絹(シルク)の着物のシミ抜きは失敗しやすい?絶対禁止の5つの方法とは
着物の素材の中でも有名なのが絹(シルク)ですね。100%絹で作られた生地は「正絹(しょうけん)」と呼びます。また、絹と化学繊維等との混紡素材も見られます。留袖や振袖等の礼装用のフォーマル着物の場合、正絹で作られていることが多いです。
さてこの絹の着物、シミ抜き等のお手入れがなかなか難しいものです。洋服等の感覚でシミ抜きをしてしまうと、縮んだり変色したり、着物を元に戻せなくなってしまうこともあります。正しい知識を身に着けて、大切な着物をキチンとお手入れしましょう!
絹の着物を水で濡らしてシミ抜き
絹の着物のシミ抜きで一番避けるべきなのが「水を使うこと」です。Tシャツ等の一般的な洋服であれば、水で少し湿らせたり、洗剤を溶かした水等を使ってシミ抜きをしたり、全体的に水洗いをすることもありますよね。しかし絹の着物では、このようなシミ抜き方法は絶対に行ってはいけません。
着物が濡れた部分だけ縮む
絹(正絹、シルク)は、濡れるのがとっても苦手な素材です。絹は水で濡れると、その部分が縮んでしまいます。乾いてもその縮みは元には戻りません。
乾いた部分と濡れた部分では収縮率が違うので、濡れた部分だけが色が変わったように見えてしまうことが多いです。これを「水シミ」と言います。
つまり汚れを取ろうとシミ抜きをした結果、水を使うことで別の「水シミ」を作ってしまう結果になるのです。
濡らしたタオルも使わない方が良い
絹の着物のシミ抜き方法について、「水で濡らしたタオルを固く絞って叩く」という方法が案内されていることも多いですね。この方法、着物のシミ抜き等のお手入れに慣れている人であればある程度大丈夫……ということもあるので、案内されているのでしょう。
しかし次のような方は、絞ったタオルでの絹の着物のシミ抜きは避けておいた方が良いと言えます。
- 着物のシミ抜きをしたことがない
- 留袖・振袖・訪問着等のフォーマル着物をシミ抜きしたい
- シミの範囲が5ミリ以上ある
- シミの原因がわからない
タオルの絞り加減や叩き方等によっては、水シミになったり、汚れが広がる可能性が高いです。専門店で後から本格的にシミ抜きすることになった場合、水シミ等になっているとシミ抜き料金は一気に上がってしまいます。
絹の着物を原因確認せずにシミ抜き
自分で絹の着物のシミ抜きを行う場合、使えるのはベンジン(揮発油)等の石油系の溶剤です。ベンジンは水を一切含んでおらず、また乾くのがとても早いという性質を持っているので、絹の着物等のお手入れに比較的合っています。
ドラッグストアや薬局で数百円程度で買える手軽さも、良い点と言えるでしょう。ただしベンジンは万能シミ抜き剤ではありません。落とせる汚れは「油溶性の汚れ」に限られます。
油溶性以外の汚れを家でシミ抜きしても、汚れは落ちきりません。また原因不明の状態でシミ抜きをするのもNGです。汚れが広がったり、変色する可能性が考えられます。
汚れの原因と性質の違い
シミの4つの汚れの性質と、代表的なシミの原因をご紹介します。
油溶性の汚れ
油脂系の成分が多く、油に溶けやすいシミのことです。
- オリーブオイルのシミ
- ファンデーションのシミ 等
水溶性のシミ
水分がほとんどで、水に溶けやすいシミのことです。
- お茶のシミ
- コーヒーのシミ
- お酒のシミ
- 汗のシミ 等
混合性のシミ
油溶性と水溶性の両方の性質を持つシミです。
- ラーメンのスープのシミ
- カレーのシミ
- ドレッシングのシミ 等
不燃性のシミ
元が砂や細かな石等、水にも油にも溶けないシミです。
- マスカラのシミ
- ジェルボールインクのシミ
- 墨のシミ 等
シミの原因が油溶性ではない、何で汚したのかよくわからない…という場合には、ご家庭ではシミ抜きせず、早めに専門店に相談しましょう。
絹の着物をベンジンでゴシゴシ
「絹の着物のシミの原因は油溶性だし、ベンジンでシミ抜きをしてみよう!」…さてこの時、よくよく気をつけてほしいのが「ベンジンを浸した布で、着物をこすらないでくださいね!」ということです。
そもそもベンジンは、汚れを落とすだけでなく、素材自体の色落ちや色ハゲを起こしてしまう可能性を持っている溶剤です。特に染色の定着率の弱い着物の場合、強い摩擦によって色ハゲが落きてしまうことがあります。
またもうひとつ怖いのが「スレ」という現象です。スレとは、着物が水や溶剤等で湿った状態で摩擦すると起きるトラブルのこと。表面がケバだったり、ぼんやりと白っぽくなってしまうことを言います。
慣れない絹の着物のシミ抜きで意外と起きやすいのが、この「スレ」なのです。
激しいスレは直せないことも
絹の着物のシミ抜きに失敗して「スレ」が目立つ箇所にできてしまった…こうなってしまうと、ご自身では着物を元に戻すことはできません。着物に詳しい専門店で、スレ直し等のお手入れをする必要が出てきます。
なおスレの程度がとても激しい場合だと、専門の職人でもスレを目立たなくさせることができないことも。「ゴシゴシのシミ抜き」が、着物の寿命を終わらせてしまうことすらあるのです。
絹の着物をベンジンでぼかさずシミ抜き
絹の着物をベンジンでシミ抜きする場合、「汚れが取れた!」という時点でシミ抜きを終わらせてはいけません。最後に「ベンジンで濡らした箇所をぼかして(広げて)いく」というプロセスを必ず行います。
これはなぜか?というと、「輪ジミ」という別のトラブルが生まれてしまうからなのです。
目立つ輪ジミになることも
輪ジミとは、ベンジンで濡れた箇所と乾いた箇所の輪郭(りんかく)が輪のように残ってしまうことを言います。次のような原因で起こることが多いです。
- ぼかしの工程の不足
- 汚れが落ちきっていない
- 汚れを広げてしまった 等
輪ジミになったことで、かえってシミが目立つものになってしまうこともあります。ベンジンはケチケチせずにたっぷりと使い、濡れた部分の境目がわからなくなるようにすることが大切です。
絹の着物のシミを数日放置
「週末になったらベンジンを買ってきてシミ抜きしよう」「今は忙しいから手が空いたらシミ抜きしよう」…残念ですが、絹の着物のシミ抜きの場合、このようなノンビリとした対処では汚れは落ちなくなります!
そもそもベンジンは万能でなんでも落ちる強力なシミ抜き剤ではありません。着物のシミ抜きやクリーニングのプロが使うしみ抜き剤とは、成分も効果もまったく違うものです。
そして汚れ・シミは、時間が経つほどに取れにくくなっていきます。汚れが乾いて定着してしまうと、ベンジン等では歯が立ちません。
- 汚れを数日以上放置して乾いてしまった
- いつ付けた汚れかよくわからない
- タンスから出したらシミに気がついた
絹の着物についたこのようなシミ・汚れについては、残念ながらご家庭でのシミ抜きでは対処できないです。絹の着物にシミ・汚れをつけたら、まず早急に汚れの原因を確認し、できるだけ早くシミ抜きにとりかかることが最も重要と言えます。
おわりに
絹の着物のシミ抜きではベンジン等の溶剤を使いますが、この方法は原則として「練習を重ねながらうまくなっていくもの」と考えた方が良いです。例えば安く買った中古の着物、多少失敗しても構わない普段着向けの着物等で練習を重ねながら、少しずつコツを掴んで「良い着物」のお手入れも自分でできるようになる…といったわけですね。
例えば成人式の振袖であったり、結婚式に着ていく留袖であったり、喪服着物であったり…というような、失敗できない大切な絹のきものに「一発本番!」でシミ抜きに挑戦するのは、正直言ってあまりおすすめができません。
また上でも解説をしましたが、水を含むシミ(水溶性のシミや混合性のシミ)はご自宅では取ることができないので、早めに専門店に相談をしましょう。