着物の保管で失敗しないための6つのコツとは?

着物は私達が日常的に着ている服に比べて、とてもデリケートです。着物の保管に失敗してしまうと、虫食いやカビ・変色シミ等の思わぬトラブルが起きてしまい、大切な着物がダメになってしまうこともあります。
振袖や留袖・訪問着・喪服着物等の着物たちをいつまでも長く着られるように、正しい保管方法を知っておきましょう。

着物の保管場所の選択と整備
着物の保管中のトラブルを避けるためには、着物を置いておく場所や保管の方法をしっかり考えることも大切です。なんとなく決めていたタンスの位置が実は着物には良くなかった……こんなケースも少なくありません。
着物にプラスチックボックスはNG?
洋服類の保管にプラスチック製の衣装ケースを使っているという人は多いはず。でも着物の場合、プラスチック製のボックスでの保管はあまりおすすめができません。
これには2つの理由があります。
・プラスチックは湿気がこもりやすい
プラスティックは天然の保管製品のように呼吸をすることができません。内側には湿気がこもりやすく、カビ等を発生させやすいです。
・プラスチックは湿気が入り込みやすい
金属製品等に比べて、プラスティックは密閉度が弱いという問題もあります。海苔や紅茶、お煎餅、お菓子等の製品をプラスチックの箱に入れておいても、湿気てしまうのが早いですよね。
プラスチックケースは「湿気を絶対に入れない!」という密封対策にも弱く、反対に「入った湿気を外へと出す」という作用にも対応しません。
湿気がこもりやすい現在の日本の家庭の着物保管方法としては、とても適さない方法なのです。
着物の保管には「桐」が理想的
着物の保管にもっとも理想的なのは、桐たんす等の「桐」の製品です。最近ではクローゼットに入るサイズの桐たんすや、桐でできた衣装箱等も登場しています。
何枚も着物をお持ちであれば、このような桐の衣装タンスや衣装箱をご用意になることをおすすめします。
また桐に比べると重くて扱いにくいですが、金属製の衣装箱を使うのも手です。密閉度が高いので、除湿剤を入れておけば長期間カビ等から守ってくれます。
専用の保管袋を使う方法も
着物の枚数が少ないのであれば、着物専用の保管袋に入れてしまっておくのも手です。最近では「着物」「帯」等をひとまとめにして保管できる専用の袋も登場しています。価格は一枚1,500円~2,000円位です。
なお、専用保管袋は数年ごとに取り替えるのが一般的。長期間同じ袋を使うと吸湿力が落ちますので、注意しましょう。
風通しの良い場所を選ぶ
着物を保管する場所が湿気っていては、どんなに良いタンスを用意しても意味がありません。
- 浴室等に近い場所
- キッチンに近い場所
- 日当たりが常に悪い押入れ
このような湿気がたまりやすい場所にタンスや専用袋を置くのはやめて、できるだけ風通しの良い場所を選びましょう。またタンスや衣装箱は壁にピッタリと付けず、間をあけると湿気がこもりにくいですよ。
除湿・防虫グッズの準備
着物の保管中には「除湿」と「防虫」をすることが大切です。それぞれの対策グッズを用意しておきましょう。
除湿対策
除湿対策はやりすぎということが無いくらいに徹底した方が良いです。下に案内するすべての除湿剤を設置します。
1.ボックス型除湿剤
クローゼットの中、引き出しの中等に置いておくタイプの除湿剤です。『ドライペットスキット』や『水とりぞうさん』等が有名ですね。数ヶ月で水が貯まるので、定期的に交換してください。
2.除湿シートor新聞紙
引き出しや押入れの中には除湿シート、または新聞紙や半紙等を敷いておくと、除湿効果がさらに高まります。これも定期的に交換します。
3.新しいタトウ紙
着物を包む「タトウ紙」は、2~3年ごとに新しいものに交換します。5年以上同じものを使っていたり、茶色いシミ等ができていたらすぐに交換しましょう。
タトウ紙は近年ではインターネットでも購入できるようになりました。安いものなら1枚200円前後で購入できます。
4.着物用の除湿剤
タトウ紙の中に入れて除湿するタイプの除湿剤です。これには「着物専用」のものを選びましょう。成分が反応し、変色等をするのを防いでくれます。着物用除湿剤は、呉服屋や着物のお手入れ専門店等でも購入可能です。
防虫対策
ヒメマルカツオブシムシ等による虫食い被害は、一度起きると根絶するのが大変です。予防対策を徹底しましょう。
防虫剤はピレスロイド系がおすすめ
防虫剤には「樟脳(しょうのう)」や「ナフタリン」等もありますが、匂いがつきやすかったり、金箔・銀箔等の変色が起きてしまうものもあるので注意が必要です。
おすすめはピレスロイド系のもの。「着物専用」のものを選べば、正絹着物や箔押し着物にも安心して使えます。
防虫剤を混ぜて使わないこと
防虫剤を2種類も3種類も入れておくと、成分同士が反応し、着物の変色が起きるトラブル等の原因となります。必ず同じものだけを使うこと、また、着物に直接触れさせないことに気をつけましょう。
着用後には「陰干し」を
着物をお召しになった後、すぐに畳んで保管をしていませんか?一回着用した着物には、たくさんの熱や汗等の水分が含まれています。そのまま保管をすると「カビ」等の原因になってしまうのです。
着物を一度来たら、保管する前には必ず「陰干し(かげぼし)」をする習慣をつけましょう。
陰干しの方法
- 陰干しは直射日光が当たらない、風通しの良い場所で行います。また丈の長い着物がシワにならない場所を選ぶことも大切。屋外でも室内でも構いませんので、できるだけ理想的な場所で行いましょう。
- 着物専用ハンガー、または物干しに着物をかけて、着物を干します。洋服用ハンガーは型崩れの原因になるので避けた方が良いです。
- 室外の場合は朝9時~15時位までを目安に風をあてて、夕方には取り込みます。室内の場合はエアコンで除湿をしたり、扇風機等で冷たい風をあてても良いでしょう。
- 通常の陰干しは1日~2日程度行えばOK。汗をたっぷりかいた場合や匂いが気になる場合には、3日~一週間程度陰干しをして、湿気をしっかり飛ばします。
陰干し中に汚れもチェック!
陰干しをしている間に、着物に汚れやシミがついていないかよく点検をしておきましょう。襟元や裾(すそ)等には、意外と汚れが付いているものです。厳しい目でしっかり確認してくださいね。
着物に汚れやシミがあったら即対処
汚れが残ったままで着物を保管すると、汚れが酸素と少しずつ結びついて酸化し「変色シミ」が生まれてしまいます。陰干し中に汚れを見つけて対処しておけば、変色シミ等の原因を早くに予防することができるのです。
汗汚れには汗抜きを
汗を多くかいた場合には、ご家庭でもできる「汗抜き」をしておきましょう。
汗抜きの方法
- 冷たい水に柔らかいタオルを浸す
- タオルをギュッと固く絞る(水分ができるだけ残らないように)
- 絞ったタオルで汗が付いた部分を優しく叩いていく
- あとから乾いたタオルで再度優しく叩き、水分を取り除く
- いつもより長め(2~3日程度)陰干しをする
「汗をしっかり取りたいから」と着物に水を多く含ませるのはNGです。正絹着物等の水濡れに弱い着物の場合、水シミができたり、摩擦でスレ(白っぽくなる現象)が起きてしまいます。
皮脂汚れにはベンジンでお手入れ
襟元や袖の裏側には、皮脂の汚れが付きやすいものです。早めにベンジンを使って皮脂汚れを落としておくと、黒ずみになるトラブルを防げます。
皮脂汚れのお手入れの方法
- タオルを敷いて、その上に着物を広げておきます。
- 柔らかい布にベンジンを浸し、衿の裏等の汚れが気になる部分を軽く叩いていきます。
- 常に布やタオルのキレイな面があたるように、布を動かしていきます。
- 汚れが取れたら、もう一度ベンジンを布にたっぷりと浸して、ベンジンで濡れた部分と乾いた部分の境目がわからなくなるように広げてぼかしていきます。
- 着物用のハンガーに着物をかけて乾かします。
※ベンジンは引火性です。作業中は火器類の使用は厳禁です。
※ベンジン使用中は必ず窓を開けて換気してください。
※染色によっては色落ち・色ハゲが起こります。必ず変色テストを行うこと、また、強い摩擦で負担をかけないようにしましょう。
シミ抜きは原因を把握してから
汗や皮脂以外の汚れ・シミが着物に付いていた場合には、その原因に合わせた対処法が必要です。また、ご家庭で対処できるかどうかも原因によって変わってきます。
油溶性のシミの場合
オリーブオイルやごま油等、油分のみで構成されているシミの場合、ものによっては上の「ベンジンのお手入れ」でシミが取れることもあります。ただし古いシミ、大きすぎるシミ等は落ちません。
水性・水溶性のシミの場合
お茶や酒等のシミです。水洗いができる着物ならば、ご家庭での水洗いで対処が可能です。正絹着物等の水洗いができない着物の場合は、専門店でのシミ抜きが必要です。
混合性のシミの場合
水と油が混じり合っているシミです。水洗いできる着物の場合、早く対処すれば汚れが落ちることもあります。しかし水洗い不可の着物はご家庭ではシミ抜きできません。
不溶性のシミの場合
泥やペンキ等、水にも油にも溶けないシミです。これはご家庭では対処ができないので、できるだけ早く専門店に相談します。
原因不明のシミの場合
誤った対処をすると汚れが落ちなくなることがあります。原因特定を含めて、専門店に相談しましょう。
着物の保管前にクリーニングは必要?
着物を保管する前、クリーニングは必要なのでしょうか?これは「保管の期間」や「汚れの状態」によって変わってきます。
シミ・汚れが見つかった場合
上で対処法を解説していますので、できるだけ早くシミ抜きを行ってください。ご家庭で落とせないシミの場合にはクリーニングに出し「シミ抜き」を依頼しましょう。
シミ・汚れが無く数ヶ月以内に着用予定あり
気になるシミや汚れが無く、ワンシーズン(夏いっぱい、冬の間)等にもう何度か着物を着用する予定がある…このような時には、着物をクリーニングに出す必要はありません。
キチンと陰干しをしてから正しく保管すれば、次の着用機会にも気持ちよく着物をお召しになれることでしょう。
汚れは無いが一年以上は着る予定が無い
シーズンの終わり等でしばらく着る予定がなかったり、喪服着物や振袖・留袖等のフォーマル向け着物で「次に着る予定が思い当たらない」という時には、着物をクリーニング(丸洗い)に出しておくことをおすすめします。
繊維の中に残っている汚れ等をきちんと落としておくことで、長期保管中の変色等のリスクを減らすことができるためです。特にフォーマル着物は数年間保管し続けるケースも多いので、長期保管する前にしっかりと汚れを取っておきましょう。
定期的な虫干しと環境確認を
現在の日本のコンクリート製の住宅は、とても湿気を溜め込みやすいです。定期的な虫干し(陰干し)を行わないと、またたく間にカビや虫害等のトラブルが起きてしまうことがあります。
年に2回は虫干し(陰干し)を
まったく着物を着ない場合でも、年に2回は虫干し(陰干し)を行う習慣を付けましょう。「2月」「7月」「10月」等の晴れが多く、乾燥している季節に虫干しを行うのが理想的です。
最低でも年に一度は虫干しを必ず行ってください。数年以上もタンスに着物を眠らせたままだと、カビや虫害のリスクは一気に上がります。
除湿剤や防虫剤を取り替える
定期的な虫干し(陰干し)の際に、除湿剤や防虫剤の機嫌を確認し、新しいものと交換します。タトウ紙も2~3年に一度は交換するのが理想的です。
着物のトラブルを確認
虫干し・陰干しの際には着物を広げて、全体的にしっかりと状態を確認します。
- 変色シミ(黄変)ができていないか
- かび臭くないか
- カビが生えていないか
- 虫食いの穴ができていないか
- 虫の死骸や卵の跡が無いか
黄変やカビ等の症状が見られたら、できるだけ早く専門店に相談をしましょう。放置すると黄変が広がったり、カビ被害・虫害が他の衣類にも拡大してしまいます。
おわりに
着物の保管方法で気をつけるべき6つのポイントを守れば、着物のキレイな状態を長くキープすることができます。正絹でできた上質な着物は、本来50年も100年も着ることができるものなのです。
次にも着物を美しく楽しく着るために、また、お子さんやお孫さんへと着物を受け継いで着ていくために、ぜひ着物の保管方法には気を配ってみてくださいね。