着物にカビを見つけたら?応急処置とシミ抜きのポイント

「着物にカビが生えてる!」「着物がカビくさい…」大切な着物にカビの兆候を見つけた時、どんな応急処置を取ったら良いか知っていますか?大切な着物を守るためにも、着物とカビについての正しい知識を持っておくことは大切です。

絶対ダメ!着物のカビにNGの応急処置
着物のカビを見つけると、とにかく早くカビ臭いニオイやフワフワした白カビ等に対処したくなりますよね。でも慌てて普段の洋服向けのカビの応急処置をしてはいけません。
次のようなカビの応急処置を行うと、カビが取り切れないだけでなく、着物自体をダメにしてしまうこともあるのです。
着物のカビに消臭スプレー
着物がカビ臭い時、絶対にしてはいけないのが「ファブリーズ」や「リセッシュ」等の消臭スプレーをかける対処法です。
ファブリーズやリセッシュ等の消臭スプレーはそのほとんどが水(水分)でできています。ところが正絹やウールの着物は水がとても苦手です! スプレーをした部分だけが縮んで、ポツポツとウォータースポット(水シミ)ができてしまうこともあります。
また消臭スプレーに含まれる特殊な成分が染料に反応して、部分的に変色してしまう可能性もあります。着物のカビ対策には消臭スプレーは厳禁!絶対に使わないでくださいね。
着物のカビにベンジンでシミ抜き
ベンジンは着物の油溶性のシミ(ファンデーション汚れ等)を落とす時には便利なアイテムです。しかし着物のカビによるシミはベンジンでは落とすことができません。
無理にシミ抜きをすることでカビを繊維の奥に押し込み、被害を広げてしまうこともあります。
着物のカビにアイロンやスチーマー
スチーマーやアイロンで蒸気をあてて着物のニオイを飛ばす方法は、タバコの匂い・食事の匂いを取りたい時等に有効となることもあります。
しかし着物のカビ臭いにおいは、スチーマー(蒸気)では取り切ることができません。蒸気をあてて着物の繊維が水分を含むと、かえってニオイがキツくなったり、カビが増える原因にもなります。
着物のカビに直射日光をあてる
「着物のカビ菌を日光消毒しよう」と、太陽の光がさんさんと降り注ぐ明るい場所に着物を干す……タオル等ならOKのこの方法も、着物には向いていません。
着物の染料はデリケートなので、直射日光にあたると日焼けをしやすく、色あせが起こりやすくなります。
着物のカビの応急処置方法は?【ニオイ/見た目】
では、出した着物がカビ臭い時や着物にカビが生えているのを見つけた時には、どのような応急処置をすれば良いのでしょうか。
着物がカビ臭い時の応急処置
ホコリくさいようなムッとする異臭を感じたら、それは着物のカビのニオイです。早めに応急処置をしましょう。
陰干しでカビの嫌なニオイを飛ばす
着物を着る予定が1ヶ月程度先の場合には「陰干し(かげぼし)」でカビのニオイを飛ばすのがカンタンな方法です。
陰干しとは、日陰の風通しの良い場所で着物を干すこと。繊維にこもった空気を入れ替えることで、カビのイヤなニオイを目立たなくします。着物の畳じわも取れるので一石二鳥です。
陰干しで用意するもの
- 着物用のハンガー(物干しがある時には不要)
陰干しの手順
- 屋外に干す場合:庭やベランダの直射日光が入らない場所に着物を干します。着物ハンガーまたは物干しを使って、形を整えましょう。
- 屋内に干す場合:屋外に干す場所が無い場合には、窓を開けて室内に干します。空気が通りやすく陽光が入りにくい場所に着物をかけましょう。
- 風をあてる:1日6時間程度は外の風にあてて、ニオイを飛ばします。
- 取り込む:夜は着物が湿りやすいので、屋外の場合には取り込みます。
- 繰り返す:ニオイが気にならなくなるまで、2~3週間程度陰干しを続けます。
※陰干しは雨が振っておらず、湿度の低い日に行います。
扇風機やドライヤーを使う
陰干しだけだとなかなか着物のカビ臭さが取れない時には、扇風機や
ドライヤーでさらに風をしっかりあてて、繊維の奥のニオイを飛ばしましょう。
扇風機乾燥で用意するもの
- 扇風機/サーキュレーター(無い場合はドライヤー)
- 着物用のハンガー
風をあてる手順
- 下準備:窓は開けておきます。
- 着物を干す:直射日光の入らない場所に、着物用のハンガーを使って着物をかけておきます。
- 扇風機を設置する:扇風機の風が着物の全体にあたるように扇風機を設置します。風で着物がめくれあがり過ぎないように調整しましょう。
- 風をあてる:扇風機の風量を適度に調整しながら、風をあてていきます。ドライヤーの場合は、「冷風(COOL)」に設定して風を送りましょう。
※表面に白カビが生えている場合には、室内作業をする前に次の項目の「カビの見た目の応急処置」を行います。
※呼吸器系の病気やアレルギーがある場合には、屋内で風をあてるのは止めましょう。カビ菌の飛散が、症状を悪化させる恐れがあります。
※ドライヤーは「温風(HOT)」には設定しないでください。熱風を長時間あてると着物が傷む可能性が高いです。
着物のカビの見た目の応急処置
白くモコモコと生えてくる「白カビ」は、応急処置を行うのが比較的カンタンです。表面のカビだけを、優しく取り去っていきます。
カビの応急処置で必要なもの
- 古い布
- 着物用のハンガー
- ゴミ袋
- マスク
布はベルベット・ベロア・ネル等の起毛タイプの古い生地があると理想的です。無い場合には古いTシャツ等の柔らかい綿か、ガーゼでも代用できます。
マイクロファイバークロス等の丈夫な化繊生地は、着物のカビ取りに向いていません。摩擦で着物が傷んでしまう可能性があるためです。
カビが生えた着物の応急処置手順
- 下準備:カビを吸い込まないようにマスクを付けておきます。
- 着物を外に出す:着物をベランダや庭の直射日光が当たらない場所に干します。
- 布でカビ取りする:古い布で着物の表面を優しく撫でるようにしながら、白カビを取っていきます。
- 裏側から叩く:カビが生えている部分の裏側から布地を軽く叩いて、残ったカビを叩き出します。
- 後片付け:カビ取りに使った布はすぐにゴミ袋に入れて廃棄します。
- 陰干し:着物の表面のカビを取っただけではニオイが残ります。陰干しをして、着物のカビ臭いニオイを取りましょう。陰干しの方法は上の項目を参照してください。
※作業は天気が良く、空気が乾燥している日に行いましょう。
※カビの部分を強くこするのはNGです。カビを繊維の奥に押し込め、カビ被害が広がる恐れがあります。
着物のカビは自分でしみ抜きできない?
着物のカビにできる家庭でできる応急処置は、上で紹介したような「ニオイを飛ばす」「表面の白いカビを取る」というところまでです。次のような着物のカビの症状については、残念ながら自宅のしみ抜き等では対処をすることができません。
青カビ・黒カビは取れない
- 緑色の小さなシミがある
- 青っぽい斑点ができている
- 黒いポツポツがある
上のような症状は青カビ・黒カビによるものです。着物に生えてしまった青カビ・黒カビを取るには、専門店での「カビ取り」が必要になります。
自分でのしみ抜きでは着物の青カビは取れませんし、上で紹介したような布でぬぐう応急処置もNG。かえってカビ菌を広げてしまう恐れもあります。
カビで変色したシミも自宅しみ抜きNG
- 薄いオレンジ色のシミがある
- シミがコーヒー色に変色している
黄色~薄茶色~焦げ茶色のシミは、白カビ等が生えて時間が経ち、変色(黄変)をしたものです。このようなカビによる変色シミは、食べこぼしのシミや化粧品のシミとは違い、ご家庭でのしみ抜きでは対処ができません。
状態にもよりますが、専門店でカビ取りや黄変直しを行ってもらえばキレイにすることができます。
帯のカビは応急処置できない?
- 帯からカビ臭いにおいがする
- 帯にカビのシミがある
着物のカビ臭いニオイは、ていねいに陰干し等で風をあてるとかなり和らげることができます。しかし「帯(おび)」は風をあてるだけではカビのニオイを取るのが難しいです。
これは帯が袋状になっていて、中の芯材(しんざい)という芯の部分にカビが生えていることが多いため。帯の内側のには風をあてられないので、こもったカビ臭いニオイを取ることができないのです。
帯のカビのニオイを取るには、専門店で一度帯をほどいてもらい、外側の布は洗って、中の芯材を取り替えてもらうのが一番。外側からだけのアプローチでは、またカビのニオイが発生してしまう可能性が高いです。
応急処置できた着物も要注意!
フワフワとした白カビは、布の奥にまでカビ菌の根を伸ばしています。表面のカビを応急処置で取り除いても、全部を取り切れたわけではありません。繰り返しカビが生えてきてしまうのです。
カビが生えている部分が直径1センチ未満であれば、定期的に陰干しと点検をすることで対処ができることも。でもカビ範囲が1センチを超えている場合には、応急処置だけで終わらせず、早めに専門店で対処した方が安心です。
着物のカビ取り・シミ抜きできるクリーニング店の選び方
「着物のカビをしっかりしみ抜きしたい!」「着物にカビを生やしてしまったけれどキレイに元通りにしたい」と思ったら、信頼できる専門店に任せるのが一番です。
ただ、どのクリーニング店でも着物のカビ取り・しみ抜きができるわけではありません。大切な着物を預けられるお店をキチンと選びましょう。
着物専門のお店を選びましょう
着物のカビのトラブルの際には、着物を専門に扱うお手入れのお店を選びます。
悉皆屋(しっかいや):悉皆屋とは伝統的な着物のお手入れの店です。着物のクリーニング全般、染め直しやリフォームにも対応しています。
着物専門のクリーニング店:悉皆屋と同じようなサービス全般を扱うお店のほか、「宅配クリーニングで機械洗いのみ」といった簡易的なお店もあります。
呉服屋やデパート等、着物を購入した店舗にもお手入れの相談をすることは可能です。ただし呉服屋が仲介して悉皆屋に任せることと、仲介分の手数料などが発生します。着物のカビ取りの料金が高くなりやすい点には注意しましょう。
また「着物クリーニングもできる」という洋服クリーニングのお店は避けた方が無難です。着物と洋服だとカビ取り等の対処法が大きく違うので、最初から専門知識がある人に着物を見てもらうことをおすすめします。
「きもの丸洗い」はNG!「カビ取り」可能なお店を
ふだん着物をクリーニングに出す時には「着物丸洗い」を選ぶという人が多いのではないでしょうか。しかし着物丸洗いでは、着物のカビは取れません。
「着物丸洗い」は、洋服で言えばドライクリーニングのようなもの。石油溶剤を使って、特殊な洗濯機で着物全体を洗っています。「カビ取り」の場合には、機械洗いではなく、手作業でひとつひとつのカビに対処していく必要があるのです。
- 着物のカビ取りのメニューがあるか?
- 古いシミやカビの変色シミにも対応できるか?
着物のカビ取りをお店にお願いする時には、事前に必ずこの点を確認するようにしましょう。お店によっては「カビ取り」ができないだけでなく、カビの生えている着物の受付を一切行わない場合もあります。
酷いカビ向けの「洗い張り」ができる?
「洗い張り(あらいはり)」とは、着物をほどいて布の状態に戻し、水でしっかりと洗うお手入れの方法です。カビが生えている範囲が広かったり、帯等にカビが生えている時には、洗い張りが必要になることがあります。
着物専門のクリーニング店でも「洗い張りは対応していない」というお店は多いです。「カビの状態が酷いかも…」と思ったら、洗い張りにも対応できるかを確認し、お店を選んだ方が良いでしょう。
カビの変色シミを直す「染色補正」ができる?
着物にカビが生えてから長く放っておくと、着物の地色や柄の色が変わってしまうこともあります。例えば黒い喪服の色が抜けて、薄いピンクっぽいシミになっている…といった具合です。
このような「変色」「色抜け」等の症状がある場合は、「染色補正(せんしょくほせい)」による対処が必要です。染色補正とは、着物を部分的に(または全体的に)を色をかけて、変色した部分を目立たなくする技術のこと。専門的な技術を持った染色補正士が作業を行います。
悉皆屋等であれば、カビ取りはもちろん、染色補正までお願いをすることができます。「カビで着物の色がおかしくなった」という時でも諦めず、相談をしてみましょう。
おわりに
着物に生えたカビ菌は、一度発生するとどんどん増えてしまいます。時間が経ちすぎたカビのシミは、専門店でも直せない……ということも。「カビかも?」と感じたら、早めに専門知識を持ったお店に相談することが大切です。