振袖の色の意味・伝統と現代
成人式などで着用する振袖は、独身女性が身につける最高格の礼装用着物です。大切な振袖を選ぶ時、振袖の色の意味が気になるという人も多いのではないでしょうか?
振袖の「赤」太陽・生命・魔除け
赤は日本では「太陽」を示す色です。日本人の感覚ではこれは当然のことなのですが、実は世界的には珍しい感覚なんですよ。世界的には太陽は「黄色(金色)」で描かれることが多く、赤を太陽と感じるのは実に「日本らしい感性」と言えます。
全ての生命の元とも言える太陽のイメージから、赤は「生命(生命力)」「強さ」などを連想させる色として定着しました。江戸時代までは子どもが病気の時に赤色の衣類を着せましたし、現在でも還暦の方に赤い色の服を送るのは「元気でいてほしい」という心の表れとも言えます。
赤には上記のように病気などの悪いものを祓う「魔除け」的な意味合いも強く、大変に縁起の良い色の一つと言えます。振袖の色として赤は定番色の一つとも言えるほど昔から人気がありますが、これも上記のような「縁起の良さ・おめでたさ」が影響をしているのでしょう。
【現代でも赤は「炎」や「生命」のイメージ】
赤は炎の色を連想させることからか、「熱」や「暖かさ」を人間に感じさせる色としても知られています。また心理学的には食欲を沸かせたり、アドレナリンの分泌を促し興奮させる色でもあります。赤は世界的にも、活動を活発にさせる「生命の色」であるとも言えますね。
振袖の「青」海・空・瑠璃・勝利
青色は広々とした海、晴れわたった空などを連想させるため、「自然」を連想される方が多いようです。また深みのある濃い青色である「瑠璃色(るり・いろ)」は仏教の七宝のひとつである「瑠璃」に近い色合いであることから名付けられました。
「仏教世界の非常に貴重である宝玉と同じ色合い」ということで瑠璃色は珍重され、「高貴な色」として奈良時代・平安時代から貴族たちに好まれ続けています。
宮中で行われる行事で妖(良くないもの)から身を守る時の衣類にも、瑠璃色に近いような青色が選ばれていました。それだけ青には守りのパワーがあると考えられていたのでしょう。
また、より濃く深みのある青、紫に近い濃紺色である褐色(かちいろ)は「勝つ色」であると考えられ、古来より武士や勝負事を生業とする人々から好まれてきました。最近では「縁起の良い色」として、サッカー・野球などのユニフォームにも取り入れられています。
【現代では「誠実」「知的」などのイメージも】
強さを感じさせる赤に対し、青には「落ち着き」や「知性」「誠実さ」を感じる人が多いことが現代の心理学の研究では判明しています。
銀行や証券会社など、信頼性を重んじる企業の多くがイメージカラーに青系の色を選ぶのも、やはりこのような「信頼性の高い印象」が青にあるからなのでしょう。知的なイメージを出したい時に、青色はぴったりの色と言えそうです。
振袖の「黄」豊穣・光・富・繁栄
黄色は日本の主食である「米(コメ)」の元である「稲(イネ)」が成った状態、田んぼに稲穂(いなほ)が実ったところをイメージさせる色であることから、日本では古来より「豊穣(ほうじょう)」を連想させる色として定着していました。
「いつも豊かに実りがあること」というおめでたいイメージがあるので、農業系の方にはもちろんのこと、生産系の従事者の方などにも大変に好まれる色の一つと言えます。
またその後には最も貴重な鉱物である「金」に近い色、貨幣価値の高い「金貨」を連想させる色であることから「富」や「繁栄」というイメージも付加されるようになりました。「お金に困らない」「商売がうまくいく」といった縁起の良い印象があるわけですね。
【現代では「元気さ」や「ポジティブさ」も】
黄色は柔らかな光や明るさを想起させる色でもあるため、現代では「元気」「ポジティブ」「ほがらか」「明るい」といった印象を与えやすいことが心理学の研究で判明しています。
健康関連の企業や教育関連などで黄色が用いられるのも「元気さ」が感じられるからなのでしょう。溌剌としたイメージにしたい時にぴったりの色と言えそうです。
振袖の「白」清浄・穢れの無さ・神秘
白は「汚れのついていない状態」を連想させることから、古来より「清浄さ」「綺麗さ」を意味する色として珍重されてきました。穢れ(ケガレ)から距離を置いた色というのは、日本では大変に重要だったのです。
例えば江戸時代まで、子どもを産む時の母親が身につける衣類の色も白でしたし、お遍路さんが巡礼で身につける装束の色も白でした。生や死に近づくような大切な時にこそ身につける色、それが「白」だったのです。
このような特別感のある色であることから、白には「神秘的」といったイメージも付加されています。
【現代では「花嫁」のイメージも】
西洋では元々、白は「清廉潔白」「無垢」を表す色として花嫁衣装に使われてきました。昭和以降、白無垢やウエディング・ドレスによる結婚式文化の定着によって、日本でも白に「結婚式」のイメージを持つ人も増えています。
振袖の「紫」 高貴さ・雅やかさ
西洋では中世に入る頃まで、紫色をキレイに発色させるためには特別な貝を使って絵の具を作るしかありませんでした。そのため紫は大変に貴重な色であり「紫=特別な色」という価値観が少しずつ東洋にも伝わるようになっていきます。
中国へ、そして日本へと伝達された「紫」の価値観によって、紫は高貴さを表す色として定着していったのです。貴族などの高い位の人々が紫を好んで身につけたのも、このような高貴さのイメージがあったからと言えるでしょう。
その後の時代でも、紫には高貴さや雅な雰囲気を与える色として定着しました。淡い藤色のような色は上品さを、深い紫は落ち着きも感じさせます。
【現代では「大人っぽい」イメージも】
紫には上記のような「高貴さ」のほか、ミステリアスさ、神秘さ、秘密っぽさ、艶やかさなどの印象を感じる人が多いことが心理学の研究で判明しています。
一言でまとめてみれば「紫=大人っぽい色」ということでしょうか?近年の成人式で紫色の振袖にも人気があるのは、大人らしさを演出したいという心理の表れかもしれませんね。
おわり
今回は振袖の色とその意味について、日本の伝統的な意味合いに加え、現代的なイメージについても解説を行いました。振袖の色にはそれぞれに美しく良い意味合いが込められています。元気に健康に生きてほしい、清らかに、朗らかに生きてほしい・・・そんな思いの込められた振袖、ぜひ大切にお召しになってくださいね。
なお着物・振袖のクリーニングやお手入れ専門店の立場から申しますと、振袖の色は一般的な洋服(普段着)に比べて褪色・変色が起きやすいので注意をしてほしいところです!「風を通すために」と振袖を陽光に晒しすぎてしまい、色が薄くなってしまった・・・このようなトラブルも多く聞かれます。
成人式やご結婚式に振袖を着る前にはよくチェックをして、振袖の色がおかしくなっていないか、ご確認くださいね。また当店では、振袖の色の染め替えなども受け付けております。「ママ振袖の色が自分に合わない」「振袖の色をもう少し落ち着いた色合いにしたい」等でお困りの時には、お気軽にご相談ください。