帯のしみ抜きは自分ではムリ?3つの理由と対策
「帯を汚したけれど自分でしみ抜きできないかな」と周囲に聞いてみたのに「帯は止めておきなさい」「プロに任せなさい」と言われた……こんな経験がある人、多いのではないでしょうか?ちょっとしたお出かけ用の小紋のしみ抜きは家でできるのに、どうして帯のしみ抜きはやってはいけないのか、不思議ですよね。
帯のしみ抜きが自分でできない3つの理由
「帯のしみ抜きはご自分ではやらないほうが良い」と悉皆屋(着物のしみ抜きの専門店)が言うと、「それは自分の商売にしたいからでは?」と思われる方もいることでしょう。でもこれは、かなりの誤解なのです。
例えばお着物であれば、ご自宅でしみ抜き等のケアができる製品もありますし、当店でもそれらの情報をご紹介しています。でも「帯」については、少々事情が異なるのです。帯のしみ抜きを自分ではやらない方が良い!と多くの人が言うのには、それなりの理由があります。
1.帯芯がダメになりやすい
帯にはいくつかの種類がありますが、「袋帯(ふくろおび)」や「名古屋帯(なごやおび)」には「帯芯(おびしん)」が入れてあります。帯芯とは、帯の中に入れて縫い付けてある芯材のこと。帯の硬さをを調節しシッカリとさせて、形が整うようにしてあるのです。
女性用のインナーですと「ワイヤー」が入っているものがありますよね。帯芯はそれと似たような役割をしています。ただ金属製のワイヤーとは違って、帯芯は「しっかりとした布」で作られています。ご自宅でのしみ抜きでは、この「帯芯」をケアすることができないのです。
例 帯がワインで汚れた場合
- 帯芯にまで汚れが到達していた
- 表地のしみ抜きをしようとして帯芯まで濡らしてしまった
上の場合のいずれも「帯芯からカビが生える」「帯芯から黄変が起きる」といったトラブルの原因になります。カビが生えると帯全体のカビ臭さが目立つだけでなく、帯表面にもカビによるシミができます。さらに最終的には黄変という濃い酸化シミに進化して、帯の布自体をダメにしてしまうのです。
帯芯が濡れたかどうかは、表面からではカンタンに判断することができません。ご自分で帯のしみ抜きをした結果、半年~1年経過頃から「帯からカビくさいニオイがして取れない」「黄色いシミが浮いてきた」…こんなケースが珍しくないのです。
2.刺繍や先染め製品が多い
「着物」のしみ抜き方法でも「刺繍の部分は自分でしみ抜きしないでください」「先染め製品にはベンジン等を使わないでください」といった注意書きを見たことがある人も多いのではないでしょうか。
刺繍の部分は様々な糸が使われているので、濡れた時の縮み方(収縮率)や色落ちしやすい成分等がそれぞれ違います。一度濡れてしまうと刺繍の形が元に戻らなくなったり、一色だけが色落ちしてしまうといったトラブルも多いです。
また先に染めた糸で織った織物生地も、濡れるとその部分だけが変質しやすいという特徴を持っています。濡れた部分だけゴツゴツになったり、輪染みになったりしやすい……というわけですね。
帯は「先染め」による織物製品や、刺繍が入った製品が多い傾向にあります。つまり帯は着物に比べて、「輪染み」や「部分的な変質」といったセルフしみ抜きの失敗・トラブルが起こりやすいのです。
3.リカバリーがしにくい
「自分でしみ抜きをしたけれど失敗して輪染みになった」「毛羽立って白っぽくなってしまった」……着物のケアの専門店である悉皆屋には、このような「セルフケアに失敗した着物」が持ち込まれるケースもよくあります。
ただ帯の場合、一度ご家庭でしみ抜きに失敗すると、専門店でも表面的なケアでは帯を元に戻すことができません。
例えばカビが生えている可能性が高い場合、一度帯をほどいて水洗いをして、さらにカビ取りをして……といった大掛かりな作業が必要になります。その分だけ帯のしみ抜きの料金も高額になってしまうわけです。
さらに帯の場合、「専門店でも帯を元に戻せない」というケースが考えられます。大切で高価な帯、着物と合わせて誂えた帯が、たった一度の手違いでダメになってしまう可能性も否定できません。
帯は「汚れ予防」「濡れ予防」を大切に
上で解説したとおり、帯は一度シミを作ったり濡らしたりすると、その後のケアが大変になってしまうアイテムです。ですからまず「帯を汚さない」「濡らさない」ための予防対策が大切になります。
「水が出る場」では帯上からカバーを
帯にシミが付きやすいシーンとしては、次のようなものが考えられます。
- 披露宴や同窓会等「会食」での食事のシミ、飲み物のシミ
- カフェ・お茶会等「お茶」での飲み物類のシミ
- トイレでの「手洗い」の水はねシミ
カンタンにまとめれば「水が出るシーンでは帯のシミに要注意!」というわけです。
大きめのバンダナや手ぬぐいでカバー
飲食をする時やトイレ、手洗い等をする時には、大判の和柄バンダナや手ぬぐいを帯の上側から挟ませて垂らし、固定するようにして、帯の前側が隠れるようにしておきましょう。レストランでのお食事の時であれば、ナフキンを使っても構いません。
ただ着物に慣れない方の場合、知らないうちにバンダナや手ぬぐいが外れてしまうこともよくあります。ご不安な方は、小さいクリップ等を使って固定しておくと安心です。
道行や雨コートの準備を
帯にシミができやすいもうひとつの理由は、「雨」や「雪」によるものです。正絹(シルク)でできた繊細な帯は、雨に濡れただけで輪ジミだらけになってしまうことがあります。
成人式や結婚式等の大切なお出かけの日は「天気が悪いから」と予定を変えるわけにはいきませんよね。着物を購入なさったら、ぜひ早めに「道行」や「雨コート」の準備もされることをおすすめします。
移動時には雨コートを一枚羽織るだけで、着物や帯の雨染みを大幅に防げるのです。最近ではナイロン製のリーズナブルな製品も登場していますから、ぜひ早めにチェックしておきましょう。
帯に汚れたときはどうすればいい?
では「気をつけていたけれど、帯にシミができてしまった」という時にはどうしたら良いのでしょうか?
職人による手作業ができる専門店を
帯のシミを取るには、職人による手作業でのしみ抜き等の工程が必要です。「きもの丸洗い」等、機械による全体的なクリーニングでは、帯のシミは落とせません。
「着物丸洗いはやるけれどしみ抜きができない」「帯の受け入れはやっていない」というクリーニング店は意外と多いです。和装専門であり、なおかつ職人による作業が可能であると明記しているお店を選びましょう。
「カビ取り」や「洗い張り」に対応したお店を
帯の汚れや濡れによるトラブルの場合、次のようなケアが必要になるケースも多いです。
カビ取り:帯をほどいて芯地の状態を確認、カビが生えている部分はカビを除去、オゾンでカビの再発を防ぐ、状態によっては芯地の取替
洗い張り:帯をほどいて反物の状態に戻し、水洗いをしてから板貼りや糊付けをして、再度帯の状態に仕立てる
着物クリーニングや着物ケアのお店のホームページを見て、「カビ取り」や「洗い張り」等の対応をしているかどうか確認してみましょう。
おわりに
帯は適切にケアをすれば一生使うことができ、さらに子・孫と、三世代にも渡って使い続けられるものです。しかし一度お手入れに失敗して帯芯を濡らしたりカビを生やしてしまうと、大切な帯を使っていただけなくなってしまうこともあります。
「目立たない部分だから」「小さなシミだから」と後回しにせず、ぜひ帯のシミについては早めに専門店に相談しましょう!もちろん当店でも帯のしみ抜きやその他のケアを承っていますので、お気軽にご相談ください。