プロが教える「着物の黄変」原因と対策
しばらく着ていなかった着物をタンスから出したら、黄色や茶色のシミが出来ていた…これはおそらく「黄変(おうへん)」です。着物の黄変とは、汚れ等の成分が時間が経つごとに酸素と結びついて酸化し、黄色いシミになることを言います。
黄変は時間が経てば経つほど黄色いシミはオレンジ・茶色と濃い色に変化し、最終的には着物そのものも変色させてしまうという厄介なトラブルです。この黄変はどのような原因で起こるのでしょうか?
着物の黄変原因 1.汗抜きの不足
私達がかく「汗」には、マグネシウムやカリウム等の様々なミネラルや皮脂成分が含まれています。着物を着た時に汗をかくと、老廃物やミネラル等の成分は繊維の中に染み込んでしまうのです。
これらの成分は3年~5年で徐々に酸化して、着物を黄変させます。着物の着用後に「汗抜き」をしていない場合、黄変が起こる確率はかなり高いと言えるでしょう。
- 汗取りケアをしなかった
- 着物の裏地が特に強く黄変した
- 広い範囲が黄変している
- 背中やワキが黄変している
上のような特徴がある場合は、黄変の原因は汗によるものということが多いです。
【冬の着用でも汗は付く】
夏に着物を着た場合はもちろんですが、冬に着物を着た時でも体の内側は意外と汗をかいています。特に暖房が効いたパーティ会場などでの着用、着物を着て飲食をした場合等では、着物に汗がこもりやすいです。
【クリーニングしても黄変する?】
汗の成分は、水に溶けやすい水溶性の汚れです。反対に油系の溶剤等では、汗の成分はなかなか落とすことができません。つまり石油系の有機溶剤を使う「きもの丸洗い」では、汗の成分は落としきれず、繊維の中に残るのです。
「一般的な着物クリーニングをしているのに黄変した」という事例は多いですが、これは「着物丸洗いのみ」でケアをしている可能性が高いと考えられます。
黄変予防策:汗抜きケアはしっかりと!
家での汗取りケア
着物を着用した後には、まず家でのカンタンな汗取りは毎回行うようにしましょう。
【家での汗取りのお手入れ】
- タオルをお湯に漬けてギュッと固く絞る
- 汗をかいた部分をタオルで軽く叩く
- 乾いたタオルで叩いて水分をよく取る
保管前には本格的な汗抜きを
シーズンオフ前や長期間着物をしまう前には、専門店で本格的な「汗抜き」をしてもらうことも大切です。特に留袖や振袖等の礼装用着物は着用頻度が少なく保管期間が長い分、しっかり汗抜きしておくことをおすすめします。
着物の黄変原因 2.カビの発生
着物が黄変するもうひとつの原因は「カビ」です。着物に生えやすいカビには「白カビ」があります。表面に白いポツポツができていた、フワッとした白カビを見たことがあるという人も多いかもしれませんね。
カビ菌はこのような表面のカビを取るだけでは根絶できません。そしてカビが作ったシミは少しずつ酸素と結びついて、濃い「黄変」に変化してしまうのです。
- 着物がカビ臭い
- ポツポツと黄変シミができている
上のような特徴がある場合、黄変の原因がカビである可能性は高いです。ただカビが発生してから10年程度が経過すると、着物のカビ臭いニオイはまったくしないということもあります。
黄変予防策:定期的な陰干し&カビ取り
陰干しでカビ予防
カビ予防には何よりも湿気を飛ばすことが大切です。1年に2回は
家で陰干しをして、着物にこもった湿気を飛ばしましょう。
【家での陰干しのお手入れ】
- 屋外または屋内の直射日光がささない場所を選ぶ
- 着物用ハンガーに着物をかけて形を整える
- 換気をして十分に風にあてる
カビ症状を見つけたら「カビ取り」を
着物がカビくさい、カビが生えているのを見つけた……このようなカビの諸症状を見つけたら、早めに専門店に「カビ取り」の相談をしましょう。
カビは一般的なクリーニングである「着物丸洗い」では根絶することができません。きちんとカビに手作業で対処してくれる専門店を選ぶことが大切です。
着物の黄変原因 3.絹(正絹)の酸化
3つ目の着物の黄変の原因は、お手入れや管理によるものではありません。絹という生地そのものの特質です。
絹の糸はもともと濃いクリーム色をしているのですが、着物の布にする際にその黄色っぽさを落として、真っ白くしたてる「精錬」を行っています。
しかし時間が経って着物と酸素が長く触れ合ううちに、徐々に絹糸が元のように黄色みがかった色になってしまうのです。「昔は白かった絹の着物や長襦袢が全体的に黄ばんだ」というトラブルは、ほとんどの場合この絹地の特性が原因となっています。
- 一部ではなく全体的な黄ばみ
- 着物の地色(または柄部分)が白かった
- 20年以上前の古い着物
このような特徴がある場合は、黄変の原因は絹そのものの特質であると考えられます。
黄変予防策:予防は無理だが補正は可能
正絹の白い着物が少しずつ黄ばむのは絹自体の性質であるため、ユーザー側での予防はなかなかできません。ただ最近の正絹着物は黄ばみにくいように糸の時点で対策してあるので、昔に比べると黄ばみが起きにくくなっています。
また染色補正で地色を染め直して、いま着やすい着物へと甦らせることもできます。
着物の黄変を見つけた時の対処法は?
汗抜きケアやカビに気をつけていたつもりでも、気づいたら着物が黄変していた……そんな時にはどうしたら良いのでしょうか。
黄変は自宅では対処できません
着物の「黄変」は成分の酸化によってできた変色シミなので、一般的な食べこぼしや化粧品のシミ等とは対処法が異なります。ベンジン等を使ったご家庭でのシミ抜きでは着物を復元させられません。
黄変を発見次第、すみやかに専門店に相談することが大切です。
「黄変抜き」ができる専門店に相談
着物の「黄変」と一般的な「シミ」では、クリーニングや復元の工程がかなり違います。
着物の黄変では「漂白」をしないと黄色・茶色のシミ部分を取り除けません。黄変の程度によっては、染色補正をして、色を元のように復元させる作業も必要になります。
このような「黄変抜き」は、いずれも熟練の業を求められる高度な手作業です。専門の職人さんでないと黄変抜きはできません。そのため一般的なクリーニング店では黄変抜きができず、着物の「古いシミ」や「黄変シミ」はお断り……というところの方が多いのです。
【黄変抜きに対処できるお店の例】
- 悉皆屋(しっかいや):着物のお手入れ全般を扱う専門店です。黄変抜きの他、幅広いお手入れを依頼できます。
- 職人在籍の着物専門クリーニング店:店舗によっては職人がおらず、黄変抜きや手作業のシミ抜きができないお店もあるので確認が必要です。
- 購入店舗に相談:呉服屋や百貨店等の購入店舗に相談すると、そこから悉皆屋を紹介して貰えることも。ただし購入店に仲介手数料等を取られることもあります。
着物の黄変を見つけた場合には、上記のような専門の職人が処置をしてくれるお店に相談をしましょう。
おわりに
着物の黄変の原因は、「着用中の汗」や「保管中のカビ」といった日常的な存在です。着物は一度黄変すると対処は専門店に任せるしかありませんが、黄変の原因となる汗の成分の残りやカビについては、日頃の定期的なケアで予防することができます。
着物をキレイに長持ちさせるためにも、定期的な陰干しや汗抜きといった日常的なお手入れをしっかり行っていきましょう。また万一の黄変に素早く対処するためにも、信頼できるお手入れのお店を見つけておくことも大切です。