着物が汗で汚れたら自分で汗抜き!方法と注意点
少し暖かい時期になると、気になるのが着物の汗の汚れです。着物の裏側が汗でしっとりと湿っていた……こんな時、軽く乾かしただけで着物をしまってはいませんか?そのお手入れ方法だと、着物がダメになってしまうかもしれません。
大切な着物を長くキレイに着るために、着物が汗で汚れたら「汗取り」「汗抜き」でお手入れをしましょう。
着物の汗抜きが必要な理由とは?
着物についた汗の汚れは、乾いてしまうと目には見えないシミになります。食べこぼしやワインのシミ等とは違って目立たないので「汚れていないのでは?」「このままでも平気では?」と考える人も多いのではないでしょうか。
ところが汗には、次のような様々なミネラル成分が含まれています。
汗の成分例
- カリウム
- マグネシウム
- カルシウム
- 亜鉛
- 鉄 等
これらのミネラル成分は、時間が経つと酸素と結びついて「酸化」し、着物の色を変えていきます。汗ジミがついた着物をそのまましまっておくと、そのシミは徐々に黄色っぽく、さらには茶色いシミへと変わっていくのです。これを「黄変(おうへん)」と言います。
着物の黄変が起きると、一般的なシミ抜き等ではシミを取ることはできません。また最悪の場合には着物そのものの色が変わってしまい、大掛かりな染色補正が必要になることも。最悪の場合には、プロでも着物が直せないこともあるのです。
このような困った変色シミを作らないためにも、汗で汚れが付いた着物は応急処置をしたり、キチンとしたお手入れをすることが重要になります。
着物にはNGな汗のシミ抜き対策
一般的な洋服の汗ジミ対策としては、様々なシミ抜き方法がありますよね。しかしデリケートに作られている着物の場合には、一般的な洋服向けのシミ抜き対策は行うことができません。
汗をかいた着物のお手入れでは、次のようなシミ抜き方法は行わないように注意しましょう。
着物の汗のシミ抜きには漂白剤NG!
一般的な洋服の汗汚れだと、洗剤を使って洗ったり、分解力を上げるために酸素系漂白剤を使うこともありますね。
しかし正絹やウール等の着物は水濡れに弱く縮みやすいことから、そもそもご家庭では水洗いができないので、洗濯洗剤類等を使うことができません。またご家庭で洗えるタイプの着物でも、作用の強い漂白剤類は使わない方が無難です。
セスキ炭酸ソーダや重曹もダメ?
「ナチュラルな洗濯ができる」ということで最近人気なのがセスキ炭酸ソーダや重曹等のパウダー類です。しかしこれらの成分は弱アルカリ性であり、衣類へのダメージはけして優しいものではありません。
水で洗える着物であっても、着物の染料によっては重曹等の使用によって変色・色落ちなどが起きる可能性があります。
着物の汗汚れを自分で汗取りする方法
「着物が汗で汚れた」と感じたら、早めに自分でできる応急処置をすることが大切です。帰宅後に着物を脱いだら、カンタンな汗のシミ抜き方法である「汗取り」を行いましょう。
着物の汗取りで用意するもの
- バスタオル(柔らかいもの)
- タオル 3~4枚
- 洗面器かバケツ
- 着物用ハンガー(または物干し)
着物の汗取りの手順
- 明るいところで着物の汗で濡れた箇所をチェックしておきます。背中・ワキ周辺等の他、お尻や膝の裏側等も汗汚れが付きやすいので確認しましょう。
- バスタオルを敷いて、その上に着物を裏を上にして広げます。
- 洗面器に40℃前後のお湯を入れてタオルを漬け、固く絞ります。
- 汗で汚れた部分を、固く絞ったタオルでポンポンと軽く叩いていきます。
- 着物が湿ったらすぐに乾いたタオルで叩き、水分を吸い取ります。
- 4.と5.を繰り返します。常にタオルのキレイな部分が着物に当たるようにしましょう。
- 汗汚れが付いた箇所をすべてお手入れしたら、着物用のハンガーにかけて陰干しし、十分に自然乾燥させます。
※タオルは固くしっかりと絞りましょう。縮みやすい正絹・ウールの着物の場合、水滴がつくと水シミ(ウォータースポット)ができてしまうことがあります。
※タオルでゴシゴシとこすったり、強く叩くのはNGです。摩擦による毛羽立ちや色ハゲ等が起きる可能性があります。
※刺繍や箔加工等、特殊な加工がある部分には汗取りをしないでください。
※汗取り後の自然乾燥(陰干し)は、通常よりも長めに行いましょう。水分が繊維に残った状態で着物を保管すると、カビ等の原因になります。
着物の汗取りはスピードが大切!
着物の汗汚れを自分で取る「汗抜き」「汗取り」は、汚れが付いてからできるだけ早く行うのがコツです。できれば着物でお出かけをした当日中に素早く行うのが一番と言えます。
「帰宅が遅くなるから、どうしても当日中はムリ!」という場合にも、翌日までには着物の汗取りを済ませるようにしましょう。汗の汚れがすっかり乾いてしまってからだと、自分での着物の汗取り・汗抜きがなかなかうまくいきません。
着物の長期保管前には「プロの汗抜き」も必要!
汗で汚れた着物は、上の方法でひとまず応急処置ができます。ただしこの方法で汗の成分がすべて取れたわけではないので要注意です。次のような場合には、専門店でキチンと汗抜きをしてもらう必要があります。
専門店で汗抜きしたほうが良いケース
- シーズンの終わりで、次のシーズンまで長期保管する場合
- 喪服や振袖・留袖等、次に着る予定がない礼服着物
- 濡れて色が変わるほど着物がグッショリと汗で濡れていた場合
- 着用後のお手入れををせずに何度も着物を着ていた場合 等
着物の汗抜き・汗取りをプロに依頼する場合には、次のような点に注意しましょう。
「きもの丸洗い」では汗汚れは落ちない?
一般的な着物クリーニングのメニューである「きもの丸洗い」では、着物の汗の汚れを落とすことはできません。
着物の「丸洗い」とは、洋服でいうところの「ドライクリーニング」です。石油系の溶剤を使って着物を全体的に洗う方法なので、軽い皮脂汚れや化粧品汚れ等は取ることができます。しかし、汗等の水溶性の汚れを落とすのは苦手としています。
着物の汗の汚れをキチンと取るには「丸洗い」だけではなく、「汗抜き」「汗取り」のメニューがあるお店を選ぶことが大切です。
色が変わった汗ジミには「シミ抜き」「黄変抜き」
着物の汗汚れ、お手入れをしないままで時間が経ってしまい、次のような状態になっていませんか?
- 汗で濡れた箇所が輪ジミになっている
- 汗で濡れた箇所が黄色っぽくなっている
- 薄茶色・コーヒー色等のシミができている
このような場合には、「汗抜き」の作業だけでは着物を元に戻すことができません。ガンコなシミを職人が手作業で取る「シミ抜き」や、変色シミを直すために漂白・染色補正等を行う「黄変抜き(黄変直し)」等のメニューが必要になります。
着物の全般的なお手入れができる悉皆屋(しっかいや)や、キチンとした職人がいる着物専門のクリーニング店を選びましょう。
おわりに
着物で汗をかいた時の汗取り方法やシミ抜きについて、情報はお役に立ちましたか?上でも解説しましたが、着物の汗取りのお手入れは早めに行うことが大切です。
軽い汚れに思える汗汚れは、放っておくと手強い変色シミに変化してしまいます。また「汗をかいた」とはっきりわかる時はもちろん、室内の暖房で「少し暑いな」と感じた時にも着物の内側や長襦袢に汗の汚れは付いています。こまめに早めに汗抜きのお手入れをして、着物をサッパリとさせておく習慣をつけましょう。