着物収納には桐たんす?メリット・デメリットをプロが解説!
着物の収納法には様々なものがありますが、中でも頻繁に名前が上がるのが「桐たんす」です。「着物収納には桐たんすが一番!」といった話を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
桐たんすはたしかに着物と相性が良く、現在でも理想的な着物収納法と言えます。ただ桐たんすにはメリットばかりがあるわけではなく、デメリットもある点は考慮しておいた方が良いでしょう。
桐たんすの5つのメリット
1.調湿作用が着物に最適
桐たんすが着物に良いとされる最大の理由が、桐の調湿作用の高さです。調湿作用とは何か?というと、湿度を調整して、ちょうど良いくらいに調整できることを言います。これ、着物の収納にはとても大切なポイントなんです。
着物は湿度高すぎも低過ぎもダメ?
着物の保管中の最大の敵とも言えるのが「湿気の問題」です。着物の繊維の中に湿気(水分)がたまり、温かくムシムシとした環境になってくると「カビ菌」が繁殖しやすい環境になっていきます。しかし反対に極端に湿気を取りすぎるのも、着物にとってはトラブルの種なのです。
高すぎる湿度で起こる着物トラブル
- 着物がカビくさい(カビの初期症状)
- 白カビ・黒カビなどが表面に生える(カビの中期症状)
- カビが生えていた部分が変色する(カビの末期症状)
- ヒメマルカツオブシムシ等の幼虫に繊維を食べられる(虫食い)
カビのリスクが高まるのは大問題です。日本はもともと湿度が高い気候なのですが、最近では温暖化現象によって気温・湿度はより苛烈になってきています。さらに住宅事情の変化で、部屋の中には湿気がたまり込みやすくなりました。「保管中に着物がカビた」というトラブルは、近年、代表的なご相談のひとつとなってしまっています。
乾燥のさせすぎで起こる着物トラブル
- 着物の艶(ツヤ)がうしなわれやすい
- 独特のふっくらした風合いが失われる
- 縫い糸が傷む、切れやすくなる
一般的な住宅での着物管理の場合は、湿度の高さ(ジメジメさ)に気を配るものです。しかし最近では、クローゼットの中にエアコンが付いていたり、風を常時送ることができるウォークインクローゼットなども登場するようになりました。一見すると着物には理想的に思えますよね。
ところが「カラッとさせられるから良い!」と、着物を冷風が常に当たるところに置いておくと、今度は着物の繊維が傷み出します。
特に絹は極度の乾燥には弱く、せっかくの艶がパサパサになってしまうんです。ずっとドライヤーを当てていたら、髪や肌が傷みますよね。着物はある意味で「生き物」のようなところがあり、人間の髪や肌と同じように、乾燥のしすぎにも弱いのです。
桐たんすの湿度は着物にピッタリ
桐は繊維の中にたくさんの気泡を持っており、呼吸をすることで湿度の調整を行なっています。キチンとしめた桐たんすの中の湿度は、概ね50%程度に保たれ、梅雨の季節等でも+5%~7%程度の湿度環境に抑えられるのです。これは絹などの着物にとって、理想的な環境と言えます。
2.防虫作用で虫食いから守る
着物に桐たんすが良いと言われる理由のもうひとつが、桐による防虫作用です。
着物は虫食い被害に遭いやすい
近年ではポリエステルやレーヨンなどの化学繊維の衣類が主流となりつつあり、その分だけ、衣類が虫食いに遭うことも減りました。ふだん着ている洋服が虫食いされたことは無い、という人の方が多いかもしれませんね。
ところが高級な着物は、その多くが天然繊維です。特に絹やウール等の動物性繊維は細く食べやすいため、次のような虫が好んで卵を産み付け、着物が幼虫の餌となってしまいます。
【虫害する虫の例】
- ヒメカツオブシムシ
- ヒメマルカツオブシムシ
- イラガ など
虫食いが起こるとその部分には穴が開きます。穴あきの状態によっては、リペアができないことも。また虫食い被害は全体に広がっていやすいので、タンスやクローゼットに保管しているすべての衣類の卵の駆除ををしなくてはいけなくなるのも大問題です。
桐の香りが虫をシャットアウト
上で解説した虫食いをする虫たちは、酸性の香りを好む傾向があります。そしてタンスなどの材木のほとんどは酸性なのですが–国内ではほぼ唯一、桐はアルカリ性であり、その特性を持った成分と芳香(香り)を備えているのです。
【桐の成分例】
- セサミン
- パウロニン
- グリメノール 等
これらの成分による香りは、木を食べる虫を寄せ付けないだけでなく、衣類を食べる虫からも予防する働きを持っています。虫食いされやすい正絹の着物にとって、とても頼れる存在なのですね。
3.密閉して虫やホコリ・トラブルから守る
虫害を起こす虫やホコリを寄せ付けないためには、引き出し等がピタッと閉まり、密閉性が高いことが肝心です。
きちんと閉まる保管方法は意外と少ない?
一般的な布の箱などは密閉性が今ひとつ。またダンボール製の箱なども、隙間ができてしまいがちです。さらにいうと、桐以外の木製の箱でも、最初はピッタリしまっていたのに少しずつ形が歪んで、隙間ができてしまう傾向があります。
歪みが起きずピッタリ閉まる桐たんす
職人が手作業で制作する桐たんすは、事前に桐のねじれや歪みをていねいに取っているので、隙間なくピタッと締めることができます。また長期間の利用をしても歪みが起きず、密閉性を保てるのが特徴です。
4.着物の出し入れがしやすい
着物は定期的に取り出して、虫干し等のお手入れを行うことが肝心です。着物の収納では、取り出しやすさも重要なポイントになります。
着物のサイズにピッタリ合う
桐でできた和ダンス(衣装タンス)は、その多くが着物の保管を想定してサイズが設定されています。そのため、文庫紙(タトウ紙)に包んだ状態の着物を、そのまま平らに入れることができるのです。
衣装盆タイプは特におすすめ
衣装盆とは、ごく浅い引き出しのような衣類入れのことを言います。着物を2枚程度入れられるサイズ感なので、大量にギュウギュウと着物を入れることがなく、シワにもなりやすいのが魅力です。
5.火災・水害にも強い
桐たんすは熱を帯びても歪みにくく、一度外側が濡れれば高い防水作用を発揮します。そのため火災時に「タンスがダメになっても、中の着物は無事だった」という事例が多いとも言われています。
またその密閉性の高さから、水害による中身の濡れの被害が少ないとの事例も。火災や水害の多い日本において、桐たんすは「防災」という意味でも頼れる存在なのです。
桐たんすの5つのデメリット
様々な魅力があり、着物の保管に最適ともされる桐たんす。とは言え、最近の住宅事情やライフスタイルには合わなくなっている部分もあります。また必ずしもデメリットというわけではないのですが、桐たんす・和箪笥の特性を知らない方が増えたことで、思わぬ購入後のトラブルや失敗なども増えているようです。
1.設置場所を選ぶ
「桐たんすは調湿性に優れているから、どこに置いても大丈夫ですよね?」というのは、残念ながら大きな誤解です。
いくら桐が湿度調整力に優れているからと言って、その能力には限界があります。例えば外気温37℃にもなるような真夏の日に、外からの日差しがサンサンと挿し込むような場所にタンスを置いておいたら、どう考えても引き出しの中は熱くなってしまいますよね?
また「桐には抗菌作用があると聞いたから」と、水まわりに近いような場所に桐たんすを置くのも良くありません。カビや菌に強い桐たんすとは言え、脱衣所のそば等に置かれたら、タンスそのものがカビてしまう可能性もあります。
- 直射日光に当たらない場所に設置する
- 風通しの良い場所、換気しやすい場所に設置する
特に現代の日本では、採光のために窓ガラスを大きく作る住宅が増えています。「直射日光に当てない」という点はしっかりと考える必要があるでしょう。
2.設置に場所を取る
和ダンスはそもそも家具の中では大きな部類に入ります。住宅事情は人それぞれですが、「タンスで部屋が圧迫されてしまう」という可能性は十分に考えられるでしょう。
また桐たんすの調湿作用をフルに発揮させるためにも、タンスを壁にピッタリとくっつけるのは良くありません。最低でも5センチは壁から開けて設置するのが理想であり、その分だけ、部屋の中で厚みが出てしまうことになります。
3.購入費用が高い
桐たんすは値段が高い…桐たんすのデメリットでは、これが最大の問題かもしれません。
桐たんすは日本の国産の、職人さんによる手作業の「工芸品」です。作るのに高い技術と、手間と時間がかかっています。けして意味なく値段を吊り上げているわけではなく、たんす一棹を日本国内で作るのがそれだけ大変なのです。
桐たんすは高いものだと100万円を越えるものも多々あります。昔は女の子が生まれると親が積立をして、花嫁道具として桐たんすを買う位、「一生に一度のお買い物」というレベルだったわけです。
最近では比較的良質でリーズナブルな桐たんすも登場していますし、中古の桐たんすを上手に活用される人も増えています。とは言え、様々な着物収納法の中ではコストがかかる方法であることは否定できません。
4.「桐たんすならなんでもOK」ではない
近年の着物ブームの到来によって、若い人の中にも「桐たんすを欲しい」と考える方が増えたようです。メルカリやジモティなどのネットツールを使いユーズド家具のやりとりがしやすくなった点も、桐たんす所持者を再び増やしているのかもしれません。
しかし「桐たんすなら何でも着物収納にはピッタリ」というわけではないので、そこには注意が必要です。「桐たんす」と一口に言っても、様々な種類があります。洋服の収納をメインに考えたサイズ感や引き出しの深さのあるタンスも、実にたくさんあるのです。
特に昭和後半以降に作られた桐たんすは、着物収納を考慮していないサイズ感のものがたくさんあります。新規に桐たんすを買うのであれば、店員さんと相談しながら決めていけば、このような失敗は避けられるでしょう。しかし中古家具などで桐たんすを手に入れる場合は、まず「着物を入れるに適した形状とサイズ」のたんすをキチンと選ぶ必要があるのです。
5.変色(経年変化)がある
現在の日本の家具は、はっきりと経年変化をするものが少なくなりました。白木の家具を買ったらいつまでも白木のようなイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
しかし桐たんすは、はっきりと経年変化をする家具です。桐に含まれるタンニンという成分が酸素と触れる中で少しずつ木材を変色させ、白っぽかったタンスは少しずつ赤みを帯びた茶に、さらに黒っぽい茶へと色が濃くなっていきます。これは避けることができません。
桐たんすを選ぶポイント
現代の住宅で着物保管するという視点から、桐たんすを選ぶときのポイントや失敗しないコツをまとめてみました。
サイズは「文庫紙」で確認
引き出し等の大きさの確認は、「着物を畳んだ時の大きさ」ではなく「文庫紙(タトウ紙)が平らに入るか」で考えた方が良いです。
文庫紙の大きさにもバラツキはありますが、引き出し内寸の横幅は最低でも93センチ程度、奥行き37.5センチ程度あることは目安とした方がよいでしょう。
衣装盆または浅い引き出しタイプを選ぶ
着物保管のために桐たんすを選ぶのなら、衣装盆がついているタイプ、または引き出しがごく浅いタイプのものを選びましょう。
引き出しの浅さは7~8センチ程度が目安。ひとつの引き出しに4枚も5枚も着物を詰め込むような深いタイプの引き出しは避けます。
信頼できる工房やメーカー品を
新品購入の場合、価格だけでなく、実績があり信頼のおける工房を選ぶことが一番です。桐たんすは生き物のようなもので、初めての桐の扱いに戸惑う人も少なくありません。
扱い方やメンテナンスについてていねいにレクチャーしてくれて、数十年先でも頼れるようなアフターケアの充実したお店を選ぶことをおすすめします。「売って終わり」のようなお店は避けた方が良いですよ。
古すぎる桐たんすは避ける
数十年前の桐たんすで、メンテナンス状態がわからない…このような品物は、インテリアとしては良いかもしれませんが、着物の収納には不向きです。
いくら歪みにくい桐たんすでも、数十年以上の時間が経てば隙間ができてくることもあります。中古家具の場合だと品質がわからないので、よほど目利きに自信がある人でないと「微妙な状態のタンス」を手に入れてしまうことも。
どうしても欲しい!というときには、必ず実物に触れて、密閉性の高さ(引き出しの動き)などをよく確認しましょう。
桐箱タイプも視野に入れてみる
たんす設置の場所にお困りの場合、クローゼットの中に入れられる桐製の箱や衣装ケースも視野に入れてみてはいかがでしょうか。
なおクローゼット内に箱やタンスをはめ込む場合には、部屋にタンスを設置する場合よりは通気性が劣ります。湿気取りなどの設置もした方が良いので、それも計算に入れながらサイズ感を見ていきましょう。
おわりに
着物収納に桐たんすを使う場合のメリット・デメリットを見ていきましたが、参考になったでしょうか?上質な桐たんすは着物収納の頼れる存在であり、今後もその魅力が変わることはないでしょう。
着物を長くキレイに着てほしい当店としても、桐たんすはイチオシの着物収納法ではあります!ただそんな桐たんすも、ライフスタイルやインテリアと合わないという人がいらっしゃる…というのは事実です。「自分に合った収納法なのか」を見極めながら、着物収納法を選んでいきましょう。