着物の染色補正とは?シミを隠せる?プロが詳しく解説
「着物の染色補正」をご存じですか?地色を染め替えたり、柄を描き足したり、着物の染色補正の技法は様々。着物のシミを隠したり、新品のように作り替えることもできるんです。
染色補正とは「染め直し」?補正の種類は?
着物の染色補正(せんしょく・ほせい、と読みます)とは、カンタンに言えば部分的な着物の染め直しです。ケースによっては全体的な染め替えになることもありますが、ひとまずは「色や柄を変えることなんだな」と理解してもらえればOK。補正を行うのは、染色補正師という資格を持った職人さんです。柄だけを描きたしたり、地色を染め替えたり、様々な技法があります。
柄足し(がらたし)/柄つけ
着物や洋服の模様のことを「柄(がら)」と言いますよね。柄足しとは、「着物の模様を描き足す」という染色補正の技法です。(地域によっては柄つけと呼ぶこともあります)例えば蝶々と花束の模様の訪問着であれば、その柄に似た雰囲気の花と蝶をさらに書き足すというわけです。
柄染め(がらぞめ)/色掛け(いろかけ)
柄染めとは、柄の部分を除いて地色の部分だけを染める方法です。(色掛けと呼ぶものもあります)地色の色を濃くすることで柄を引き立てたり、全体的な黄ばみをカバーするといった効果もあります。
箔直し(はくなおし)
箔直しとは、金箔(きんぱく)や銀箔(ぎんぱく)などの箔加工を直したり、付け加えたりする技法です。着物を作ってから長い時間が経って変色したり剥がれてしまった箔を付け直すことで新品のようにしたり、新たに箔をプラスして華やかに見せたりします。
この他にも様々な方法があり、着物を全く新しい雰囲気に作り変えたり、アラを隠したりできるんですよ。
シミ隠しや黄ばみカバーにも!染色補正の目的
「着物を染め直しする」というと、一般的には「飽きた着物を作り替える(イメージチェンジする)ために行うものだ」と考える人が多いのではないでしょうか。でも着物の場合、実は染色補正は「シミ」や「変色」を隠すために染め直しをオーダーすることもたくさんあるのです。
取りきれない昔のシミに
着物にシミがついたら「シミ抜き」で対処をするのが一般的ですね。でもあまりにも古いシミだと、専門店でも「これ以上は取れない!」となることもあります。技術的に無理というより、布が漂白のパワーに耐えきれないんです。いくらシミが取れても、着物に穴が開いてしまったら意味が無いですもんね。
このような時、染色補正は役に立ってくれます。小さなシミであれば数センチの柄足しをするだけでカバーができることも多いのです。
シミが全体に散らばっている時に
例えばカビによる変色シミなどの場合、小さな水玉のようなシミが着物のあちこちに広がってしまっていることもあります。これを一つ一つシミ抜きで取り除いていくとなると、着物へのダメージも大きいですし、料金も上がってしまって大変です。無理にシミ取りするより、色掛けなどで地色を濃くした方が上手にカバーできることもあります。
濃色着物の変色・色抜け対策に
例えば喪服着物にファンデーションを付けて放置していると、その部分だけがピンク色や薄いベージュに色抜けすることがあります。お化粧品の成分によって着物の染料が破壊されてしまっているため、汚れをとるだけでは着物は元に戻りません。染色補正をして、抜けてしまった色をできるだけ元の状態に近づけていきます。
黄ばみ・黄変が起きてしまった時に
着物を長く保管していると、酸化や空気中のガスなどの原因によって「黄ばみ」を起こすことがあります。黄ばみは程度によっては「オレンジ色」「茶色」などの強い変色となっていることも。このような時も無理に広範囲の漂白を行うより、染色補正での対処がおすすめです。
「この着物はもう着られないかも」と思っていた着物が、染色補正によって見事に甦る・・・このような事例は珍しくありません。昔の着物や、酷いトラブルが起きてしまっている着物こそ、染色補正の出番!というわけです。
シミカバーだけじゃない!染色補正の新しい使い方
最近では、新しい考え方で着物の染色補正をオーダーされるお客様も増えてきました。より「現在の自分」や「これから着物を使う家族」に合った着物にするために、染色補正が使われるようになったのです。
娘や孫が着物を受け継ぐ時に
振袖や留袖・訪問着などの品質の良い着物は、何十年も着ることができます。でも娘さんやお孫さんが着物を受け継ぐときに、保管中にできたシミなどが気になる、といったケースは多いもの。特に最近では「ママ振袖」の人気上昇によって、染色補正を依頼する方が増えています。
年齢に合わせた色合いに変えたい時に
訪問着や色無地などの着物、若い時に華やかな色目で仕立てたら、なんだか最近似合わなくなってしまった・・・と感じる方も多いようです。地色を色掛けでワントーン控えめにするだけで落ち着いた雰囲気になり、使いやすくなりますよ。
パーソナルカラーに合わせたい時に
近年話題の「パーソナルカラー」。ブルーベース、イエローベース、春夏秋冬など、ご自分に似合う色合いが最近わかった!という人も多いのではないでしょうか。「好きな色で仕立てた着物だけど、パーソナルカラーに合っていなかった」という時、思い切ってパーソナルカラーのトーンに染め替える方も増えています。
着物の染色補正はどんなお店でできる?
着物の染色補正は、専門の資格者である「染色補正士」が在籍する店舗に依頼できます。ここではどのようなルートで依頼ができるのかを解説します。
購入店舗(デパートや呉服店など)
新品の着物をデパートや呉服店で買った場合だと、そのお店に補正依頼ができることがほとんどです。ただし購入店舗が直接に染色補正を行うのではなくて、購入店舗が仲介をして、悉皆屋(しっかいや 後で詳しく説明します)に依頼して、染色補正ができる工房に着物を回すことになります。そのため余分に仲介手数料がかかるので、料金はどうしても高くなりがちです。
悉皆屋(しっかいや)
悉皆屋(しっかいや)というのは、着物のクリーニングからお直しまで、様々なリペアを一手に扱う専門店のことです。シミ抜きやお仕立て直しはもちろん、染色補正も依頼することができます。当店『きものサロン創夢』も悉皆屋として、様々な染色補正のご相談を受け付けています。
おわりに
着物の染色補正について解説しましたが、「染色補正ってこういうものか」というイメージが掴めたでしょうか?最近では着物クリーニングと言っても機械洗いをするだけで、シミ抜きや染色補正ができず、「このシミはもう無理です」とお客さまにお返ししてしまうようなお店も増えているようです。着るのを諦めて廃棄してしまった・・・などと聞くと、残念なことと言わざるを得ません。染色補正があれば直せたのに!聞くだけで悔しいですよね。
当店『きものサロン創夢』は、シミ抜きだけでなく染色補正まで、様々な方法をお客さまにご提案し、着物の再生に力を尽くしています。宅配での全国対応も行っておりますので、お近くに悉皆屋や染め直しができるお店がない時には、ぜひお気軽にご相談ください。