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着物の色ヤケとは?ヤケ直しできる?6つの疑問をプロが解説

着物の色ヤケ

久しぶりに着物を出してみたら、部分的に色がおかしい!こんなトラブルで考えられるのが「色やけ」です。色ヤケとは、紫外線やガスなどの影響によって着物の染料が変質し、着物の色が変わってしまうことを言います。でもこれ、着物のヤケ直しというリペア方法でお直しをすることもできるんですよ。

坂根克之
坂根克之
こんにちは。着物関係一筋50年 きものサロン創夢(そうむ) 坂根克之です。ここでは着物の色ヤケやヤケ直しについて、着物のプロが初心者の方にもできるだけわかりやすく解説していきます。着物の色ヤケ、変色などにお困りの時の参考にしてみてくださいね。

着物の色ヤケとは何?シミとは違う?

着物の色ヤケとは、何らかの原因で着物の染料が変質し、着物の一部が変色・褪色(色あせ)してしまう現象のことを意味しています。紫外線による「日焼け」などが原因となることから「色やけ」と呼ばれるようになったと考えられています。

シミとの違い

一般的な「シミ」は、何らかの汚れ(食べこぼしや飲み物のシミ、泥など)の汚れが付着したことによってその部分が汚くなっている状態のことを指します。これに対して「色ヤケ」は、(汗などが遠因となることもありますが)必ずしも汚れの付着によって起こるものではありません。例えばずっとタンスにしまっていた一度も着たことがない着物でも、色やけが起こることはあります。

色が褪せたり変化する

着物の色やけでは、着物が部分的に色が薄くなったり、従来の色とは違う状態になります。例えば濃い緑色だった着物の色が淡くなってしまったり、桃色の着物がなんとなく黄色がかった色になったり…といった具合です。紫外線では青色の染料が破壊されやすい傾向があります。そのため桃色(ピンク)に含まれる青っぽい色味が壊れて、なんとなく黄色っぽいくすんだ色になってしまうというわけです。

紫外線による色あせ(色飛び)は特に青、紺、緑色、青みの強い紫等で起こりますが、その他グレーや上のような暖色系(ピンクやオレンジ)などでも起こることがあります。

広範囲で起こることも

着物の色やけは部分的な変色であると書きましたが、黄変などの「黄変シミ(酸化シミ)」に比べると広範囲で症状が出やすいのが特徴です。着物の右半分が大幅に変色したり、縫い目に沿って長く変色が起こることもあります。変色部分が30センチ程度どころはもちろん、60センチ、1メートル以上に及ぶことも珍しくありません。

着物が色ヤケする原因は?日焼けだけじゃない?

着物の色やけの原因には、紫外線や蛍光灯による刺激、ガスの影響など様々なものが挙げられます。着物の染料や繊維には天然由来のデリケートなものが多いため、ほんの少しのつもりの刺激が色やけ、褪色、変色を招いてしまうことがあります。

日干しによる褪色

着物は日光(紫外線)に強くない衣類です。染料の種類によっては、ほんの数時間程度の日焼けで激しい色あせを起こしてしまうこともあります。そのため着物の虫干しなどを行う際には日差しを避けて行うのが鉄則なのですが、つい取り込むの忘れてしまった…ということも。このような日焼けによる色ヤケは意外と多い原因の一つです。

室内での放置による褪色

室内に着物をかけていれば色やけしないと思っていませんか?紫外線はガラスを通して入り込んできます。特に紫外線A波(UVA)はガラス等ではほぼ遮ることができず、真っ直ぐに室内に降りそそでいるのです。

着物を室内干しする時に窓に近い場所、日差しが入り込む場所に干すと、これが色ヤケの原因になります。また影の場所でも長時間の放置は厳禁。室内干しが長時間になるほど、色やけが起きるリスクは高まります。

ガス発生による変色

着物の色やけは、何らかのガスの影響でも起こります。タンスの中、引き出しの中などに充満している微量のガスが、染料を変質させてしまうのです。ガスを起こす原因としては、防虫剤や汗の成分、タンスのそばで使われるストーブ、湿度など、様々なものが考えられます。

長期間保管されていた新品の着物などでも、ガスの影響による色やけが起きてしまうケースは多いです。

着物の色ヤケ「ヤケ直し」は自分でできる?

着物の色ヤケを直す技術を「ヤケ直し」と言いますが、これは専門技術を学んできた職人さんが行う非常に高度な技術です。ピースガンや刷毛、筆、特殊な染料等を用いてできるだけ元の色に戻るように繊細な色補正を行っていきます。着物の色ヤケのヤケ直しは、ご家庭ではできません。

例えばですが、和式の染色を学んでいる方が、気楽な普段着の着物を染め直すことで自分でヤケ直しをする…といったケースは(稀にですが)あるかもしれません。しかしこれは特例中の特例です。またこのケースでも色ムラを起こす可能性は高く、 あくまでも「ダメ元」で行うような方法と言えます。

  • 染色補正をきちんと学んだ経験が無い(独学である)
  • 色ヤケを起こしたのが礼服やお出かけ着である
  • これからも着たい大切な着物である

上が思い当たるようであれば、自己流やネット情報でのヤケ直しはやめておくことを強くお勧めします。自己流でヤケ直しをして失敗してしまった後に専門店に着物を持っていき相談しても、もうプロでも直せない…となる可能性が高いからです。

着物の色ヤケを戻していく「ヤケ直し」の難しさは、木工で言えば「家を自分で建てる」くらいのものだと考えた方が良いです。DIYのレベルにも色々ありますが、ヤケ直しは一般的なDIYでやる範疇の技術ではない、と考えて貰ったほうが良いでしょう。

着物のヤケ直しはどこで頼める?

着物の色ヤケのヤケ直し
着物の色ヤケのヤケ直し

着物のヤケ直しは、購入した呉服店(百貨店などを含む)や悉皆屋(しっかいや・着物のお直しの専門業者のこと)に依頼できます。仲介手数料を抑えたいのであれば、悉皆屋さんに直接依頼が理想的です。以下にお店ごとの違いやメリットデメリットを解説します。

呉服屋・百貨店呉服コーナー

購入した着物であれば、色やけのヤケ直しなどのメンテナンスやリペアはほぼその呉服店や百貨店などで依頼ができます。そのお店で買った商品では無い場合だと、対応はまちまちです。なお、呉服店や百貨店が直接リペアを行うのではなく、そこを通して悉皆屋さんに依頼をすることになるので、基本的に仲介手数料(マージン)が発生します。そのため大手百貨店等だと、着物の色ヤケのヤケ直し料金は高くなってしまうことが多いです。

着物クリーニング店

一般的なクリーニング店(洋服向けのお店)だと、着物の色やけのヤケ直しは断られてしまう可能性が高いです。また「着物専門クリーニング」とネットで書いてあっても、ヤケ直しなどの専門対応はできず、丸洗いしかしないようなお店は意外と珍しくありません。

着物の色ヤケのヤケ直しを依頼する場合、着物を専門に扱うクリーニング店で、なおかつ染色補正ができる職人が在籍(または提携)していることが条件となります。公式サイト、ホームページを見て、染色補正色やけ直しに対応できるかよく確認してみましょう。(お店によっては職人がいなくて結局別の悉皆屋を通し、呉服屋や百貨店と変わらない位に仲介料をとる悪質なところもあるので注意してください)

悉皆屋(しっかいや)

悉皆屋というのは、着物のクリーニングシミ抜き仕立て直しや染め直しまで、すべてのメンテナンスやリペアを扱う専門業者のことを言います。悉皆屋であれば、もちろん色やけのヤケ直しは依頼ができます。業者さんへの直接依頼となるため余分な手数料も発生せず、料金も割安です。

ただ最近では悉皆屋の数が減ってしまっています。お近くに悉皆屋が無い方もたくさん居ることでしょう。当店『きものサロン創夢』は昔ながらの悉皆屋であり、もちろん着物の色ヤケのヤケ直し対応も行っています。宅配での対応もできるので、お困りの時にはご相談ください。

着物のヤケ直し料金はいくら?

着物の色ヤケに対処する「ヤケ直し」の料金は、生地の種類、色合い、ヤケ症状の状態などによって変動します。ヤケ直しの料金が一律でいくら、ということはほぼありません。「無料見積もり」をしてくれるお店を選ぶことをおすすめします。

着物のヤケ直し料金の変動要素

着物のヤケ直し料金は、次のような要素で変動します。お店によって基準が違うので、わからない点は質問してみても良いでしょう。

ヤケ症状の範囲(サイズ)

ヤケの症状・範囲が広くなるほど、着物のヤケ直し料金は上がっていきます。シミ抜きですと1~2センチ単位で変動するのが一般的ですが、色ヤケは症状が広く出やすいので、10センチ~30センチ単位で変動するお店が多いです。例えば「30センチまでならいくら位」「60センチまでならいくら位」というわけですね。

ヤケ症状の程度

ヤケ症状の重さによっても、着物の色ヤケのヤケ直し料金は変動することが多いです。これについては一概に「軽い/重い」の例を出しにくいのですが、ヤケが起こっていない範囲と布地を並べて比較した時にハッキリと色あせ・変色が認識できる場合、症状は重いと考えてもらった方が良いでしょう。

着物の色合い

生地の濃度や色相によっても、どんな染料が必要になってくるかは変わります。

着物の生地の種類

生地の素材、織り方等によってもヤケ直しの難易度が変わってきます。一例ですが、縮緬(ちりめん)等だと染色補正加工が非常に難しいため、ヤケ直し料金が高くなりやすいです。

着物の柄の有無

柄部分にも変色が起きている場合、柄の書き直し・描き足し等が必要になることもあります。江戸小紋等の細かい柄の場合にはこれを手書きで書き直すことも。このような繊細な作業が必要と見込まれる場合には、ヤケ直し料金が変動します。

【見積もり確認できるお店を選びましょう】
「見積もり(みつもり)」とは、お店の人が実際に着物の状態を見て、どの程度のヤケ直しが必要になるかを判断し、料金の予算をお客様にお出しすることを言います。着物の色やけに対処する「ヤケ直し」の場合、上記のように様々な要素で料金が変動するため、実際の料金は「お見積り」となるお店がほとんどでしょう。

色ヤケのやけ直しを依頼する際には、作業に入る前に見積もり確認をキチンと行ってくれるお店を選ぶことをオススメします。当店『きものサロン創夢』も着物の色ヤケ対処・ヤケ直しを受け付けておりますが、ご依頼の際にはお客様にご予算を事前にお伝えし、納得いただいてから作業に入るようにしています。トラブル防止のためにも、お見積もり対応を適切に行う店を選びましょう。

着物の色ヤケを予防するには?

着物の色ヤケ予防には、まず紫外線や蛍光灯等による光線の刺激を避けることが大切です。また悪影響のあるガスに触れ続けないように、空気の入れ替えをすることも有効とされています。具体的な予防法を以下に解説します。

直射日光を避ける

まず紫外線の予防は絶対です。干す際には直射日光にあてることが無いように気をつけましょう。特に青、緑、紫等の着物をお召になる際には、お出かけの時に日傘等でカバーをするのも手ですよ。

長時間の室内干しNG

帰宅して脱いだ着物をつい干しっぱなしにしてはいないでしょうか。長時間の室内干しは着物の色ヤケの大きな原因になります。適度に湿気を飛ばしたら、早めにタンスにしまいましょう。

汗取りクリーニングしておく

汗の成分が蒸散し、タンスの中等に充満すると色やけの原因になりやすいと考えられています。汗に含まれるミネラル成分は黄変という酸化シミ(黄ばみや茶色のシミ)の原因にもなるので、早めに除去しておきたいところです。夏場に着物を着たり、暖房の効いた場所で汗をかいた時、長期間の保管前などには、専門店で汗取りクリーニングしておくことをおすすめします。

防虫剤は1種類を適量で

違う種類の防虫剤をタンスの中に入れていると、衣類に良くないガスが発生してしまうことも。また防虫剤の入れ過ぎもよくありません。防虫剤は1種類を、タンスの大きさに合わせて適量に入れるようにしましょう。金箔等に不向きな防虫剤もありますから、防虫剤の種類をよく確認することも大切です。

年に2~3回は虫干し(陰干し)を

タンスの中に着物を入れっぱなしにしていると、染料に良くないガスが溜まってしまいやすくなります。年に2~3度は引き出しから着物を出し、タトウ紙をあけて着物を陰干ししましょう。定期的に空気を入れ替えることが、色ヤケの防止に意外と大切なのです。

色やけについては、ある程度のお手入れをしていても起こってしまうことがあります。これは環境変化や繊維・染料の経年による変質等も色やけの原因となることがあるためです。定期的な虫干しのお手入れの際に着物の状態をよくチェックして、症状が軽いうちにヤケ直し対処をしておくのが理想的です。

おわりに

着物の色ヤケの対処、ヤケ直しについて今回は解説しました。着物を室内に干していて色あせしてしまった…といったご相談が最近では増えています。洋服ももちろん色ヤケはしますが、着物の繊維・染料はとてもデリケートなので褪色しやすく、「こんなに褪せてしまうのか」と驚く人も多いようです。着物には日焼け止めを塗ることができませんから、十分に注意をしてあげてくださいね。

「こんなに色ヤケしては、もう着ることができないのでは」と嘆かれる人も多いですが、当店ではできるだけのヤケ直し対処をしております。熟達した職人による染色補正の技で、「新品のようにキレイになった」と喜ばれることも多いです。色ヤケした着物を諦める前に、ぜひお気軽にご相談くださいませ。

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