着物が黄変!応急処置はできる?正しいシミ抜き対処法
「久しぶりに着物を出したら、覚えの無い黄色や茶色のシミが……」それはもしかしたら、着物の「黄変(おうへん)」かもしれません。
黄変とは着物が変色するトラブルで、一般的な「シミ」とは原因や対処法が違います。黄変に対して自己流の応急処置やシミ抜き対処をすると、着物がダメになってしまうこともあるのです。
大切な着物を守るために、黄変の正しい対処法を知っておきましょう。
着物の黄変とは?原因は?
着物の黄変(おうへん)とは、その名のとおり着物の一部(または全体)が黄色(または茶色)に変色してしまうことを言います。
黄変の初期症状ではうっすらと黄ばんだように見えますが、時間が経つにつれて変色した部分の色が徐々に濃く変化することも。最終的には、オレンジ色・薄茶色・濃い茶色のシミのようになることもあります。
黄変が起こる原因は「酸化」
着物の黄変は、なんらかの理由で繊維が酸化(さんか)をすることで起こります。酸化とは、酸素と物質が結びつくことを言います。目には見えにくい汚れや繊維の成分が時間が経つごとに空気(酸素)と触れ合って変質し、ゆっくりと少しずつ変色が起こってしまうのです。
汗・皮脂の汚れ残りが酸化
着物を着るとどうしても付きやすいのが「汗」や「皮脂」の汚れです。汗は食べこぼし等とは違い、汚れが付いても乾いてしまえば目立たなくなります。そのため汗汚れが付いているのに「汚れていない」と判断して、そのまま着物をタンスにしまう人は少なくありません。
しかし繊維に残った汗のナトリウムやマグネシウム・カリウム等の成分は、時間が経つ毎に徐々に酸化して着物を黄変させます。汗汚れの場合、1~3年程度で着物に黄色・茶色のシミができてしまうことも多いです。
カビによるシミが酸化
着物に白カビが生えた場合、表面のフワフワとしたカビは払えば落とすことができます。しかしカビ菌は繊維の奥にまで根を張っているので、ご自宅では取り切ることができません。
一度カビが生えた着物をお手入れせずに放っておくと、カビが発生した部分が少しずつ酸化し、濃い褐色~茶色の黄変を起こしやすくなります。
絹は黄変しやすい
正絹(シルク)はとても黄変しやすい素材です。そもそも絹の生糸は、糸としてできあがった時には白ではなく黄色っぽい生成り色をしています。黄色っぽくなる成分を取り除いて精錬し、さらに水素漂白などを行って「真っ白な生地」を作っているのです。
しかし絹地は白くなった状態を永遠に保つことはできません。時間が経つと絹は酸素と触れ合い、少しずつ元のような黄色っぽいクリーム色へと戻っていきます。
この着物のシミは黄変?7つのチェックリスト
「自分の着物が普通のシミなのか黄変なのか、よくわからない」という人も多いはず。黄変を見分けるいくつかのチェックポイントをご紹介します。
1.着物を長く保管していた
1~3年以上着ておらず、陰干し等のお手入れも休みがちだった…という場合、汗汚れやカビ等による黄変は起きやすくなります。
2.裏地にシミが多い
汗・皮脂が原因による黄変だと、汗を吸い込みやすい裏地(胴裏)で特に変色が起きやすいです。
3.背中・胸の下等が広く変色している
背中の中心部は、帯によって汗が溜まりやすい場所のひとつ。この部分などを中心に広く変色ジミができている場合、汗や皮脂等による黄変である可能性が高いです。
4.シミの色はオレンジ色や茶色
白い着物であれば最初の「黄色っぽいシミ/黄ばみ」の時点で気づきますが、色の着物ですとこの時点ではわからないことも。シミが茶色・オレンジ色等になった時点で黄変に気づくというケースが少なくありません。
カビが原因の黄変だと点々と水玉が飛んだようなシミに、汗が原因だと広範囲に水彩絵の具を溶かしたように広がったシミとなりやすい傾向が見られます。
5.何十年も前の昔の着物である
黄変は、作られてから長く時間が経った着物で特に起こりやすいトラブルです。お母様やお祖母様から受け継いだ着物、アンティーク着物等の場合、黄変が起きている確率は高くなります。
6.地色や柄部分の色が変わっている
黄変は必ずしも黄色/茶色のシミになるばかりとは限りません。黄変の症状が進むと、例えば「黒い地色が薄いピンクに変色」「紺色の柄部分が薄い色に変色」といった、地色・柄部分の色抜けや変色が起こります。
まるで塩素系の漂白剤が飛んだかのように色がおかしくなっている…これもまた「黄変」によるトラブルなのです。
7.白い裏地や花嫁衣装が全体的に黄ばんだ
真っ白だったはずの裏地(胴裏)が全体的に黄色っぽくなっている、花嫁衣装の白無垢が黄色みのあるクリーム色になっている……胴裏や白無垢が正絹(シルク)である場合、これは「黄変」による変色である可能性が高いです。
黄変は自分で応急処置・シミ抜きできる?
「久しぶりに着物を出したら黄変していた、家でシミ抜きできないかな?」「来週着るつもりだったから、黄変してる着物を応急処置したい」等等、着物にできた思いもよらないシミに驚いて「とにかく早く自分でなんとかしたい!」と考える人は多いことでしょう。
しかし残念ながら「黄変」は応急処置やご家庭でのシミ抜きをすることができません。黄変は一般的なシミとは違って、プロでないと取ることができないシミなのです。
専門家による漂白処理が必要
一般的な「シミ」とは、繊維に汚れがくっついている状態です。ですから水溶性・油溶性といった汚れの性質に合わせた洗剤や溶剤を使えば、汚れを溶かして取り去ることができます。
例えばお化粧品の汚れは油溶性ですから、ベンジン等の油性の溶剤で着物の応急処置やシミ抜きをする方も多いことでしょう。
一般的なシミの応急処置・シミ抜き
化粧品等の汚れが付いている
ベンジンで汚れを溶解させる
別の布に汚れを移せばシミが取れる
ところが「黄変」は、汚れの付着だけを取れば良いわけではありません。汚れをキレイに落としたあとで、変色してしまった部分を漂白して、茶色くなった色味を落とさなくてはならないのです。
黄変の変色を取る工程
カビ等による黄変ジミがある
汚れの原因を洗って落とす
専用の漂白剤で細かく変色を直していく
着物の生地や染色はとてもデリケートですから、洋服のように全体的に強力な漂白剤をかけるわけにはいきません。素材や染色に合わせた漂白剤を選び、黄変した部分だけにほんの少しずつ漂白剤を付けながら変色を直していきます。
このような作業ができるのは、専門的な知識を持った「悉皆屋(しっかいや)」や「着物専門のクリーニング店」の技術者だけです。一般のご家庭で着物を漂白すれば、着物をダメにしてしまいます。
色修正が必要になることも
黄変の症状がひどい時には、強い漂白剤で黄変を取らなくてはならないことも。また酸化が進んで、地色や柄の色まで変色してしまっていることもあります。
このような場合には、漂白だけでなく染料をかけなおして「色の修正(染色補正)」をしなくては着物は元のような美しい状態には戻りません。黄変にはシミ抜きだけではなく、染色にも対処できる専門知識が必要となるのです。
黄変の対処は「黄変直し」ができる専門店へ
「黄変直し(おうへんなおし)」「黄変抜き(おうへんぬき)」とは、上の項目で解説したようにプロが細かく黄変を取っていく対処法のことです。
自宅で黄変直しができないことはわかりましたね。では着物をクリーニング店に持っていけば、どこでも黄変抜きができるのでしょうか?
この答えも実は「NO」です。黄変を直すことができる専門店をきちんと選ぶ必要があります。黄変を処置してくれるお店選びのポイントを知っておきましょう。
悉皆屋・着物専門のお店を選ぶ
悉皆屋(しっかいや) → ◎
悉皆屋(しっかいや)とは、昔ながらの和装・呉服専門のお手入れ屋さんのことです。黄変直しはもちろん、シミ抜きやカビ取り等の着物のお洗濯だけでなく、染め替えやガード加工、リフォーム等も相談ができます。
着物の専門的な知識と技術があるので、黄変直しを依頼するなら最適のお店です。最近ではネットで受付をする悉皆屋も増えているので、近くに悉皆屋が無い場合でも気軽に相談ができるようになりました。
着物専門クリーニング店 → ◯
着物専門のクリーニング店は、お店によってサービス内容がかなり違います。悉皆屋が若い人向けにわかりやすく「着物クリーニング」と名前を変えている場合もあります。このようなお店なら安心ですね。
しかし「着物専門」と言いながら、機械洗いだけを受け付ける簡易的なお店であるケースも珍しくありません。着物クリーニング料金が激安系のお店だと、手作業がほとんどの「黄変直し」等はできないことが多いです。下の項目も読んで、お店選びをしっかり行った方が良いでしょう。
購入店に相談 → △
着物を買った呉服屋やデパートでも、着物のお手入れ・アフターケアは相談ができます。購入店が着物を預かり、仲介する形で悉皆屋等にお手入れを依頼してくれるのです。
「黄変直し」も、もちろん依頼できます。呉服店等の紹介の業者ですから技術的にも安心というのも魅力ですね。ただ購入店舗を仲介するため、黄変直しの料金には0手数料・マージンが上乗せされます。悉皆屋に直接依頼するのに比べると、黄変直しの料金が高くなってしまいがちです。
着物も対応する洋服クリーニング屋 → ×
町にある一般的な洋服クリーニング店でも「着物OK」としているところはたくさんあります。
しかし「黄変」の処置をしたい場合には、このような着物専門ではない一般のクリーニング店はあまりおすすめできません。最初に衣類の状態をチェックするスタッフからして着物に慣れていないためです。
「黄変」の場合、最初の着物の状態チェックの段階から専門知識がある人によく見てもらい、適切なお手入れのメニューを組む必要があります。「着物のことはよくわからない」という人が間に入ってしまうと、余計に時間がかかったり、手違いが起こる可能性も出てきます。
万一のトラブルを防ぐためにも、着物に詳しいスタッフが在籍するお店を選ぶことをおすすめします。
黄変直し・古いシミ抜きOKかを確認
「着物クリーニング店」等に黄変直しを依頼する場合には、着物を持ち込む前に問い合わせをして「黄変直し」や「古いシミのシミ抜き」ができるかを確認しておきましょう。
きもの丸洗い(機械洗い)や一般的なシミ抜きまでは対応している着物クリーニング店の中でも、「古いシミ・黄変シミは対応できない」という注意書きがある店舗は実は珍しくありません。
それだけ黄変直しは高い技術を要するのです。きちんとした修復技術を持つスタッフが在籍する専門店を選びましょう。
事前の相談や見積もりはできる?
黄変直しの料金は、黄変が起きている箇所の広さ、黄変の進行度等によっても大きく変わります。そのため「黄変直しの料金は5,000円です」といったように、一律の料金を出せるお店は残念ながらほぼありません。
事前に見積りが出せるか、依頼をする前に詳しく相談ができるかどうかを公式サイト等で確認しておくと良いでしょう。
黄変の処置ができない着物もある?
黄変直しの高い技術を持っている専門店でも、着物の種類によってはお直しができない場合があります。また着物の状態によっても、復元のための対処ができないことも。まずは実物を専門家に見てもらうことが大切です。
先染め・細かい柄の着物はNG
先染め生地・先染め織物とは、糸の段階で色を染めてしまい、その後から織り上げた布のことです。先染め生地だと色が落ちた時に染め直して修復することができないので、黄変直しをすることができません。
また鮫小紋(さめこもん)・江戸小紋(えどこもん)等のとても細かい地紋の着物も、色掛け(染色補正)による復元が難しいため、原則として黄変直しはNGとなっています。
長襦袢・裏地はNG
長襦袢や裏地(胴裏・八掛・羽二重)は元々の生地が薄いことから、漂白によるダメージに耐えられないため、原則として黄変直しができません。
ただし長襦袢は織り方・染め方によっては黄変直しで対処できる場合もあるので「どうしても」という場合には一度相談してみましょう。
生地が弱っている着物はNG
アンティーク着物・数十年前の昔の着物・何度も着用されている着物等で生地が古くもろくなっている場合ですと、黄変直しの漂白に耐えられません。
【詳しくは専門店に相談を】
例えば裏地が黄変した場合、「黄変直し」ではなく「裏地の付け直し」を行えば、新品のようにキレイにすることができます。黄変のシミ抜きだけにこだわらず、幅広い目線で「着物をもう一度キレイに着るためのクリーニング・リフォーム」を考えてくれる専門店に相談をしましょう。
おわりに
着物の黄変は、応急処置や自分でのシミ抜きで対応ができない「難しいトラブル」のひとつです。また黄変は一度起こった着物は、時間が経つ毎にシミが濃くなっていきます。放っておいても直らないだけでなく、復旧させるのが難しくなってしまうのです。
「着物の黄ばみが気になる」「裏地のシミが気になる」等の黄変の兆候を見つけたら、早めに専門店に相談をしましょう。