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【プロが解説】着物の湯のしとは?料金相場は?よくある8つの疑問に答えます

着物湯のし

今回は着物の「湯のし」についてです。普段のクリーニングなどのお手入れだとなかなか「湯のし」にお目にかかることは少ないもの。でも着物を仕立てたり、お仕立て直しをする時などには「湯のし」はとても大切な工程なんですよ。

坂根克之
坂根克之
こんにちは。着物関係一筋50年 きものサロン創夢(そうむ) 坂根克之です。そんな着物の「湯のし」について、その作業の意味や目的、種類、料金相場、湯通しとの違いなどを、プロが詳しく解説していきます。 湯のしって何?湯のしすべき?と悩んだ時の参考にしてみてくださいね。

着物の湯のしとは何ですか?

着物の「湯のし」とは、反物(布)の状態の着物に蒸気をあてながら専用の機械で加工をし、繊維の縦横の歪みを取ったり、幅を整えたり、シワやスジなどを取る工程のことを言います。湯のしの読み方は「ゆのし」。着物をこれから仕立てる時やお直しをする時に欠かせない、とても重要な工程です。

着物の湯のしの目的は?

着物の湯のしは、「繊維の歪みを直す」「幅を整える」「布に筋あとや穴などがあればそれを取って目立たなくする」といった目的のために行われます。大まかには「新しく着物を作るとき」の着物を縫う前、それから「着物を仕立て直すとき」、洗い張りやサイズ直しの時などに行われる作業です。いくつか種類がありますから、詳しくみて行きましょう。

お仕立て前の湯のし

着物をこれから作る時に、反物の状態で湯のしをしておきます。これで幅を整え、歪みをとっておくことで、何年経っても美しい着物が出来上がるのです。単に「湯のし」という場合は、この意味を表していることが多いですね。

洗い張り後の湯のし

着物を仕立て直す時や、酷い汚れがある着物などは、一度「洗い張り(あらいはり)」という洗浄を行います。洗い張りとは、着物を一度解いてバラバラのパーツに戻し、これを繋ぎ直して反物にしてから、丁寧に洗っていく作業です。湯のしはこの「洗い張り」で行われる最後の仕上げ作業でもあります。

洗って張り直した反物を湯のしでピンと正しく幅調整しておくことで、仕立て直しやサイズ直しの際にも歪みが起きにくく、美しい仕上がりになります。

巾出しのための湯のし

着物の布地や保管状況によっては激しい収縮が起きていることがあります。この収縮を伸ばしていくのが「巾出し(はばだし)」です。何度も湯のしを繰り返すことで少しずつ収縮状態を戻し、着物の幅を広げていきます。時間も手間もかかる作業です。

仕立て前の湯のしを勧められたけど必要ですか?

はい、仕立て前の湯のしは、できるだけ行っておくことをお勧めします。けして「商売が儲かるから」といったセールストークではありません。現在だけでなく、数年後に着物を着た時の見栄えの良さがまるで違ってくるからです。

布が縦糸と横糸を織り合わせて生まれることは、皆さん知っていますよね。何本もの縦糸に横糸を通して織っていくわけですが、常に一定の力というわけにはなかなかいきません。ごく僅かな力の差で縦横が歪んでいることもたくさんあります。新しい反物(布地)は一見するとピカピカで何も問題がなさそうに見えますが、実は縦横が意外とまっすぐではなく、歪んでいる状態なのです。

このままの状態で着物を仕立てるとどうなるか?というと、最初は綺麗に見えても、少しずつ繊維の歪みが目立ち始めます。空気中の湿気や着用による湿気などを吸う事でより繊維の歪みは激しくなり、数年後には「縫い目がまっすぐ綺麗ではない」「着た時に崩れやすい」「キチンと畳めない」といった微妙な着物になってしまいます。

反対に「湯のし」で事前に蒸気を当てて綺麗に縦横の歪みを取り、幅を整えておけば、何年経っても布の状態は良いままで抑えておけます。着物は数年どころではなく、大切にすれば数十年も着られるもの。その命を長くするためにも、湯のしは必要なのです。

湯のしと湯通しは違うのですか?

着物 湯通し
はい、湯のしと湯通しはまったく違う作業です。「湯のし」は蒸気で布(反物)を伸ばしたり幅を整えたりすることを言います。「湯通し」は反物をお湯につけて、ノリ・カビなどを取っていくための作業です。作業が必要となる布地も、目的もかなり違います。

【湯のし】
主な目的は「繊維の歪み取り」「幅を整える」ご家庭で言えばアイロンがけをするような作業ですね(湯のしはもっと強く圧力をかけますし、アイロンとは微妙に違うのですが、ここでは違いをわかっていただくための例にしておきます)

【湯通し】
主な目的は「表面にかけた糊(のり)を取る」「カビが生えていればそれを取る」といったもの。ご家庭の家事で例えれば、水洗いに近いような作業です。この「ノリ」とは、文房具のノリではなくて、衣類用や繊維に使うノリのことを言います。

織物によっては、織る時の糸滑りをよくするため、糸にしっかりと糊をつけてから織るものもあります。そうしないと織りにくいからなのですが、織り上がった布はかなり固く、パリッとゴワッとした風合いです。これを着物に仕立てる前に糊を取って、柔らかくしなやかにすることが「湯通し」の主な役目なのです。

すべての反物で湯通しをしなくてはいけないわけではありません。紬(大島紬、結城紬)などの先染めの織物では、一般的には湯通しが必要です。また一部の木綿反物で仕上げに水通し・湯通ししていない製品の場合、仕立て前に収縮を防ぐために湯通しすることもあります。

湯のしは自分ではできませんか?

湯のしはご家庭では行えません。元々は専門の職人による手作業であり、現在では特殊な専用機械を使った湯のしがほとんどとなっています。

上で「湯のしはアイロンのようなもの」と解説しましたが、これはあくまでも「例え」です。強く蒸気をあてながら反物全体に一気に圧力をかけて繊維を整える技は、一種の専門技術。ご家庭でアイロンをかけるのとは訳が違います。

近年DIYな考えが根付いたのは良いことで、例えば「和裁に挑戦してみる」といった方が増えるのは当店としてもありがたいことです。しかしなんでもご家庭でできるか?というとそうでもありません。本格的な和裁を行っている方ほど、湯のしや湯通しはキチンとプロに依頼しています。

近年「湯のしのようにやってみようとして…」と、反物をひどく縮ませてしまったトラブルなども見られています。あまりにも症状が酷いと、後から専門店に持ち込まれてもお手上げということもあります。けして儲けようと思ってDIYを否定しているわけではありません。本当に反物や着物がだめになってしまうので、ぜひお店のサービスを利用していただきたいです。

湯のしすれば布のニオイも取れるんですか?

布(反物)についたニオイの原因にもよりますが、「湯のし」だけでニオイを完全に落とすのは難しいかと考えます。

例えば匂いの原因となるのがカビであった場合、カビ菌の除去は湯のしだけでは行えません。一時的に匂いが軽くなったとしても、菌の根が繊維の奥に残っているため、カビ菌が再繁殖すれば匂いが元に戻ってしまいます。洗い張りまたはカビ取り等でカビ菌を根こそぎ落とす必要があります。

また湯のしではなく「湯通し」をすることで匂い問題が軽減するケースもあります。反物の種類や匂いの原因によっても違うので、お店で実際に反物を見てもらって、最適な対策法を考えてもらうことをおすすめします。

湯のしはどんなお店で依頼できますか?

湯のしは「反物を購入した店舗」「一部の着物クリーニング店」「悉皆屋(しっかいや)」等に依頼ができます。それぞれのお店について、特徴と注意点を解説します。

購入店舗(呉服店、百貨店等)

呉服店、百貨店など、反物を新規購入されたお店で相談すれば、購入店舗が仲介して、湯のしを行う業者さんのところに反物を回してもらえます。(ただし中古品等を扱うお店だと、この手のコネクションが無いお店も珍しくなくなってきました)

これからも買い物する予定があったり、お付き合いがあるお店であれば、購入店舗を通すのもひとつの手ではあります。ただ購入店舗経由での依頼の場合、結局は後述する悉皆屋に依頼を回すので、その分だけ仲介手数料(マージン)を上乗せすることになるんですよね。そのため湯のしの料金が少々高くついてしまうのが難点です。

着物クリーニング店

一般的な街のクリーニング店(洋服向けのお店)では、着物の反物の湯のしはお断りになる可能性が高いです。着物専門のクリーニング店で、なおかつ「着物の仕立て直し」「サイズ直し」「洗い張り」等もやっているお店を選びましょう。このようなお店なら、湯のし工程は確実に扱っています。

ただ「湯のし」を単体メニューとして置いているかどうかは、お店によって違います。湯のしだけだと特別料金になってしまうお店もあるかもしれませんので、ご注意ください。

また「きもの丸洗い」しかやっていないようなお店では、湯のしはムリです。基本的に「なんでも丸洗い5,000円!」的な、安さ重視のお店はほぼ対応できません。着物クリーニング店といっても、職人さんが居なくて、機械で丸洗いだけやっているような粗悪なお店もあるのが実情です。キチンとしたお店を選ぶことがまず大切ですね。

悉皆屋

悉皆屋(しっかいや)というのは、着物のシミ抜きや染め直し、仕立て直しに至るまで、様々なメンテナンスとリペアをまとめて扱う専門業者のことを言います。悉皆屋は着物のなんでも屋さんなので、もちろん「湯のし」に対応できます。湯のしのご依頼を受けられない悉皆屋はほぼ無いでしょう。一番確実で、料金的にも安心な選択肢と言えます。

ただ最近では、悉皆屋さんの数も減りました。近くに悉皆屋さんが無い、呉服屋を通さないと…とお困りの方も多いかもしれません。そんな時には当店『きものサロン創夢』も悉皆屋なので、ぜひご利用いただけたら嬉しいです。宅配対応もしているので、ご検討ください。

湯のしの料金は?相場はいくら位ですか?

一般的な湯のしの料金相場(新品の表地を仕立て前に湯のしする場合)は、反物あたり大体3,000円~5,000円位が目安となります。ただし湯のしの料金については、「布地の種類」と「湯のしの目的」等で変動するお店も多いです。また湯のし単体でのご利用の場合とその他のメニューもまとめての依頼では料金が異なる場合もあります。ご注意ください。

単位は反物あたりが基本

湯のしは基本的に反物あたりで料金が決まります。

裏地は割安になることも

八掛(はっかけ)等、裏地用の反物については料金設定をお安めにしているお店もあります。

解き工程がある場合は料金プラス

着物をほどいてつなぎ直し、反物の状態に戻してからの湯のしの場合には、その分の工程料金がかかります。概ね3,000円~4,000円位の料金アップになるのが目安です。

巾出しの場合は特別料金となることも

繊維の収縮を伸ばす「巾出し」の場合、何度も繰り返しての湯のしが必要となります。そのため、料金が通常の1.5倍~2倍くらいの特別料金となるお店も多いです。

おわりに

着物の湯のしは、これから新しく着物を仕立てる時だけでなく、昔の着物をお仕立てし直す時にもとても重要な工程になります。例えば「昔の折り畳みスジが付いてしまっている」「仮縫いした時の穴が目立つ」といったトラブルも、湯のしをキチンと行えば見違えるようになるのです。

そして湯のしをしっかり行ってから仕立てられた着物は、何年も歪みの無い美しい状態をキープしてくれます。着物のお仕立てやお仕立て直しの前には「湯のし」で反物を美しく整えること、ぜひ頭の隅にとどめておきましょう。

着物のメンテナンス・リペアの専門店である『きものサロン創夢』では、もちろん「湯のし」のご依頼も受け付けています。また「湯のし」についてわからないことがあったら、ご依頼前にお気軽にお問い合わせくださいませ。

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