着物の唾・よだれのシミの対処は?2つのシミ抜き方法
「着物にツバが飛んでしまった……」こんな経験がある人も意外と多いのではないでしょうか。また、小さな赤ちゃんやお子様と居る時だと着物によだれがついてしまうということもありますよね。
着物についたツバやよだれのシミについては、体液に含まれる成分によってシミ抜き方法等が変わってきます。また着物の種類やシミの状態によっては自宅でシミ抜き処理できないこともありますので、きちんと見分けることも大切です。
一般的な唾のシミ抜き方法
着物についた唾(ツバ)が、「会話中にツバが飛んでしまった」といった一般的なツバである場合、その汚れは水に溶けやすい「水溶性の汚れ」です。そのためご家庭での着物のシミ抜きでは、水洗いの工程が必要になります。
まずはお持ちの着物が水洗いに対応しているかどうか、洗濯表示やメーカーの推奨を確認してみましょう。
※素材がポリエステルや木綿・麻等の着物でも、特殊加工がある着物や水洗いで風合いが落ちる着物は「水洗いNG」となっていることがあります。必ず洗濯表示やメーカー指定をご確認ください。
※シミの状態によっては、ご家庭でのシミ抜きでは汚れが落ちない場合があります。このページの「家では対処できない唾・よだれのシミとは」も確認しておきましょう。
用意するもの
- 中性タイプの洗濯洗剤:液体タイプ(エマール、アクロン等)。酵素入、蛍光剤入のものや、弱アルカリ性の洗剤は使えません。
- 洗濯用ネット:畳んだままで平らに着物が入る大きいサイズを選びます。
- バスタオル2枚:さわり心地が柔らかく色が薄いものが理想的です。
- 着物ハンガー:和装専用のハンガーは、一本の棒のような形になっています着物を干せる場所であれば、物干し竿でも構いません。洋服ハンガーは衿・肩の型崩れの原因となるので使わない方が良いです。
- アイロン、アイロン台:スチーム・ドライが選べるもの
シミ抜きの手順
- 水を浴槽や洗面ボウル等にためて、洗濯用中性洗剤を適量溶かしておきます。
- 着物はツバのシミがついた部分が表になるようにして畳んでおきます。
- シミがある部分に水を少しかけて濡らしてから、中性洗剤の原液を少量つけて、優しく撫でるように洗います。
- 着物をネットに入れて、1)で作った洗濯液の中に全体を沈め、両手で優しく押すように洗います。
- 水を取り替え、2回すすぎを行います。この時も優しく押すようにして洗いましょう。
- 洗濯ネットに入れたまま洗濯機に入れて、30秒程度脱水させます。(シワ・型崩れが不安な場合はこの工程は飛ばしてOKです)
- バスタオル2枚で着物をはさみ、優しく抑えるようにして水分を取ります。
- 着物専用のハンガーにかけて干します。直射日光があたる場所は色あせの原因になるので避けましょう。室内干しの場合、扇風機等で風をあててもOKです。
- 乾いたらシミの状態をよくチェックし、キレイになっていたらアイロンがけをして仕上げます。
注意するポイント
※シミ抜きに温かいお湯は使わないでください。ツバに含まれるタンパク質がかたまり、取れにくい汚れになってしまいます。
※シミがある部分を強くつまんだり、こすりあわせるのは止めましょう。スレという色が白っぽくなる現象や、色落ち等の原因になります。
※アイロンがけはシミが取れているかどうか十分に確認してから行いましょう。
赤ちゃんのよだれ・食事中の唾のシミ抜き方法
着物についた汚れが「赤ちゃんのよだれ」だった場合や、大人のツバでも食事中だった場合には、対処法が少し違ってきます。
赤ちゃんのよだれには母乳が多く含まれていますよね。この母乳、実は乳脂肪分(油分)やタンパク質成分がとても多いのです。水性汚れと油性汚れの両方の性質を持つ「混合性の汚れ」なのですね。
そのため一般的なツバのシミ抜きをするだけでは汚れが落ちきらず、シミが残ってしまうことがあります。
大人の食事中のツバも同じです。お料理の中には様々な油分も含まれており、ツバにはその油分が混じっている可能性が大。先にしっかり油分を分解しておかないと、油染みが浮いてくる可能性があるというわけです。
なお、赤ちゃんのよだれ・食事中のツバのシミ抜き方法でも、残った水性汚れを落とすために水洗いは必須です。お持ちの着物が水洗いに対応しているかどうか、洗濯表示やメーカーの推奨を必ずご確認ください。
用意するもの
- ベンジン:クリーニング用のもの(カイロ用はNG)
- タオル:汚しても良いもの
- ガーゼか古い布:汚しても良いもの
- 中性洗剤:洗濯用の液体タイプ。おしゃれ着用洗剤
- 洗濯用ネット:畳んだ着物が入るサイズ
- 着物専用ハンガー:物干し竿でも代用可
- アイロン:シワがきちんと伸ばせるもの。スチームのみは不向き
事前準備
- 敏感肌の人はゴム手袋等で肌を保護しましょう。
- ベンジンでの作業中は必ず窓を開けるか、換気扇を回して換気をします。
- ストーブ、コンロ、ライター等の火器類を止めます。ベンジンでの作業中は火気厳禁です。
- 着物の素材や染料によっては色落ち等が起きる可能性があります。裏側等の目立たない場所にベンジンをつけて軽く叩き、テストしておきましょう。
シミ抜きの手順
- タオルを敷いてから、着物を広げて上に置きます。
- ガーゼまたは古い布に、ベンジンをしみこませます。
- ツバのシミがついた部分を軽く叩いていきます。
- 汚れが下に落ちるので、ガーゼやタオルを動かし、常にキレイな面で作業をするようにします。
- 汚れが落ちたら布にもう一度ベンジンを含ませて、輪郭をぼかすように叩いていきます。衿等の場合には、衿全体(縫い目の部分まで)にベンジンを塗り拡げても構いません。
- 上の1.の「一般的なツバのシミ抜き」と同じ工程で、中性洗剤を使ったシミ抜き・水洗い・すすぎ・乾燥を行います。
注意するポイント
※ベンジンで強くこすらないようにしましょう。生地が白っぽくなる「スレ」、毛羽立ち等の原因になります。
※「ぼかし」の作業は丁寧に行いましょう。ぼかしが十分でなかったり、汚れが残っていると「輪ジミ」の原因になります。
※ツバのシミの場合、水洗いの工程は必要です。ベンジンのみでシミ抜きを終わらせると汚れの成分が残り、変色やカビの原因になります。
家では対処できない唾・よだれのシミとは?
着物の種類やシミの状態によっては、ツバ・よだれのシミに対して家ではシミ抜き等の処理ができないことがあります。
水洗いNGの着物
正絹(シルク)の着物等、水洗いができない着物はご自宅ではツバのシミの自己処理ができません。
時間が経ったシミ、古いシミ
着物についたツバ・よだれのシミは、付いてから時間が経って乾くとタンパク質が固まり、家では落ちない頑固なシミになります。
カビが生えている、変色している
ツバ・よだれのシミは長く放置しているとカビが発生したり、変色ジミになってしまいます。これは自宅では処理ができません。
上のような着物やシミの状態の場合には、早めに専門店に相談をしましょう。
おわりに
着物についたツバ・よだれのシミは、一般的な洋服クリーニング店等だと「落とせない」とお断りされてしまうケースも多いようです。
着物のお手入れの専門業者である悉皆屋(しっかいや)では、このような対処の難しいシミのシミ抜きも承っています。着物についたツバやよだれのシミでお困りの時にはお気軽にご相談ください。