着物の虫干し・陰干しとは?方法は?よくある質問をプロが解説!
着物のお手入れの基本中の基本とも言えるのが「虫干し(むしぼし)・陰干し(かげぼし)」です。かつてはどこのご家庭でも、定期的に着物の虫干しを行っていました。
しかし最近では着物のお手入れの文化が親から子、子から孫へと伝わらなくなり「虫干し・陰干しって何?」という質問を受けることも増えています。着物を虫干し・陰干ししなかった結果、カビが生えたり、虫害に遭ってしまったり…といったトラブルも増加しているようです。
大切な着物をいつまでも美しく着るためのお手入れとして、着物の虫干し・陰干しの方法を正しく身に着けましょう!
虫干し・陰干しとは?どんな意味がある?
着物の「虫干し(むしぼし)」とは、着物の繊維にこもった湿気を飛ばすために、直射日光を避けた場所で着物を干すお手入れのことを言います。陰となる場所で干すため「陰干し(かげぼし)」と呼ばれることもあります。
虫干し(陰干し)の役割は、ザックリ言うと「虫害防止」「カビ防止」そして「黄変等のトラブルの確認」です。一つ一つを詳しく見ていきましょう。
着物の虫害(虫食い)を防ぐ
Wikipediaより出典:ヒメマルカツオブシムシ
着物は様々な素材で作られていますが、フォーマル向けの着物だと「正絹(シルク100%)のものが多いですね。また普段着向けだとウールの着物も定番です。これらのシルクやウールの大敵とは何か?というと「虫食い」が挙げられます。
虫食いとは、ヒメマルカツオブシムシ等の幼虫に着物の繊維が食い荒らされ、穴が開いてしまうことです。開いてしまった穴を目立たなくするのは大変ですし、虫は一度発生すると根絶することが難しいもの。とにかく虫の卵を産み付けられないように、徹底して予防する必要があります。
着物の保管の際に防虫剤を入れるのはもちろんですが、これだけでは不足です!着物に溜まった湿気と温かい空気は、虫にとっては最高の環境。虫干し(陰干し)をしてキチンと湿気を飛ばすことは、虫食い(虫害)の効果的な予防対策となります。
着物のカビの発生を防ぐ
着物のトラブルでもうひとつ多いのが「カビの発生」です。日本は元々湿気が多い気候なので、衣類にはカビが生えやすいのですが…特に「着物のカビ」トラブルは、最近の方が増えています。
これは昔の木造建築よりも、最近のコンクリート建築の方が家の中に湿気を溜め込みやすいためです。昔の考え方で「桐たんすに入れておけば大丈夫」とおっしゃる方もいますが、残念ながら現在の住宅事情では「陰干し」をせずには衣類の湿気を飛ばすことはできません。
衣類向けの除湿剤を置く対策も併せて行いますが、定期的な虫干し(陰干し)はカビ防止のためには必須!一度衣類にカビが生えると、専門店でカビ取りをするしか対策ができませんので、防止が何より大事なのです。
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黄変等のトラブルをチェックする
着物にシミや汚れが残ったまま保管してしまう…特に「汗」等の見た目にわかりにくい汚れでは、このようなケースは多いものです。着物の繊維に残った汚れは酸素と結びついて少しずつ酸化し、黄色~茶色の変色シミへと変化していきます。
虫干し・陰干しは、このような変色シミ(黄変)ができていないかを確認するのにも良い機会です。数年もタンスに着物を入れっぱなし…といったことにならないように、虫干しで定期的なチェックを行いましょう。
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虫干しに良い季節や時間はいつですか?
着物の虫干し・陰干しは湿度が低く乾燥しており、なおかつ天気の良い時期に行うのが理想的です。また外干しする場合、一日の中でも湿気を含みにくい時間を選ぶことをおすすめします。具体的な時期・時間について詳しく解説します。
虫干しに適した季節とは
虫干しは、一日だけ晴れた時に行うのではあまり効果がありません。一週間以上も晴れが続くような、安定した季節に行うのがベスト。定期的な虫干しは、昔から次のような季節に行うのが良いと言われています。
- 1月後半~2月上旬:空気が乾燥した晴れが続く時期を狙います。
- 7月下旬~8月上旬:梅雨が終わった後、カラリと晴れた初夏の頃に行います。
- 10月~11月上旬:暑さが収まり、さっぱりとした秋晴れが続く季節も着物の虫干しにはピッタリです。
ただし上の季節は、本州東~中部あたりの温暖な地域を想定したもの。雪国であったり、雨が多い地域の場合だと、上のとおりには行かないこともあります。
また最近では地球温暖化防止の影響で、梅雨入り等が大きく変動しやすいです。天気予報の週間予報をチェックしながら、晴れの日が続くときを狙った方が良いでしょう。
虫干しに適した時間とは
着物の虫干し・陰干しのために外で着物を干す場合は、朝9時~15時位の間に干して、夕方までには着物を取り込むようにしましょう。夕方から夜にかけては気温が下がり、着物が湿気をまた吸い込んでしまうからです。
ただ最近では室内でエアコン等を使いながら虫干し・陰干しされる方も増えています。そのように空調で湿度を調節できる場合には、夕方・夜間を使っても構わないでしょう。
虫干し・陰干しに最適な場所はどこ?
着物の虫干し・陰干しでは「直射日光に着物を当てない」ということが重要です。また屋外で着物を干す場合、風通しが良い場所を選ぶようにしましょう。
直射日光は「色あせ」の原因に!
日常的な衣類を洗濯した後には、直射日光にあててサッパリと乾燥させる…という人も多いことでしょう。でも着物の場合には、直射日光で乾燥させる方法は取ってはいけません!
特に正絹着物はとてもデリケートで色あせをしやすいです。赤等の褪色しやすい着物だと、一度で大幅に色が悪くなってしまうこともあります。
室内干しをする場合でも、直射日光が差し込む場所は避けるようにしましょう。
ジメジメした場所は避ける
特に部屋干しをする場合、「浴室が近い」「キッチンが近い」といった水場のそばは避けた方が無難。窓を開けて風がキチンと通る場所や、エアコン等の風が通る場所を選ぶようにしましょう。
着物がかけられる「高さ」も重要
女性ものの着物は「おはしょり」を作って着るので、着物の丈はあなたの身長よりも頭ひとつ位長くなります。一般的な洋服をかけるための高さだと丈が足らず、裾(すそ)の部分がクシャクシャになってしまいがちです。
虫干し・陰干しで湿気を飛ばせても、シワを作ってしまっては意味がありません。キチンと形を整えて干せる高さがある場所を選ぶことも大切です。
虫干し・陰干しで準備しておくものは何?
着物の虫干し・陰干しでは「着物をかけるもの(着物用ハンガーまたは物干し)」が必要です。また、室内干しする場合にはエアコンや扇風機、サーキュレーター等があると理想的です。
着物専用ハンガーか物干しを使う
洋服用のハンガーは衿(えり)・肩の型崩れの原因となるので、使わないことをおすすめします。着物専用のハンガー(1本1,000円前後~購入できます)を準備した方が良いです。
着物を着る限り和装ハンガー(着物ハンガー)は定期的に使いますから、ぜひ準備をしておきましょう。
なお着物の虫干し・陰干しの際に「物干しに直接かけられる」という場合なら、着物ハンガーは必要ありません。物干しではなくても直線的なバーになっているタイプのものなら、型崩れしにくいです。
室内干しでは風を当てよう
外干しに比べると、室内干しは風が通りにくく、虫干し(陰干し)の効果が出にくいことがあります。扇風機やサーキュレーター等で室内の空気を動かせば、室内干しでも湿気を飛ばしやすいので、利用することをおすすめします。
虫干し・陰干しの手順は?
着物の虫干し、陰干しの手順は「着物を広げて状態確認」→「着物を干す」→「タトウ紙を交換して保管」です。それぞれを詳しく説明していきます。
1.明るい場所で着物を点検します
着物を虫干しする前に、明るい場所で着物を広げて全体をチェックしましょう。
【確認項目】
- 虫食いはできていないか
- カビくさくないか
- 変色シミ、カビのシミ等の被害はないか
裏地や裾の部分等は見落としやすいので、特にていねいに確認するようにしてください。
2.着物を干します
直射日光を避けた場所に着物を干して、ゆっくりと乾燥させます。室内干しする場合には、エアコンを使って湿度を下げたり、扇風機で風をあててもOKです。
3.着物を取り込みます
外干しの場合には、夕方になる前に着物を取り込みます。室内干しでエアコン調整している場合は、そのまま干し続けてもOKです。
年に2~3回の定期的なお手入れをしている場合なら、着物を干す期間は丸一日程度でもOK。しかし数年お手入れをしていなかったり、着用時にたくさん汗をかいた場合等は、数日程度の陰干しをしてしっかり乾燥させた方が良いです。
4.タトウ紙を交換して保管します
2~3年以上タトウ紙(文庫紙)を交換していない場合には、タトウ紙を新しいものに交換してから保管しなおします。
虫干しの頻度は?着なくても陰干しするの?
着物の虫干し・陰干しは「着用後」には必ず、また着用しない場合でも「年に2回」は定期的に行うのが理想的です。
着用後には必ず陰干しを
着物を着用した後にすぐにタンスやクローゼットにしまうのはNGです。一度着物を着用すると、繊維の中は体温による熱や汗による湿気が溜め込まれています。
丸一日~三日程度は陰干しをして、しっかり湿気を飛ばしてから保管するようにしましょう。
着ない着物こそ虫干し・陰干しを!
日常的に着ない着物こそ「虫食い」「カビ」「黄変」のトラブルは起きやすいです!着ない着物こそ、年に2回は定期的に虫干しをして湿気を飛ばし、状態を確認するようにしましょう。
特に喪服着物やフォーマル向けの振袖・留袖等、正絹着物の扱いには要注意です。どんなに忙しくても年に一度は陰干しをするようにしないと、甚大なトラブルが起きる可能性が上がります。
虫干しの時にタトウ紙を変える理由は?
着物を包むタトウ紙(文庫紙)には、湿気を吸い取り、着物をカビや虫から守る役割があります。数年使うと吸湿力が衰えるので、虫干しのタイミングで定期的に交換しましょう。
タトウ紙はどこで売っている?
タトウ紙は着物を扱うお店の他、最近ではAmazon・楽天等のネットショッピングでも購入することができるようになりました。価格は安いものなら1枚200円~300円、本格的な和紙のものだと700円~1,000円前後位になります。
購入店の名前入りのものはブランドバッグと同じで単体では売っては貰えないですが、名前無しのものなら呉服店等でも扱っていることがあります。
タトウ紙1枚に対して着物1枚が原則!
「タトウ紙がもったいないから」と、タトウ紙の中に着物を2枚も3枚も重ねて保管する人がいますが、これはNGです。たくさん着物をまとめて入れるほど湿気がたまりやすくなり、カビ・虫害等の被害が起こりやすくなります。
タトウ紙1枚に対して、着物は基本的に1枚まで。また、香袋等は変色シミの原因となるので入れないでください。
虫干し・陰干しでトラブルを見つけたら?
着物の虫干し・陰干しの際の点検で「虫食い」「カビ」「変色シミ」等のトラブルを見つけた場合には、できるだけ早く着物を専門に扱うお店に相談をしましょう。
丸洗いクリーニングでは解決できません
「カビ」や「変色シミ」等のトラブルは、一般的なクリーニング方法である丸洗いクリーニング(ドライクリーニング)では解決することができません。
洋服メインの一般的なクリーニング店の場合、できるメニューは丸洗いまたは新しいシミ抜き位までです。カビや古いシミ(変色シミ)がある着物はお断りされてしまったり、丸洗いだけされてお手元に戻ってくることになってしまいます。
悉皆屋等の着物専門業者に相談を
「着物のカビ取りクリーニング」や「虫食いのお直し」等の加工は、悉皆屋(しっかいや:着物のお手入れを専門に扱う伝統的な業者のこと)であれば対応することができます。
また変色シミ(黄変)も、古さや程度にはよりますが、黄変抜きで対処できるケースも。裏地にできたシミ等は、裏地を交換することで新品のようにキレイにすることもできます。
着物専門のお手入れ業者であれば、他のお店で「これは無理」と断られたものでも対処することが可能です。ただ、あまりにも時間が経ってしまうと専門店でも着物を元に戻せなくなってしまうことも。虫干し・陰干しの際に「変だな?」と思ったら、できるだけ早めにお店に相談をしましょう。
おわりに
着物の虫干し・陰干しについてよくある質問に回答していきましたが、わからない点は解消できましたか?悉皆屋「創夢」では、着物のお手入れやクリーニング等についての皆様の疑問をできるだけわかりやすくお答えしていきます。
お手入れのこと、着物のことでわからないことがあったら、お気軽にお問い合わせくださいね。