防げることでしょう。
4.かけつぎ・かけはぎではどんなやり方で着物を直す?
かけつぎ・かけはぎの方法には様々なものがあり、職人さんによってやり方も少しずつ違いますが、代表的な方法をご紹介します。
織り込み
糸だけを使って着物の穴を修復する方法です。縫糸、または共布をほどいて作った糸を使い、縦・横に糸を一本ずつ入れながら、地色と同じような織り目を作り、穴を塞いでいきます。
織り目(綾)を再現するように糸を入れていくため、仕上がりはとてもナチュラルなのが特徴。基本的に小さめの穴に使用することが多い技術です。なお、地色が薄い色合いの場合などには織り込みが目立ってしまうこともあります。
挿し込み(刺し込み)
布を使って穴を修復する方法です。共布(ともぬの)や、縫込み部分等を使って傷のある部分を覆い、布の四辺をピッタリと滑らかにはめ込んでいきます。
挿し込みの場合には、比較的大きな穴や、かぎさき等の大きなキズ等にも対処をしやすいのが魅力です。ただし方法によっては布を当てた部分が分厚くなるので、触れるとリペアがわかるといったデメリットもあります。
5.共布が無くても着物のかけはぎできる?
着物のかけはぎ・かけつぎを依頼する時「共布はありますか?」と訊かれることは多いはず。「共布が無いから無理かも」と心配になってしまいますよね。でも大丈夫です、着物なら、共布がなくてもかけつぎ・かけはぎはできますよ。
【共布とは?】
共布(ともぬの)とは、その衣類を仕立てるときの同じ布のことを言います。新しく洋服を買った時、小さな布がボタンと一緒に入っていたことがありませんか?あれが「共布」です。
着物の場合には、布から着物を仕立てた時に余った布が「共布」として一緒にお渡しされます。お仕立て上がり(プレタ着物)の場合でも、お直しの時ように共布をいただけます。
共布は着物とまったく同じ布ですから、はめこんだ時にも色合いや手触りが同じなのが魅力。自然に穴を塞ぐことができます。また共布をほどいて糸にして、かけつぎに使うこともあります。
裏側や縫込みなどで対応可能
かけつぎ・かけはぎに共布があれば理想的ではありますが、無くても問題はありません。着物の裏側の外から見えない部分から布を取って、その部分を使えば良いからです。
着物はそもそも縫込み部分(布のゆとり)が多い衣類ですので、共布がなくても十分に対応は可能と言えます。
6.かけつぎやかけはぎってバレる?
プロが行った着物のかけつぎやかけはぎは非常に高度な修復技術であり、穴をほとんど目立たなくすることが可能です。しかし「完全に元通りにできる」というわけではありません。
次のような場合には、かけつぎ・かけはぎだけでは修復部分がわかってしまうことはあります。
- 地色が薄い
- 傷(穴)が大きい
- 傷部分の元々の色あせが激しい
- 傷部分の元々の毛羽立ちが激しい 等
しかし着物の修復方法は「かけつぎ(かけはぎ)」だけではありません。その他のリペア技術を組み合わせることで、着物の修復箇所を「見ただけではわからない」程度にまで持っていくことはできます。
色掛けをする
色掛け(いろかけ)とは染色補正技術のひとつで、地色を現在よりも濃い目の色合いに染め直す方法です。地色の色合いを少し変えることで色目の違いを目立たなくさせ、新品同様の姿を甦らせます。
柄足しをする
柄足し(がらたし)も染色補正技術のひとつで、現在の柄に近い柄行を描き足していく方法です。無地の着物にお好みの柄行を描き足すこともできます。
柄を上から描き足すことで修復箇所の布の継ぎ目をカバーすれば、かけはぎをしたことは見た目にはほとんどわからなくなります。、
この他にも、かけはぎ・かけつぎを「バレさせない」対処方法は様々に用意されています。着物の色柄や状態等によっても「バレやすいかどうか」「その対処法」等は変わってくるので、事前によくかけはぎ屋さんと相談することをおすすめします。
7.着物のかけつぎやかけはぎ、自分でできる?
着物のかけはぎ・かけつぎについては、原則としてご自分での対処はおすすめしません。理由は「着物は、見た目にわからないように直すのがとても難しい衣類だから」「失敗するとやり直しがきかない可能性があるから」です。
薄い素材ほど難易度は上がる
かけつぎ・かけはぎは専門的技術なのですが、最近で洋服向けのカンタンな方法をインターネットで公開されている方も多いようです。そんな場合でも言われるのが「かけはぎは薄い素材は難しい」ということ。
かけつぎ・かけはぎは薄く滑らかな素材ほど、難易度が上がります。基本的に着物は薄くて凹凸が少ない布地が多い上に、布の織り方が洋服とは違う方法だったりもします。かけはぎ・かけつぎの中でも、きれいに目立たないように直すのがとても難しい衣類なのです。
未経験者のかけはぎはほぼ「目立つ」
「かけはぎ・かけつぎをやったことが無い」という方の着物の補修はほぼ「修復部分が逆にとても目立つことになる」と考えた方が良いです。
着物のかけはぎ・かけつぎは「和裁」とも異なる専門技術と思った方が良いでしょう。
- 洋服のかけはぎには慣れていて、上手にできる
- 着物は普段着向けのものである
- 万一失敗しても、家の中で着るのでOK
上の条件をすべて満たしているのであれば「自分で着物のかけはぎ・かけつぎをする」もできると思いますが、その他の場合にはプロに任せることをおすすめします。
失敗すると職人でも直せなくなることも
着物のかけつぎ・かけはぎを自分でやって失敗した場合、高い確率で「傷(穴)」は大きく広がってしまいます。失敗して後からお店に持ち込んでも修復料金が上がったり、「かけつぎ・かけはぎだけでは目立つので染めないと無理」となってしまうことも。
最悪のケースが接着剤等を使用されて、「これは対処ができない」と職人さんもお手上げになってしまうことです。「もう直せない」という可能性が出てきてしまうのですね。
礼装着物は必ず専門業者に依頼を
昔はご家庭で着物を縫う方もいらっしゃいましたが、それでも礼装用着物のかけはぎ・かけつぎ等は専門の職人に依頼をされていました。礼装着物は大切なドレスのような着物ですから、万一のリスクを考えても専門の職人に頼ることが当然だったのです。
- 留袖
- 振袖
- 訪問着
- 色無地
- 喪服着物
上記のようなフォーマル向けの着物のかけつぎ・かけはぎについては、すみやかにプロに依頼をされることをおすすめします。
8.着物のかけつぎやかけはぎはどこに頼む?
着物のかけつぎやかけはぎを依頼するお店選びでは「着物専門」で「仲介なし」の店がおすすめです。
着物専門のリフォーム・加工店が安心
「洋服のかけはぎ・かけつぎ」を行うお店で「着物もやります」という店もありますが、できれば「着物専門」のお店をおすすめします。
着物の布地や加工には洋服とは違う独特なものも多いです。またかけつぎ以外の補修が必要になった場合、洋服店舗では着物用の対応ができないことも考えられます。
着物を専門に扱うリフォーム店やかけつぎ・かけはぎの職人さんがいるお店を選ぶと安心です。
呉服店より「専門店」が安上がり
着物を売っている呉服屋さんやデパート(百貨店)でも着物の補修(かけつぎ・かけはぎ)等の依頼は可能です。しかし間に呉服屋さんなどの「販売店」が入ると、その分だけ仲介料(マージン)が発生します。つまりかけはぎ料金が高くなりやすいんですね。
着物の悉皆屋(しっかいや:着物のお直しやクリーニング全般を取り扱う専門店)等、着物の修復のお店に直接依頼をした方が、料金も控えめに収まりやすいです。「コスパ良く着物を直したいな」と思ったら、この点も考慮しておくと良いですよ。
当店『きものサロン創夢』もですが、最近では宅配でかけつぎ・かけはぎの全国対応を行うお店も増えています。お近くに悉皆屋が無い場合には、そのようなお店を選択肢に入れてみるのも手ではないでしょうか。
おわりに
着物は大切にお直しやお手入れをしていけば、何年でも着ることができる衣類です。「穴が空いたからもう無理」と諦めることはありません!ぜひお店に相談をしてみてくださいね。
当店『きものサロン創夢』も、着物のかけつぎ・かけはぎのご相談を受け付けています。「こんな穴も直せる?」といったご相談も、どうぞお気軽にお問い合わせください!