着物の洗い張りとは?やり方・料金相場・仕立て直しとの違いを徹底解説!

「大切にしまっていたお着物、久しぶりに出してみたら汚れが気になったり、サイズが合わなくて諦めてしまっていませんか?」

私たちは数えきれないほどのお着物をお預かりし、一針一針、心を込めてお手入れをしてまいりました。
着物の洗濯には、そのまま洗う方法もありますが、一番きれいになるのが「洗い張り(あらいはり)」です。一度お着物をほどいて、元の「反物(たんもの)」の状態に戻してから、職人の手で天然の水と石けんを使い、隅々まで丁寧に水洗いをいたします。
手間はかかりますが、こうすることで生地は本来の輝きとハリを取り戻し、お嬢様やお孫様の寸法に合わせて新しく仕立て直すこともできるようになります。
「古いものだから」と諦める前に、どうぞ一度ご相談ください。先代から受け継いだ知恵と技術で、あなたの大切な一着が、また誰かの笑顔を彩るお手伝いをさせていただきます。
洗い張りをするべき「3つのタイミング」
着物を「丸洗い(クリーニング)」に出すか「洗い張り」に出すか迷ったら、以下の3つのタイミングを基準にしてみてください。これらに当てはまる場合は、洗い張りが最も効果的で経済的です。
① サイズを変えて「仕立て直し」をしたいとき
親戚から譲り受けた着物や、体型の変化でサイズが合わなくなった着物を直したい時が最大のチャンスです。
- なぜ洗い張りが必要?
一度解いて「反物」の状態に戻すため、元の縫い跡(筋)を綺麗に消し、生地の端までしっかり洗うことができます。 - メリット
古い縫い跡が目立たなくなり、まるで新品の反物から仕立てたような、あなたの体にぴったりの着物に生まれ変わります。
② 数十年放置して「カビや黄ばみ」が気になるとき
タンスの奥で眠っていた着物に、ポツポツとしたカビや全体的な黄ばみ、特有の「古い臭い」がある場合です。
- なぜ洗い張りが必要?
表面だけを洗う「丸洗い」では、繊維の奥に潜むカビの根や古い糊(のり)の変色を落とすことができません。 - メリット
たっぷりの水と職人の刷毛(はけ)さばきで、繊維の奥の汚れを洗い流します。生地に空気が通り、絹本来の光沢と爽やかな風合いが甦ります。
③ 生地が「くたびれて」元気がなくなったとき
何度も着用して生地が全体的に固くなったり、逆にコシがなくなってシワが寄りやすくなったりした状態です。
- なぜ洗い張りが必要?
長年の着用で生地に蓄積された「汗」や「外気の汚れ」は、生地を酸化させ、劣化を早めます。 - メリット
一度水を通し、専用の糊を引き直して「伸子張り(しんしばり)」でピンと張ることで、生地の糸一本一本が本来の形を取り戻します。シャキッとした着心地が復活し、着崩れもしにくくなります。
プロからのワンポイント・アドバイス
「まだ着る予定はないけれど、大切な着物を守りたい」という場合も、洗い張りをして「反物(巻き物)」の状態で保管しておくのがおすすめです。カビの発生を抑え、将来いつでも好きなサイズに仕立てられる理想的な保管状態になります。
洗い張りの方法とは?プロの技で甦る6つのステップ
洗い張りは、着物を一度バラバラに解いて「反物(たんもの)」の状態に戻してから水洗いする、日本伝統の究極のメンテナンスです。熟練の職人が、生地の風合いを甦らせるために行う6つの工程をご紹介します。
STEP 1:解き(とき)
まずは着物の糸をすべて丁寧に取り除き、袖、身頃、衿などのパーツごとにバラバラに分解します。
ポイント: 生地に傷をつけないよう、すべて手作業で行われます。この時、古い糸のくずや縫い代に溜まったホコリもしっかり取り除きます。
STEP 2:端縫い(はぬい)
バラバラになったパーツを、ミシンなどで繋ぎ合わせて1本の長い布(約12メートル)に戻します。
ポイント: 1本の長い「反物」の状態に戻すことで、この後の洗浄や乾燥の工程で、生地に均一なテンション(張力)をかけることが可能になります。
STEP 3:洗い(あらい)
専用の洗剤とたっぷりの水を使い、職人が大きなブラシで汚れをかき出します。
ポイント: 丸洗い(ドライクリーニング)では落ちない「水溶性の汚れ(汗や古い糊)」を根こそぎ落とします。これにより、絹本来のしなやかさと通気性が復活します。
STEP 4:伸子張り(しんしばり)・乾燥
水洗いで縮んだ生地の幅を整えるため、竹製の細い棒(伸子)を生地の両端に刺して、左右にピンと張りながら乾燥させます。
ポイント: この工程が「洗い張り」の名前の由来です。生地を引っ張った状態で乾かすことで、シワが伸び、絹特有の光沢が戻ります。(現在は大型の機械乾燥を用いるケースも増えています)
STEP 5:湯のし(ゆのし)
乾燥した生地に高温の蒸気を当てながら、専用の機械で幅を一定に整え、シワを完全に取ります。
ポイント: 家庭のアイロンとは異なり、蒸気の力で繊維の奥までふっくらと立ち上がらせます。この工程を経て、新品のような美しい反物の状態に巻き上げられます。
STEP 6:検品
最後に、シミが残っていないか、生地に傷みがないかを厳格にチェックします。
ポイント: 洗い張りだけで落ちない頑固なシミがある場合は、ここで追加の「シミ抜き」を検討します。
【ここが重要!】洗い張りの後は「仕立て」が必要です
洗い張りが終わった状態は、まだ「1本の布(反物)」です。もう一度着物として着るためには、ここから改めて「仕立て(縫製)」を行う必要があります。
「以前よりサイズを大きくしたい」「今の体型にぴったり合わせたい」というご要望は、このタイミングで伝えるのがベストです!
「仕立て」は含まない?洗い張りの料金・値段を見る時の注意点
洗い張りの料金を調べる際、最も注意すべきなのは「提示されている金額にどこまでの工程が含まれているか」という点です。ネットや店頭の価格表を見る際は、以下の3つのポイントを必ずチェックしましょう。
①「洗い張り代」=「洗うだけ」の料金
多くの場合、広告やメニューに載っている「洗い張り 10,000円〜」といった料金は、着物を解いて、洗い、反物の状態に戻すまでの作業代です。この状態では「ただの長い布」なので、そのままでは着ることができません。
②「仕立て直し代」が別途かかる
洗い張りをした後に、再び着物の形に縫い上げるには「仕立て代」が別途必要になります。
- 洗い張り代: 約10,000円 〜 18,000円
- 仕立て代: 約25,000円 〜 50,000円(手縫いかミシンか、振袖か小紋か等による)
- 合計: 約35,000円 〜 70,000円程度
「洗って、また着られる状態にする」までには、この合計金額がかかることを念頭に置いておきましょう。
③隠れた追加費用「付属品」の交換
洗い張りを機に、古くなったパーツを新しく交換することが一般的です。これらも別途費用が発生するケースが多いです。
- 胴裏(どううら)・八掛(はっかけ): 裏地が黄ばんでいる場合、せっかく表地を綺麗にするなら新調するのがおすすめです。
- シミ抜き・カビ取り: 洗い張り(水洗い)だけでは落ちない頑固なシミがある場合、特殊なシミ抜き代が加算されます。
- ガード加工: 綺麗になった状態を維持するために、撥水加工を追加する場合。
失敗しないための見積もりチェックリスト
依頼する前に、お店に以下の「3つの確認」をしてみてください。
- 「この見積もりは、再び着られる状態(仕立て込み)の金額ですか?」
- 「裏地などの付属品を新調する場合、いくらプラスになりますか?」
- 「洗い張りだけで落ちないシミがある場合、事前に連絡をもらえますか?」
プロのアドバイス
「意外と高いな」と感じるかもしれませんが、洗い張りと仕立て直しを同時に行うことは、「新品同様のマイサイズ着物を手に入れる」ことと同じ価値があります。古い着物を丸洗いで誤魔化し続けるよりも、一度リセットする方が、結果として着物を長持ちさせる一番の近道になります。
着物の洗い張りは自分でできる?
着物の洗い張りは、その工程のほとんどが手作業であり、ひとつひとつが手間のかかる仕事です。洗い張りの後に「再仕立て(仕立直し)」も行う場合、1枚あたりの工期は1ヶ月~2ヶ月程度はかかってしまいます。そのため洗い張りの料金は着物丸洗い(ドライクリーニング)に比べると、どうしても高くなりがち。「着物の洗い張りが群を抜いて安い業者」というのは、残念ながらあまりありません。
そのため、中には「クリーニング代を抑えるために、着物の洗い張りを自分でしたい」と考える方もいらっしゃるようです。確かに着物の洗い張りは、江戸時代等には各家庭での洗濯方法としても用いられるものでした。そのため洗い張り=絶対に自分ではできない、というものではないのですが… ご自宅での洗い張りは、あまりおすすめすることができません。それには以下のような理由があります。
和裁技術が無いと失敗する
着物の洗い張りをする上では、和裁の専門技術・知識は必須となります。「ほどいてつなぐくらいなら…」と無理に着物をほどいた結果着物を傷ませてしまったり、反物の状態に戻せず、端を傷ませた状態で諦めて持ち込んだら業者に断られてしまった…というケースも見られているようです。ちなみに「ほどいた着物」を持ち込んでも、その分のクリーニング料金を割安にする業者はほとんどありません。
生地を縮めてしまいやすい
洗い張りでのもっとも大きな失敗としては、「生地が縮んで戻らない」というものが挙げられます。一般家庭で洗える着物(ウォッシャブル着物)を除くと、一般的な着物の生地はいずれも非常に縮みやすいものばかりです。例えば綿・麻といった洋服では洗うことのある素材でも、織り方等によって7%~8%近くも縮んでしまうというケースは多々あります。8%といえば、1メートルに対して8センチ!この収縮によって柄が歪んでしまうことも多いのです。
プロによる洗い張りでは、このような生地の縮みが起こらないよう、繊細な作業が行われています。また「洗い」の工程で生まれた縮みを「張り」によって戻すといった技術も、プロならではのものです。
なお、ご家庭での洗濯で既に生地を縮ませてしまった場合、プロの洗い張り業者でも生地の状態を元に戻すことは非常に難しくなります。
汚れがキレイに落ちていない
せっかく一生懸命に着物を解いて洗っても、汚れが落ちきっていなかったら意味がありませんよね。洗い張りを行う専門店では、各素材に合わせた専用の洗剤やブラシが使われています。着物の汚れをしっかり落とすには、洗い張りの道具を揃えることがまず大切なんです。
ご家庭での一般的な洗剤等の場合、生地を傷ませる恐れがあるだけでなく、油溶性等のしつこい汚れが残ってしまう恐れも考えられます。「洗ったつもり」で残った汚れが、変色やカビ等の原因となってしまうこともあるのです。
おわりに
着物を反物の状態に戻す「洗い張り」では、再仕立てをする際にお着物を新たな形に甦らせることができるのが大きな魅力です。例えば、お母様から娘様に着物を譲る時に、娘様のお体に合わせたサイズに身丈や裄丈を変更する。「年齢に合わなくなったから」と感じていた着物を帯に仕立て直して、コーディネートのポイントにする。
昔の振袖を訪問着に直して、着用するシーンを増やす…こんな様々な方法で、昔の着物がまた活躍できるようになります。また袖を通してから一度も洗っていないお着物、丸洗いでは汚れが取り切れなかったお着物等があったら、一度「洗い張り」を試してみてはいかがでしょうか。新品のようなツヤを取り戻した着物を見て、「もっと着物のオシャレを楽しもう!」という気持ちも強くなるはずですよ。














