絶対やらないで!着物の油溶性汚れにNGのシミ抜き対策とは
着物の油溶性汚れとは、オリーブオイルやゴマ油のシミ、ファンデーション、口紅の汚れや皮脂汚れ等、油分がたっぷりで水分をほぼ含まない汚れのことを言います。「油汚れは手強い!」というのは知っている人がほとんどですよね。そのため、早くシミ抜き等の対処をしようと焦ってしまうことが多いようです。
でも着物の油溶性汚れに焦って適当なシミ抜きをするのは絶対にNGなんです!間違ったシミ抜き対処法を取ると、汚れの範囲が広がったり、取れない汚れになってしまうことも。
着物の油溶性汚れシミ抜きでよくある間違い3つ
着物に油溶性汚れが付いた時、気をつけたいシミ抜きの対処法としては「応急処置での間違い」「ご家庭での洗濯の間違い」そして「クリーニングでの間違い」が挙げられます。
1.濡れタオルで応急処置をする
着物についた油汚れ、早く取ろうと手近なおしぼりや濡れタオル等で応急処置しようとしていませんか?
油溶性汚れは「水」には溶けませんので、濡れタオルでのシミ抜き対処は効果がありません。水で濡らすのももちろんNGです。
水で濡らすと油汚れが溶けずに広がって、シミの範囲がどんどん大きくなってしまいます。油溶性汚れを外出先で応急処置する場合には、ティッシュペーパー等でそっと吸い取るだけにしておくのが一番なんです。
2.中性洗剤で洗うだけ
自分で水洗いができる着物の場合、縮みにくくて色落ちもしにくい中性タイプの洗濯洗剤(おしゃれ着洗い用洗剤)を使うのが基本ですよね。この洗剤選びは正解なのですが…油溶性汚れのシミ抜きのときには「おしゃれ着洗い洗剤で洗うだけ」というのは不十分なんです。
中性タイプの洗剤は、素材へのダメージを穏やかにしている分、洗浄力はそこまで強くありません。油溶性汚れを分解しきれないので、洗っても「油シミ」が残ってしまうのです。
3.「丸洗いクリーニング」に出す
ではクリーニングに出せばよいか?というと、これも必ずしも正解ではありません。一般的な着物クリーニングは「丸洗いクリーニング」といって、全体を機械で洗う洗浄方法です。
これで落ちるのは、油溶性汚れの中でもごく軽い汚れだけです。
ごく小さくて新しいシミであれば丸洗いだけで落ちる可能性もありますが、機械洗浄だけだと汚れが残ってしまう可能性も。一見して汚れが目に見えなくても、汚れ成分が繊維に残っていて、後からシミが浮いてきてしまうことがあります。
着物の油溶性汚れはベンジンで対処
では着物に油溶性汚れが付いたらどのようにシミ抜き対処をしたら良いのでしょう?ご家庭でシミ抜きする場合に便利な存在が「ベンジン」という揮発油です。薬局やドラッグストア等でも手軽に買えます。
皮脂汚れを落とすのにも役立つので、ベンジンを使ったお手入れ方法は知っておいてソンは無いですよ。
用意するもの
- ベンジン
- 柔らかい布
- 汚れても良いタオル
- 着物用のハンガーか物干し
- 中性タイプの液体洗剤、台所用洗剤(水洗いできる着物の場合)
※汚れの状態によっては家ではシミ抜きできないことがあります。下の項目もすべて読んでから準備・作業に入りましょう。
※ベンジンが揮発し刺激のある成分が空気中に飛び散ります。作業中には必ず換気をしましょう。
※ベンジンは引火性です。ライターやストーブ等の火器類は作業中に絶対に使わないでください。
※ベンジンで色落ちや変色が起きる可能性があります。不安な場合には、共布・裏の目立たない場所等を使って変色テストしておくことをおすすめします。
シミ抜きのやり方
- 汚れても良いタオルを下に敷いておきます。
- 着物をタオルの上に広げます。
- 柔らかい布にベンジンをたっぷりと染み込ませます。
- 汚れがある部分を、布で優しく叩いていきます。
- 汚れが少しずつ溶けて、タオルや布に移ります。
- 汚れが取れたら、もう一度柔らかい布をしっかりとベンジンで濡らします。
- ベンジンで濡れている範囲を広げるような感覚で、輪郭をぼかしていきます。
- 水洗いができる着物の場合には、この後すぐにシミ部分を水で濡らし、さらに中性洗剤(丈夫な着物なら台所洗剤)を塗って馴染ませて洗います。シミ抜きが済んだら、全体を中性洗剤で仕上げ洗いして乾かしましょう。
- 水洗いできない着物の場合には、そのまま着物用のハンガーにかけて乾燥させます。乾燥中もベンジンが飛散するので、換気は続けておきましょう。
※ベンジンを含ませた布で強くこすったり、同じ部分を何度も繰り返してシミ抜きするのは止めましょう。摩擦で生地が傷み、表面が白っぽくなるとダメージが元に戻らなくなります。
※シミをぼかす工程を飛ばすと、ベンジンで濡れた輪郭がクッキリと残る「輪ジミ」が発生します。ていねいにぼかす作業を行いましょう。
落ちない汚れは専門店で「シミ抜き」を
着物についた油溶性汚れが次のような場合には、残念ながら自分ではシミ抜きができません。
大きなシミ・汚れ
ベンジンで対処できるのは直径1センチ程度までのシミまでです。直径2~3センチを越える汚れはベンジンで溶かしきれず、汚れが残ってしまう可能性が高いです。
色素が多い汚れ
口紅等、色素がたっぷりと含まれている汚れの場合、ご自宅では汚れが取り切れないことがあります。
時間が経過した汚れ
ベンジンで溶かし出すことができるのは、付いてから最長でも数日程度のシミまでです。汚れが付いて数週間も経過していたり、いつ付いたかわからないシミは、汚れが繊維にしっかり定着しており、ベンジンだけでは落とし切ることができません。
後から目立ってきたシミ
最初は汚れているように見えなかったのに、タンスから出したらシミが浮き上がってきたーーこのようなシミは、繊維に残っていた汚れが酸素と結びついてできた「酸化シミ(変色シミ、黄変)」です。
酸化シミはご自宅では一切の対処ができません。できるだけ早く、着物に強いお店に相談しましょう。
皮脂による黒ずみ
皮脂汚れは、付いたばかりならばベンジンでも対処ができます。しかし時間が経ってロウのように固まってしまった黒ずみは、ベンジンでは取り去ることができません。
【シミ抜きで汚れをスッキリ!!】
着物に付いた油溶性汚れが上のような場合には、クリーニングの丸洗いだけでなく「シミ抜き」を依頼しましょう。「シミ抜き」では専門の職人が、手作業で汚れをキレイに取り除いていきます。
クリーニングに出す際には、シミの原因をキチンと伝えておくのも大切。シミの原因がはっきりわかることで、職人さんもより適切なシミ抜き対処をしてくれますよ。
おわりに
着物についた油溶性のシミを専門店でシミ抜きする場合、料金は「シミの大きさ」で決まることが多いです。1センチのシミのシミ抜きより、2センチのシミの方が落とすのが大変だから、料金が高くなる…というわけですね。
着物についた油溶性シミを落とそうと焦って応急処置を謝ったりすると、シミがどんどん広がって、後から専門店でシミ抜きする時の料金が上がってしまった!ということもあります。実はこれは、ベンジンでも起こりうるリスクなんです。
部分的なシミ抜きであれば、リーズナブルな料金で対処してくれるお店もたくさん。「ベンジンでうまく落とせるかな…」と不安な場合には、早めにクリーニングでのシミ抜きを相談した方が良いかもしれません。