着物に虫食いを発見したら?今すぐ行う7つの対処法
着物の甚大なトラブルの一つが「虫食い」による被害です。虫食い被害は一度起こった時に適切な対処をしないと、被害がどんどん拡大してしまうことも。特に正絹の着物やウールの着物は虫食い被害に遭いやすいので、早めに適切な対処をとることが大切です。
着物の虫食いとは?再発しやすいってホント?
着物の虫食い被害とは、繊維を餌とする虫の幼虫によって着物が食い荒らされ、「穴あき」ができてしまう被害のことを言います。衣類を食い荒らす虫としては、次のようなものが挙げられます。
衣類の害虫の例
- ヒメカツオブシムシ
- ヒメマルカツオブシムシ
- イガ
- コイガ
これらの虫は衣類に「たまご」を産みつけます。幼虫が孵化すると産み付けられた周囲の繊維を食べて大きくなり、成虫になリマス。そのため虫食い被害にあった場所では、孵化した際の抜け殻等が発見されることが多いです。
ウールや正絹が多いが綿麻も虫食いされる
ではどのような着物が虫食いの被害に遭いやすいのでしょうか。大まかな目安としては、次のような順番です。
虫食いに遭いやすい
- ウールの着物
- 正絹(シルク)の着物
- ウール・シルク混紡の着物
- 木綿着物、木綿の浴衣
- 麻の着物
もっとも被害に遭う繊維としては、動物繊維であるウール(羊毛)が挙げられます。害虫たちの大好物なのです。シルク(正絹)は「虫の好物」という程ではありませんが、繊維が細いためやはり被害に遭いやすいです。
また木綿や麻など、天然の植物繊維なども虫食い被害に遭うことがあります。ポリエステル・レーヨンなどの化学繊維を除けば、ほぼ全ての着物が虫食い被害のリスクを抱えていると考えた方が良いでしょう。
着物の虫食いは再発しやすい?
着物の虫食いのトラブルは再発しやすいと言われています。これは症状が見つかった時に、環境対策を行わなかったり、他の着物に対策をしなかった…という人が多いためです。虫食い被害の拡大を食い止めるためにも、着物虫食いらしい症状を見つけたら、できるだけ早く対策を行いましょう。
着物の虫食いを発見したら行う対策7つ
1.衣類を全て保管場所から出し症状確認
「もしかして虫食い?」という着物を見つけたら、まず最初に行うのが「被害にあった着物がしまわれていたタンスやクローゼット全体」の点検です。
虫食いの被害が見つかった時、多くのケースでは、被害にあった一枚だけではなく、その他の衣類にも卵のうみつけが行われています。そのため何よりもまずは「どの程度被害が広がっているのか」を確認することが大切なのです。
衣類を取り出す
虫食いにあった着物に近い場所から衣類を取り出していきます。ヒメマルカツオブシムシなどによる虫食い被害は、着物だけでなく洋服でも起こります。同じ引き出しに入れていた衣類、近い場所に置いていた布製の雑貨なども全て取り出してください。
症状をチェックする
明るい場所で穴あきや卵のうみつけが無いかを確認します。カツオブシムシの卵はとても小さいため視認がしにくいですが、ポツポツと均等に産み付けられているため、無地の部分などだと比較的判別がしやすいです。
2.虫の駆除と保管場所の清掃・換気
虫食い被害があったということは、そのタンスやクローゼットは「虫が生息しやすい環境」であるということです。再発を防ぐためにも、虫を駆除し、また次回に虫が生息しにくい環境にしておく必要があります。
殺虫剤等で虫を駆除
虫食い被害にあった場所では、まだ虫が生息しているケースも多々あります。成虫・幼虫を発見した場合には、速やかにクレゾールなどの殺虫剤などを使って駆除しましょう。
ただし虫を見つけたらからと言って、殺虫剤を直接着物にスプレーしないこと!着物の変色などの原因になってしまいます。
引き出しの中は拭き掃除
引き出しの中の衣類を全て出したら、拭き掃除をして見えない虫の卵を完全に除去します。掃除には通常の家具用中性洗剤などを使用します。
使い終わった雑巾(ぞうきん)は、60℃以上の熱湯で洗い、卵を死滅させます。
木製の引き出しで水拭きが難しい場合には、小さなほうきや掃除機などを使っても良いでしょう。
長時間の換気
虫食い被害が出るということは、その環境が虫が好みやすい状態であるということです。ヒメマルカツオブシムシなどの虫は、だいたい湿度60パーセント以上の環境を好みます。つまり、引き出しの中などが湿気が溜まっていると虫食いが発生しやすいのです。
虫の駆除や拭き掃除を終えたら、引き出しやクローゼットの扉を開けて、しっかりと換気を行いましょう。気候の良い時であれば部屋の窓を開けて空気をよく通します。扇風機の風をあてるのも良いです。雨が降っていたり湿度が高い時期には、エアコンや除湿器を使って除湿します。
除湿剤・防虫剤の見直し
除湿剤や防虫剤は適切に置かれていたでしょうか?いくら除湿剤を置いていても、期限が切れていたり、水分でパンパンになっていては意味がありません。防湿剤や防虫剤は新しいもの、期限が切れていないものに交換を。また適切な置き方ができているか、説明書をよく確認しましょう。
3.ブラシで着物表面を叩く
着物に虫食い被害が一枚でも見つかった場合、同じ場所に保管していた全ての着物には「卵」が産み付けられている可能性が高いです。再発を防ぐために、「卵を払い落とす」または「死滅させる」という作業が必要になります。
まずは衣類用(和装用)のブラシを使って、表面の卵を全て払い落とすようにしましょう。屋外の直射日光の当たらない場所を選んで着物をかけ、全体にブラシを丁寧に当てていきます。ブラッシング終了後には、衣類用ブラシそのものにも金櫛等をかけて、卵が残らないようにします。
4。洗える着物は全て水洗い
保管していた着物のうち、ご自宅で洗える着物については、すべて水洗いを行って、できるだけ虫の卵を洗い落としましょう。
【洗濯機で洗える着物の場合】
- 中性タイプの洗濯用洗剤(おしゃれ着用洗剤)
- 柔軟剤
- 洗濯用ネット
- バスタオル2枚
- 和装用ハンガー
- 着物を本畳みしてから、できるだけ平らな状態になるように洗濯ネットに入れます。
- 洗濯機に適量の中性洗剤と柔軟剤をセットします。
- ドライコースまたは弱流コースなど、ソフトな洗い方のコースで洗濯します。
- 脱水はできるだけ短めに行います。
- バスタオル2枚で着物を挟んでポンポンと軽くたたき、水分を吸い取っていきます。
- 和装用ハンガーまたは物干しにかけて形を整え、直射日光の当たらない場所で陰干しします。
- 長めにしっかりとアイロンをかけ、残った卵を死滅させます。(詳しくは次項で説明します)
【手洗いする着物の場合】
- 型崩れを防ぐために襟元を軽くぐし縫いするか、安全ピンなどで止めておきます。
- 浴槽や洗い桶などにぬるま湯を入れて、洗剤を適量溶かします。
- 着物を全体的に洗濯液に漬け込みます。
- 着物の表面をやさしく撫でるようにしながら洗っていきます。
- 水を取り替えて、2回すすぎます。
- 最後の濯ぎの際に、水に柔軟剤を適量溶かして、全体に行き渡るようにします。
- 洗濯用ネットに着物を入れて、洗濯機で30秒程度だけ着物を脱水します。(デリケートな着物の場合は省略)
- バスタオル2枚で着物を挟んでポンポンと軽くたたき、水分を吸い取っていきます。
- 和装用ハンガーまたは物干しにかけて形を整え、直射日光の当たらない場所で陰干しします。
- 長めにしっかりとアイロンをかけ、残った卵を死滅させます。(詳しくは次項で説明します)
5.しっかりアイロンか専門店のプレス
衣類に産み付けられた卵を死滅させるには、65℃~70℃以上の高温処理が必要です。
たとえ水洗いをした場合でも、繊維の中に卵が残っている可能性はあります。この場合、水だけでは卵を殺すことができないので、虫食いの再発の恐れがあります。水洗いした場合でも洗えない着物の場合でも、ご家庭の場合ではアイロン(スチーム処理)をして卵を死滅させましょう。
衣類のアイロン温度を確認
着物にアイロンをかける際には、その素材が耐えうるアイロンの温度をキチンと確認しましょう。虫食いをする虫の卵を完全に死滅させるには、繊維の内側が65℃以上にしっかりと熱くなる必要があります。ただし着物の繊維や染料によっては、そこまでの高温に耐えられず、変質や変色を起こしてしまうことがあるのです。
洗濯表示などで高温処理ができない繊維については、無理にご家庭でのアイロンがけはしない方が良いでしょう。
いつもより長めにアイロンを
通常ご家庭でアイロン処理を行なっている着物でも、虫食い被害があった場合には、いつもより長めにアイロンをかけるようにしてください。軽く表面を滑らせるだけのアイロンだと熱が繊維の内側にまで伝わらず、卵が生き残ってしまう可能性があります。スチーム処理が可能な繊維であれば、蒸気を当てるスチーム処理の方がより卵をしっかりと死滅させやすいです。
ただし、湿気を残したまま保管しないこと。スチームアイロンを当てた後にはいつもより長めに乾燥させて、内側の湿気を完全に取り去ります。
難しい場合には専門店にプレス依頼
- 高温に適しない繊維である
- 古い着物で脆くなっている
- 刺繍や縫い付けなどの特殊な加工がある
上記のような場合には、ご家庭で無理にアイロン処理を行うと虫の卵を死滅させるより早く、着物がダメになってしまうおそれがあります。このような場合は無理にご家庭で処理をせず、専門店にプレス(アイロン)を依頼した方が良いでしょう。この際には、虫食いの被害があったことはきちんと伝えておいた方が、より的確な処理をしてもらえますよ。
6.着物が大量の場合はお店に相談
「複数の着物が虫食い被害にあっている」「保管している着物が大量にある」という場合だと、少々問題が深刻です。上でも解説した通り、虫食いをする虫の卵を完全に駆除するには、ご家庭では「長めにアイロンをかける」という処理しか対処法がありません。しかし保管している着物の量が多いと、お一人では時間的にも手間としても厳しいというのが実際のところです。
「まとめて着物の虫食いの対処をしたい」という場合には、その旨を悉皆屋(着物のお手入れの専門店)や着物クリーニング店に相談してみましょう。着物に強いお店であれば、虫食いの恐れがある着物をまとめてドライクリーニング + 高温処理する等の方法で適切な対処をしれくれます。
虫食い被害はよくあるトラブルであり、決して恥ずかしいことではありません。「虫食いがあった」ということは正直に相談してくださいね。
7.穴の開いた着物は「かけはぎ」か「かけつぎ」
虫食いにあった着物はもう着られない?とお考えになってしまう人も多いのですが、そんなことはありません。日本では昔から「かけつぎ」「かけはぎ」という着物の修復方法があります。現在でも専門の職人が、穴あきやほつれなどができてしまった着物を、手作業で丁寧に修復しているのです。
「かけつぎ」「かけはぎ」では、共布などの同色・同柄の布を裏から当てて、穴を目立たないように塞いでいきます。もちろん完全には穴を無くすことはできませんが、穴の状態や柄などによっては、ほとんど目立たない状態にできることも。「大切にしていたお着物をまだ着たい」という人にはピッタリです。
かけはぎ・かけつぎはプロにおまかせ
「かけはぎ」や「かけつぎ」は、着物加工の専門店で依頼することができます。悉皆屋である当店『きものサロン創夢」でも、虫食いなどで穴が開いて閉まった着物について、補修などのご相談を承っています。「虫食いで穴あきができてしまったけど、まだ着たい!」と思う着物があったら、お気軽にご相談くださいくださいね。
おわりに
現代の便利な洋服類ではレーヨン、ポリエステルなどの化学繊維を身につける方が多く、ウールやシルクなどの天然繊維は普段身につけないという方がほとんどです。その分だけ天然繊維につきものの「虫食い」の被害がピンと来ないという人が増えました。
虫食いの被害の困るところは、被害が一枚だけでなく、その他にも拡がってしつこく被害が繰り返されるという点です。「もしかしてコレが虫食い?」と思われる症状を見つけたら、できるだけ早く着物の虫食い対処法を行いましょう。アイロンがけなどが難しいなというときには、お気軽に着物のプロである当店にもご相談ください。