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実際どう?セパレート着物のメリット・デメリット

セパレート着物

セパレート着物とは、着物の上部と下部が分かれているタイプの着物のことを言います。おはしょりがあるタイプ無いタイプ、業務用から上品なもの等、様々なものがありますが、最近では特に「気軽に着物を楽しみたい」という人から人気があるようです。実際のところ、セパレート着物ってどうなんでしょう?

坂根克之
坂根克之
こんにちは。着物関係一筋50年 きものサロン創夢(そうむ) 坂根克之です。ここではセパレート着物のメリット・デメリットについて見ていきながら、どんな時にセパレート着物が適しているのかを解説していきます。

セパレート着物の良い点・メリットは?

まずはセパレート着物のメリットや良い点について見ていきましょう。セパレート着物に人気がある理由は、どんなところにあるのでしょうか。

着付けがカンタン

セパレート着物の大きなメリットが、着付けがカンタンであるという点です。元々セパレート着物は昭和後期、着物が日常生活から離れ、着付けが難しくなった時代に考案されたもの。「初めてでもラクに着物を着ましょう!」というための着物なのです。

特に一般的な女性の着物の場合、着付けの際に「おはしょり」を作る必要があるため、その点に難易度を感じる人が多いですよね。しかしセパレート着物の場合には、このような技術度を問われることがありません。ふだん着物を着ない人でも、比較的カンタンに着物を身につけることができます。

着崩れが起きにくい

「着物や浴衣を着ている時に着崩れをしてしまった」という人は多いはず。着物に慣れない時だと、着崩れしやすいですよね。一般的な着物は襟から裾までが一続きなので、立ち上がる時等に裾やヒップのあたりが引っ張られると、全体的に後ろに布が引き寄せられてしまい、着崩れしやすいという問題があります。

また裾を引っ張ってしまっておはしょりが崩れてしまったり、動きにくくなってしまったり……トラブルは尽きないものです。特に「着物がほとんど初めて」という人の場合、歩く歩幅や足の向きが着物に合っておらず、歩くだけでどんどん着崩れしていくこともあります。歩幅が広くて裾の方が広がっていくと、その崩れが上半身にまで伝わってしまうのです。

その点、セパレート着物は上半身・下半身が分かれているため、下側が引っ張られても上部はその影響を受けません。もちろん洋服とまったく同じようにサクサク動けるというわけではありませんが、動きやすく、着崩れをしにくいのがメリットです。

座っていても疲れにくい

着物を着た状態で椅子に座っていると、おしりの部分が引っ張られやすく、着心地の悪さを感じる方も少なくありません。ご高齢の方は座った状態で同じ体勢を取っていると疲れやすいため途中で「座り直し」をすることが多いのですが、この時に通常のひとつづきの着物だと引っ張られることから、不快感を持たれてしまうようです。

セパレート着物の場合だと、座り直しをするのもカンタン。たとえば車椅子で着物を利用したい方や、長時間座っていることが多い方等には向いた着物と言えます。

着物への心理的ハードルが低い

セパレート着物にも様々な製品がありますが、中にはマジックテープ等で着脱ができるなど、非常に簡易的なものもあります。そのため着物に対する心理的なハードルが低く、気軽に「着物を着よう!」と思えるのも、大きなメリットと言えるでしょう。「着物に挑戦してみたいけれど、どうしよう」と悩んでいる初心者の方はもちろんですが、「着付けにかかる時間や体力」などを考えて二の足を踏んでしまう方にとっても、気軽なセパレート着物はありがたい存在です。

安価な製品が多い

セパレート着物と一口に言っても幅広い製品があるのですが、比較的安価な製品が多い傾向にあります。例えば和食屋さんのユニフォームとしてのセパレート着物等だと、数千円~一万円程度で購入できるものも。文化祭や舞台などで同じ着物を揃えたかったり、リーズナブルに着物を準備したい時には助かる価格帯と言えます。

お手入れしやすい製品が多い

一般的に「着物」と言いますと、正絹(シルク)で作られた礼装用着物やウールきもの等、ご自宅ではお洗濯ができない衣類であることが多いです。しかしセパレート着物の場合、ウォッシャブル・ウールやポリエステル(化学繊維)等、ご自宅でのお洗濯ができる素材で作られていることも多いもの。ご自宅で気軽に洗えるのなら、着用回数が多くても安心ですね。

セパレート着物のデメリットは?

様々な魅力のあるセパレート着物ですが、良い点だけとは限りません。デメリットもありますので、その点を知った上で購入を検討したほうが良いですね。

正装・礼装には不向きな製品が多い

セパレート着物は、基本的に「フォーマル向き」の製品がほとんど無いと言っても良い状態です。特別な例として、例えば当店でレンタルサービスを行っている車椅子の方向けにお仕立てした振袖や留袖等はあります。これは正絹生地のしっかりとした礼装用であり、もちろん成人式やご友人の結婚式等にも着られる一枚です。

しかしこのような製品は今のところ非常に少ないです。基本的にお仕立て上がり(既製品)として販売されているセパレート着物は、カジュアルな小紋風であったり、もっとカジュアルな浴衣であったり、または業務用であったりします。カジュアルな小紋風のセパレート着物は、街着(ふだんのおしゃれ着)としてお買い物等に身に付けるのはもちろんOK。

しかし結婚式・卒業式などの各種式典、お祝いごとなどに身につけるのには適していません。製品にもよりますが、あくまでも「デニム並のカジュアル服」として考えていただいた方が良いでしょう。

選択肢が少ない

一般的な着物の場合、選択肢は非常に豊富です。お色や柄も多種多様、様々なものの中からお気に入りの一枚を選ぶことができます。しかしセパレート着物の場合、そもそも作られている製品数が少ないため、選択肢はグッと狭くなってしまいます。「これぞという一枚」をお探しになりたい方には不向きと言えるかもしれません。

仕立て直しができない

一般的な着物の場合ですと、着物をパーツごとにほどいて仕立て直すことは何度でも可能です。例えば着物から羽織にお直しをするといったこともできますし、長さや幅の調整も比較的カンタンに行えます。しかしセパレート着物の場合、このようなお仕立て直しは原則として行うことができません。

お持ちの反物をセパレート着物に仕立てることはもちろん可能です。しかし基本的に「今後のお直しはできない」と考えておいていただいが方が良いですね。

サイズ調整ができない製品が多い

一般的な着物は「着付け」でかなりのサイズ調整が行えます。特に女性用の場合ですと「おはしょり」を作るので、5センチ程度の丈のサイズ差でしたらなんとでもなります。また少々身幅に差があっても、あわせの部分で調整が可能です。この点が、着物が長く着られるポイントであるともいえます。

ところがセパレート着物の場合だと、基本的にはこういうわけにはいきません。おはしょりでのサイズ調整ができないので、丈が合わないと長過ぎたり、反対に丈が短すぎたり…ということになります。「2センチのサイズ差が目立つ」という感覚です。

またサイズが小さめで身幅が足りない場合、あわせの調整ができないため、足回りが動かしにくかったり、作りによってはラップスカートのようにあわせた部分が開いてしまうことがあります。(おはしょりがあるように見せてサイズ調整可能なセパレート着物もありますが、残念ながら数が少ないです)

【ネット購入時には特に注意】
最近では新品・中古に関わらず、着物や浴衣をネットで購入する人が増えました。メルカリなどのアプリで安価に着物が取引できる点も、着物のネット購入を後押ししているのでしょうね。着物ユーザーが増えるのは悉皆屋として嬉しい点ではあるのですが…セパレート着物(セパレート浴衣)の場合だと、やはり「サイズに十分に注意してくださいね!」と言っておきたいところです。
 
「着物=サイズの調整がカンタン」という印象をお持ちの方が多いため、大雑把なサイズ感でご購入をされてしまい、後から丈が合わなかったり、身幅が小さくて当日に苦労されているケースを多く目にします。(反対に大きすぎてもブカブカして見た目によくありません)悪質な店舗であったり、着物に慣れていないスタッフによる販売だったりすると「セパレート着物でもサイズ調整できる」といった言い方でお客様に製品を売りつけているところもあるようです。

繰り返しになりますが、着付けをしないで着られる分だけ、セパレート着物はサイズ調整ができません。伸縮性も無い生地がほとんどなので、普段着ている洋服よりもサイズ感覚をシビアに考えていただいた方が良いです。仕立て上がり(既製品)のセパレート着物購入時には、サイズをよく確認することをおすすめします。

着付け練習にはならない

セパレート着物は着るのがカンタンで、誰でも製品を手にしたその日に着物を着て外出することができます。しかし何回セパレート着物を着たとしても、いわゆる「着物」に慣れたというわけではありません。着付けの練習には一切ならないと考えてもらった方が良いでしょう。

例えば茶道等、和のお習い事をされる場合には原則としてセパレート着物はあまりおすすめしません。(体験学習等であればOKというところも勿論ありますが、それは特例です)また、これからアンティーク着物に慣れていきたいとか、自分でいろいろな浴衣を着られるようになりたい、とお考えの場合には、やはり通常の着物で着付け慣れをした方が良いですね。

セパレート着物は汚しやすい?

これは着物のレンタル業者さん達からのお声ですが、一般的な着物に比べて、セパレート着物の方が袖や裾を派手に汚してしまわれるケースが多く見られるようです。推測ではありますが、おそらく「着付けがラクである分、洋服と同じ感覚で体を動かしてしまう → 着物を汚してしまう」という人が多いのではないでしょうか。

セパレート着物は着付けこそラクですが、基本構造は通常の着物と同じです。長い袖に気をつけなければ袖に食べ物の汁などを付けてしまいます。また超ロングスカートのようなものですから、階段等で意識的に裾を持って歩かないと裾を擦って汚してしまいます。

上でも解説したように、セパレート着物は基本的に洗える素材のものが多いです。しかし汚れの内容によっては、ご家庭での洗濯では対処ができないこともあります。また高級なセパレート着物の場合だとそもそも家では洗濯ができず、すべて専門のクリーニング店での対処が必要となってしまうことも珍しくありません。

袖や裾などに意識を向けつつ、「いつもと違う衣類を身に着けている」という意識を持って振る舞うようにしましょう。

こんな時にはセパレート着物もオススメです

車椅子用着物 すごく楽しいです
車椅子用着物 新鮮な感じでうれしい

セパレート着物のメリット・デメリットについて見ていくと、次のような時にセパレートタイプの着物が頼れる存在となることがわかります。

着物に慣れない人の「体験」として

初めて着物を着る方にとって、イチから着付けを学んで…というのはとてもハードルが高いですよね。まずはとにかく着物を着る楽しさ、着物の可愛らしさ等を知ってほしい!というとき、カンタンに着られるセパレート着物はとても良い存在になることでしょう。

  • インバウンドの方向けの日本文化の講習会
  • ビギナー向けの体験お茶会
  • 短時間の着物レンタル 等

気軽に楽しく着る「街着」として

着物を着るのは素敵だけれど、着付けの手間を考えると億劫になってしまうという人も多いはず。こんな時にはセパレート着物でサッと着替えて、着物でのお出かけを楽しんでみてはいかがでしょうか。

シニアや障害がある方のための「疲れない着物」として

今後需要が高まると考えられているのが、シニア向けに考えられたセパレート着物です。着付け時間が短く、上下の連動性が無いセパレート着物は、「着物が着たいけれどもう難しい」と考えている方にもピッタリであるといえます。

また上でも少し触れましたが、当店がレンタルサービスを行っている車椅子の方向けのセパレート着物(振袖・留袖等)は大きな反響を受け、TVや各種メディアにも取り上げられるようになっています。今後さらに「バリアフリーな着物」として、セパレート着物は人気を得ることでしょう。

日本文化関連施設のユニフォームとして

かつては高級料亭でお務めというと「着物を自分で着られる」ということが必須でしたが、最近では人材不足もあり、このようなスキルを求めることが難しくなっています。とは言え和食店はもちろん、和文化関連の施設のスタッフにはやはり着物を身に着けてほしいところ。より着付けがカンタンで、より身動きが取りやすいセパレート着物の需要が高まっていくと考えられます。

おわりに

今回はセパレート着物のメリット・デメリットについて解説しました。なおセパレート着物と一口に言っても、本当に種類が幅広いので、今回のデメリットに当てはまらないような製品もあります。例えば着物に詳しい方が独自にお仕立てしたセパレート着物だとパッと見にはセパレートだとわからないこともあります。しかしこのような品はかなりの「少数派」なのが実情であり、今回は省略といたしました。

そして上でも解説しましたが、セパレート着物は「気軽」である分、かなり派手に汚してしまう方が多いようです。いくら「洗えます!」が売り文句のセパレート着物でも、汚れの程度によってはご家庭での対処が難しくなってしまうケースは多々あります。「しまった!」とならないように、セパレート着物の取り扱いにも十分に注意を払ってくださいね。

座ったままで着られる着物!

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