喪服着物のカビ応急処置|明日着るための手順と絶対NGな対処法

「明日着るはずの喪服着物にカビが…!」と困惑しているあなたへ。
突然のお通夜やご葬儀。急いで用意した喪服着物に白い粉のようなカビを見つけたら、パニックになってしまいますよね。
カビの状態にもよりますが、白カビのような初期症状であれば、正しい応急処置を施すことで「とりあえず目立たない状態」にして着用できる場合があります。

ただし、良かれと思って行った「水拭き」や「除菌スプレー」が、修復不可能なシミを作ってしまうことも少なくありません。着物クリーニングのプロが、正絹の生地を傷めずに試せる「最低限の応急処置」と、プロとしてお伝えしたい「絶対にやってはいけない注意点」を緊急解説します。
明日着る喪服着物にカビが!今すぐできるカビの応急処置

「明日喪服着物を着るのに、カビが生えてる!」そんな時には、今すぐに出来る応急処置をしておきましょう。
【用意するもの】

- 和装ハンガー
- 古い布(ベルベット・ベロア生地等が最適、綿の古いハンカチ等でもOK)
- マスク(使い捨てのもの)
- ゴム手袋(使い捨てのもの)
- ゴミ袋
STEP 1.マスク・手袋を着用する
カビ落としで飛び散ったカビが体内に入ると、感染症やアレルギー、カビ中毒等を起こす可能性があります。作業時には必ずマスクをしてください。また屋内作業等の場合、同じ部屋にご家族等が同席されないようにしましょう。特に免疫力・抵抗力が低いご高齢の方や赤ちゃんと同じ部屋で作業をしてはいけません。
STEP 2.屋外に出るか換気をする
カビを取る作業は、カビが生えている着物を和装ハンガーにかけて行います。できれば作業は屋外で行うのが理想的です。ベランダや庭先に物干し等がある場合には、そちらを使っても良いでしょう。ただしこの場合、周辺に他の衣類がない状態にしてください。
天候が悪い、着物を干せる場所が無い等の理由で屋外作業が難しい場合には、お部屋の窓を全て開けて、よく換気をした状態にします。クローゼット・押入れ等は必ず閉めて、カビ菌が他の衣類に飛散しないようにしましょう。カビの量が多い場合には、着物を干した場所の下に新聞紙等を敷いておくとより安心です。
STEP 3.布でカビを払う
乾いた布をカビ部分に当てて、軽く払うようにしてカビを落としていきます。カビを落とそうと強く布を当てるのはNG!カビがますます繊維の奥に入り込んでしまいますから、力を入れずにサッと払うようにしましょう。
この時、パイル織物の一種である「ベルベット(ビロード)」「ベロア」等の生地を使用すると、布の毛羽立った部分が着物の繊維の奥にうまく入り、カビをかなり奥まで落とすことができます。もう着用しないベロア生地の古着等があれば、そちらを利用してみても良いですね。
なお同じ「毛羽立った布地」でも、掃除用等のマイクロファイバー生地等は使用しないでください。掃除用の繊維は非常に硬く丈夫です。着物の正絹生地をこすり過ぎてしまい、変色や色抜け等が起きる可能性があります。
STEP 4.影干しをしておく
白いカビが目立たなくなったら、お部屋の風通しの良い場所等に着物をかけ、できるだけ水分を飛ばしておきます。
STEP 5.布・手袋類を破棄する
作業に使用した布や手袋・マスク等は、小さなゴミ袋等にひとまとめにしてすぐに破棄します。布類を再利用したり放置すると、カビ菌がますます増えてしまうことも。
目には見えなくても菌は残っていますので、必ず早めに処理をしてください。
フワッとしたカビが生えている場合、上記の応急処置で丁寧にカビを払えば、「とりあえずの着用」にまでは持っていくことができます。喪服着物を出した時に少しでもカビの発生が見られる場合には、慌てずにすぐに応急処置をしておきましょう。
逆効果!喪服着物のカビに「絶対にやってはいけない」3つのこと
【NG】水拭き・濡れタオルで拭く
カビを見つけた時、真っ先に「タオルで拭き取ろう」とされる方が多いのですが、喪服着物(正絹)において水拭きは絹の特性上、取り返しのつかないダメージを与えるリスクが非常に高い行為です。
なぜダメなのでしょうか?
- 菌を奥へ「植え付けて」しまう
着物の表面に見えているカビは、いわば「花」のようなもの。水分を含んだタオルで拭くと、カビの本体である「根(菌糸)」を繊維の奥深くへ押し込み、さらに水分を与えて増殖を助けてしまうことになります。 - 修復不能な「輪ジミ」の原因に
喪服着物の多くに使われる正絹(シルク)は、非常に水に弱い素材です。水に濡れた部分が収縮したり、染料が動いたりすることで、カビよりも厄介な「輪ジミ」が発生します。
その結果、どうなる?
一度「水シミ」や「スレ(生地の毛羽立ち)」ができてしまうと、カビ取りクリーニングだけでは直せません。別途、高額な「シミ抜き」や「地直し」が必要になったり、最悪の場合は跡が残ってしまいます。
プロからの忠告
ネットで「お湯で拭く」という裏技を見かけるかもしれませんが、それは洗濯機で洗える「洋服」の話です。「着物は絶対に濡らさない」。これが、被害を最小限に抑える鉄則です。
【NG】アルコール除菌スプレー・消臭剤
「菌を殺さなければ」「ニオイを消さなければ」という一心で、市販の除菌スプレー(ファブリーズやリセッシュ等)や消毒用アルコールを使いたくなるかもしれません。良かれと思っての行動が、修復不可能な事態を招く引き金になりかねません。。
なぜダメなのか?
- 染料が化学反応を起こす
喪服着物の深い「黒」を出すための染料は非常に繊細です。アルコール成分や消臭剤に含まれる化学物質がこの染料と反応すると、その部分だけが赤茶色に変色したり、色が完全に抜け落ちたり(脱色)します。 - 強力な「輪ジミ」が残る
スプレーの霧は一見細かく見えますが、生地に付着すると小さな水滴の集合体になります。これが乾く際に、カビよりも目立つ「白い輪ジミ」となって固まってしまいます。
その結果、どうなる?
一度化学反応で色が抜けてしまった部分は、通常のクリーニングでは元に戻りません。熟練の職人が一点ずつ色を挿し直す「染色補正」が必要になり、修理費用が跳ね上がるだけでなく、完全に元の黒に戻すことが難しくなるケースもあります。
プロからの忠告
消臭スプレーの注意書きをよく見ると「和装品には使用不可」と記載されているはずです。ニオイが気になる場合は、スプレーに頼らず、まずは「陰干し」で風を通すだけに留めておきましょう。
【NG】スチームアイロンをかける
「熱を加えれば除菌できるのでは?」「ついでにカビ臭さも消したい」と、スチームアイロンを使おうとしていませんか? 結論から申し上げますと、カビが生えた着物にスチームを当てるのは、火に油を注ぐようなものです。
なぜダメなのか?
- カビが爆発的に増殖する「温床」を作る
カビが最も好む環境は「高温多湿」です。スチームで水分と熱を同時に与えることは、カビ菌にとって最高の繁殖条件を整えてあげることになります。その場では消えたように見えても、繊維の奥で菌が急成長し、数日後にはさらにひどい状態で再発します。 - カビが生地に「焼き付いて」しまう
カビのタンパク質成分に熱を加えると、生地の繊維と固着してしまいます。これを「焼き付き」と呼び、こうなるとプロの特殊な洗浄技術をもってしても、完全に除去することが極めて困難になります。
その結果、どうなる?
表面のカビが熱で変質し、黄色や茶色の「変色シミ」へと変化します。こうなると、単なるカビ取りクリーニングでは太刀打ちできず、地色を抜いて染め直す「色補正」が必要になり、修理費用も納期も大幅にかかってしまうことになります。
プロからの忠告
「カビには熱」という知識は、一部の衣類には当てはまるかもしれませんが、デリケートな正絹の喪服には百害あって一利なしです。シワが気になる場合でも、カビがある状態でのアイロンがけは絶対に控え、まずはプロにご相談ください。
カビ菌は見えなくなっても残ってる?アフターケアが大切
「応急処置でカビが目立たなくなったから…」といって、お葬式や法事で着用した着物をまたタンスにしまうのはNGです!
確かに喪服着物に付いている白いカビは、前述の方法で「見た目だけ」は落とすことはできます。特に範囲が非常に狭く、まだ新しいカビという場合であれば、ベロア生地等を使って丁寧に払い落とすことでカビ菌を除去できることもあります。
しかし着物が以下のような状態だった場合、ご自宅での対策でカビ菌を根本から取り除くことはできません。
【着物の状態をチェックしてみましょう】
1)着物からカビの匂いがする(カビ臭い)
2)カビが一箇所(1センチ程度)ではなく様々な箇所に発生している
3)着物のチェック・虫干しを3ヶ月~6ヶ月以上は行っていない
上記に思い当たる点がある場合、カビ菌が繊維の奥にまで根を張っている可能性が高いです。繊維表面のカビは取れても菌が衣類に残っているため、そのまま保管をすれば再度カビが生えてくることに…。カビ菌は非常に丈夫で、厄介な存在なのです。次回着用までに間が空いたり、湿気対策が万全でなかった場合、更にカビが多量に繁殖して生地に変色を起こしたり、付いた匂いが取りにくくなってしまうこともあります。
早めに専門店に依頼をしましょう
喪服着物にカビを発見したら、「とりあえずの着用」までは応急処置で済ませてもOK。でも弔事が済んだら、早めに悉皆屋や和装クリーニング専門店等にカビ取り対策の相談をしましょう。
カビは一度繁殖をしてしまうと繁殖の根が徐々に深くなり、最悪の場合にはプロでも落としきれないことにもなります。「喪服着物を着用できない」ということにならないよう、少しでも早く専門店での対処を行っておくことをおすすめします。
応急処置でカビが取り切れなかった場合には
前述の応急処置でカビが取り切れない(見た目に取れていない)場合も、カビ範囲が非常に広い・もしくは根が深いか、繊維の変色が起こっている可能性が考えられます。自宅での処理を無理に行うと着物に多大なダメージが残る恐れがあるので、この場合にも早めに専門店に依頼をしましょう。
ただ和装専門店でのカビ取り作業は全て手作業となる上に、カビを再度生やさないためのいくつもの工程が必要となることから、洋服のクリーニングのような「特急仕上げ」ができません。業者によっても作業期間は異なりますが、作業期間が1ヶ月~1ヶ月半程度かかるのが平均です。
お通夜やお葬式が目前にあり応急処置での対処が難しい場合には、ご自身のお着物での参列は諦め、早めにレンタル着物等の依頼を行われることをおすすめします。
喪服着物以外の着物・衣類のカビ対策を忘れずに!
喪服の着物にカビが生えているのを見つけたら、「喪服だけ」のカビ対策で終わらせてしまうのは危険!カビ菌は喪服着物だけでなく、その他の衣類にもはびこっている可能性があります。早めにタンスのカビ対策もしておきましょう。
タンス内の着物を総チェックする
タンス内の着物に一着でもカビの発生を認めたら、全ての着物のチェックを行いましょう。特に喪服着物の場合には黒色無地であることから特に喪服の着物は黒色無地なのでカビの発生が比較的目立ちやすいのですが、その他の着物の柄部分等ですと、なかなかカビ発生に気づかない…ということもあります。明るい場所で着物を広げ、カビの繁殖が無いか、カビ臭さが無いかを確認してください。
虫干しをする
一着の着物にカビが生えたということは、着物類に湿気がこもっている可能性が大。お持ちのお着物を虫干しして、風を通しましょう。着物だけでなく「帯」の虫干しも忘れずに!帯の中にある「芯」は湿気がこもりやすく、カビの温床ともなるものです。しっかりと湿気を飛ばして、カビが生えるのを防ぎます。
タンス・クローゼットの換気を
昔の木造住宅に比べて、現代の日本家屋は密閉性が高くなり、湿気がこもりやすくなっています。窓を開けてよく換気をした状態でタンスの引出しを全部開ける・クローゼットの扉を開けるなどして、着物の保管場所の換気も行いましょう。
除湿剤を入れておきましょう
和装用の除湿剤は入っていますか?入れている除湿剤の使用期限などもチェックし、保管中の除湿が十分になっているかを確認しましょう。
喪服着物にカビを生やさないための予防対策
和装クリーニング店等で喪服着物のカビ対策を十分に行ったら、今度は「今後カビを生やさないための予防対策」を取るようにしましょう。しっかりと対策を行っておけば、次回以降の着物のトラブルがグッと少なくなりますよ。
着用後には十分に汚れチェックとシミ抜き・陰干しをする
着物を一回でも着用したら、しっかりと全身の汚れのチェックをしましょう。また温かい時期に着物を着た時には、汗抜きも丁寧に行うことが大切です。食べこぼしや泥ハネ等のシミは小さなものも見逃さず、自宅でケアをするかクリーニングを行います。また着用後には1日~2日以上陰干しを行い、繊維に残った水分をしっかりと飛ばすようにしましょう。
年に3回の虫干しを
虫害対策とされている「虫干し」ですが、定期的に行うことで生地に湿気が貯まるのを避けるので、カビ対策にもなってくれます。天気が良い日が続く乾燥した季節を選んで、年に3回程度は定期的な虫干しを行う習慣をつけておくと良いですね。この際に着物の状態をしっかりチェックしておくと、カビや虫害等も早い段階で対策を取ることができます。
保管は「タトウ紙」もしくは「和装専用の保管袋」に
和装専門のクリーニング業者であれば、クリーニング後には着物用の「タトウ紙」に包んだ形で返却をしてくれるのが一般的です。しかし業者によっては、洋装と変わらないようなビニール袋に包んだまま…ということもあります。またお仕立て上がり(既成服)の浴衣等の場合、購入時にビニール袋に入っていることも。
このような「ビニール袋」のままで保管をするのは厳禁です。通気性の悪いビニール素材に包まれていると、カビが一層生えやすくなってしまいます。着物の保管は通気性が考えられたタトウ紙、もしくは和装専用の保管袋で行うようにしましょう。
おわりに
日本古来の伝統的な製法を取っている「着物」は、大切に扱えば何十年にも渡って着ていくことができる製品です。しかし温暖で湿度の高い日本では、「カビ」が非常に厄介な存在となります。「見た目にわからないから、大丈夫かな」と侮ることなく、早めに適切な処置を行っておくことが大切です。

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