長襦袢のしみ抜き方法は?キレイにする5つのポイント
着物のしみ抜き方法については、最近ではインターネットでも様々な情報を手に入れることができますね。しかしそれに比べて、長襦袢のしみ抜き方法についてはあまり情報が無いようです。
インナーである長襦袢は、着物を着る上で欠かすことができないアイテム。汚れが付くのは着物以上ですから、長襦袢のしみ抜き方法や対策を知りたいという方は多いのではないでしょうか。
1.長襦袢の素材とシミの種類を特定します
素材は正絹?ポリエステル?
長襦袢は素材によってお手入れの難しさが変わってきます。ポリエステル素材の場合ですとお手入れは比較的カンタンですが、正絹(シルク)の場合はとても縮みやすいので、しみ抜き等のお手入れが難しいです。
万一、長襦袢を縮ませてしまうと、袖から見える長襦袢の長さが足りなかったり、裾から見える長襦袢が短すぎて「みっともない!」となってしまう可能性もあるわけですね。
ご自宅で長襦袢をケアできるケース
- ポリエステル素材
- カジュアルシーンで着る長襦袢
- 失敗して多少縮んでもOK
- お手入れの練習用の長襦袢
専門店でケアした方が良いケース
- 正絹(シルク)素材
- 留袖や振袖等のフォーマル向けの長襦袢
- 長襦袢のケアはこれが初めて
長襦袢の素材の他、フォーマル向けなのか軽いオシャレ着なのか、最悪失敗しても大丈夫か?という点を判断の要素にすることをおすすめします。
シミの種類は油溶性?水溶性?
シミの種類は油溶性か水溶性かで、しみ抜きの対処法も変わってきます。シミの原因を思い出し、特定しましょう。
油溶性のシミ・汚れの例
- マヨネーズ・ドレッシングのシミ
- 化粧品のシミ
- ステーキのハネ 等
水溶性のシミ・汚れの例
- 汗の汚れ
- コーヒーのシミ
- ワインのシミ 等
なおシミの原因が不明の場合には、自宅でお手入れするのは避けた方が無難。原因特定も含めて、専門店におまかせした方がキレイになります。
シミは付いたばかりですか?
長襦袢のシミのうち、自宅で落とすことができるのは「付いたばかりのシミ」までです。付着してから時間が経って乾き定着したシミは落とすことができません。
また、次のようなシミについては、酸化による「黄変ジミ」と考えられます。
- いつのまにかできたシミ
- 色が黄色・薄茶色・焦げ茶色
- 背中、脇、帯の位置に広がっている
- 輪染みのようになったり、シミが散らばっている
これらのシミについてはポイントの「5.」で詳しく解説しているので、ご参照ください。
2.油溶性シミは「ベンジン」でしみ抜き
長襦袢の油溶性のシミには、油から生まれた溶剤である「ベンジン」を使用します。ベンジンは揮発性が高いので長襦袢を濡らしても乾くのが早く、正絹の長襦袢等でも比較的縮みにくいのが魅力です。
準備するもの
- ベンジン
- 古いバスタオル(汚れても良いもの)
- ガーゼか布
- 着物専用のハンガーか物干し竿
※作業中は必ず換気をしましょう。密閉された空間で作業をしないでください。
※作業中はライターやコンロ、ストーブ等の火器類の使用はNGです。
ベンジンを使ったしみ抜き方法
- 汚れても良いバスタオルを下に敷いておきます。
- 長襦袢を広げます。
- 古い布やガーゼにベンジンをたっぷりと染み込ませて、汚れのある部分を上から軽く叩くようにしていきます。
- 汚れが下に落ちていくので、常にキレイな面をあてるようにして動かしながら汚れを取り除いていきます。
- 汚れが完全に取れたら、もう一度布にベンジンをたっぷりと染み込ませて、濡れた部分の輪郭がわからないようにぼかしていきます。
- 着物専用のハンガーか物干し竿にかけて形を整え、十分に乾かします。
※「ぼかし」をしっかりと行わないと「輪染み」になることがあります。十分にご注意ください。
※ポリエステル製製品の場合や、着物着用時に汗をかいた場合には、この後に「水溶性のしみ抜き」のお手入れも加えることをおすすめします。
3.水溶性シミは「中性洗剤」でしみ抜き
汗でびっしょりと濡れた場合や、コーヒー・紅茶・ワイン等の水溶性のシミが付いてしまった場合には、中性洗剤を使って水洗いをします。
準備するもの
- 中性洗剤(液体タイプ・おしゃれ着洗い用のもの)
- 洗濯用ネット(畳んだ長襦袢が入るサイズ)
- 柔軟剤
- 洗面器等の容器
- アイロン(浮かせて蒸気をあてるスチームアイロンは不可)
- アイロン台
- 着物専用のハンガーまたは物干し竿(洋服用ハンガーはNG)
※項目1.で解説したとおり、正絹の長襦袢は水で濡らすと10%~15%近くも縮みます。アイロンのかけ方によっては、縮みが元に戻りません。作業は自己責任で行ってください。初めての場合は、失敗しても良いもので練習することをおすすめします。
※特殊加工がある長襦袢、「しぼり」の長襦袢等は水洗いができません。
※染料によっては色落ち・変色が起きることがあります。事前に目立たない場所で変色テストを行っておきましょう。
中性洗剤を使ったしみ抜き方法
- 半襟は事前に外しておきます。(半襟が外せない、外し方や付け方がわからない場合は専門店に依頼しましょう。)
- 洗面器に水を入れて、中性洗剤を適量入れて溶かします。
- 長襦袢を畳んで、静かに洗面器の中に入れ、上から両手で優しく押して「押し洗い」をします。
- シミがあった箇所には、直接中性洗剤の液剤をつけて、ごく優しくつまみ洗いをします。
- 洗剤の入った液を捨てて、水で濯ぎます。強く絞らないようにしましょう。
- 洗面器に水を入れて、柔軟剤を溶かします。
- 畳んだ長襦袢を入れて、全体的に柔軟剤をなじませます。
- もう一度水でよく濯ぎます。
- 洗濯ネットに入れて、洗濯機で40秒程度脱水します。
- 濡れた状態の長襦袢をアイロン台に広げます。
- アイロンを低音にあたためて、生地をひっぱりながらアイロンをかけていきます。特に正絹の場合には強めに力を入れながらアイロンをかけます。
- 縮みが改善し、半乾き程度になったら、着物専用のハンガーか物干し竿に長襦袢をかけて、しっかりと形を整えます。
- 直射日光のあたらない場所で、自然乾燥させます。
※半襟を付けたまま洗わないでください。半襟の形が崩れてもとに戻らなくなります。
※シミが落ちきらない場合でも、強くこすり合わせずに優しく洗いましょう。摩擦で色があせたり、布地が傷む原因になります。
※直射日光のさす場所で長襦袢を干すと色あせします。日光が直接あたらない場所で乾燥をさせましょう。
4.長襦袢のしみ抜きが難しい時には専門店へ
- 長襦袢の素材がよくわからない
- 振袖用・留袖用等の大切な長襦袢
- 半襟の外し方・付け方がわからない
- シミの原因がよくわからない
上のような場合には、ムリに自分で長襦袢をしみ抜きするよりも、プロの手に任せた方が安心です。ただシミ・汚れがある長襦袢のお手入れは、どのお店でもできるわけではありませんので、お店選びには気をつけましょう。
しみ抜き・汗抜きができる専門店を
石油溶剤を使った機械洗い(着物丸洗い等の一般的なクリーニング)だけでは、長襦袢のシミや汗汚れ等はキレイに落とすことができません。
- 職人が手作業で行うしみ抜き
- 汗の汚れに特化した汗抜きや水洗い
上のような手間のかかるお手入れにも対応できる「着物専門」のクリーニング店や、着物の総合的なお手入れに対処できる「悉皆屋(しっかいや)」に依頼をすることをおすすめします。
5.長襦袢の黄変シミはしみ抜きできない?
- 久しぶりに出した長襦袢にシミがある
- シミの色が黄色・薄茶色・焦げ茶色
- 輪染みのようなシミになっている
- あちこちにポツポツとシミができている
- シミの原因がよくわからない
- 背中・脇等、よく汗をかく場所にシミが多い
上のような長襦袢のシミは、汗に含まれるミネラル成分が長い時間を経て酸化することでできた「黄変(おうへん)」という古いシミです。
「着物の黄変のシミ」は、比較的新しいものであれば専門店で漂白・色掛け等をして対応することができます。しかし、残念ながら長襦袢の黄変シミは専門店でも取ることができません。
長襦袢の布地は薄くデリケートなので、漂白等の作業に耐えることができないのです。「この長襦袢のシミが黄変なのかどうかわからない」という時には、一度専門店に相談してみましょう。
おわりに
長襦袢のしみ抜き等のお手入れ方法はお役に立ちそうでしょうか?半襟を外したり付けたり、アイロンを丁寧にかけたり……と、長襦袢のしみ抜きやお手入れには意外と手間がかかりますね。
でも当店の場合には、半襟を付けたままでもクリーニングに出していただいて問題ありません。「長襦袢のお手入れ、難しそうだな」「長襦袢を長持ちさせたい」と思った時には、お気軽にご相談ください。