袴を汚したら?原因ごとのシミ抜き対処法をプロが解説!
袴(はかま)は元々は男性の和服の正装ですが、大学の卒業式等では女性が着物に合わせて身につけることも多いですね。「着物+袴」の明治大正らしい装いはなかなか着る機会が無いので、卒業式の時には袴に挑戦!という人も多いのではないでしょうか。
しかしこの袴は、意外と汚れが多く付きやすいものです。大切な袴にシミを付けてしまった…こんな時にはどのように対処したら良いのでしょうか。
袴についた油溶性汚れのシミ抜き方法
まずは油溶性の汚れは袴についた場合のシミ抜き方法から見ていきます。油溶性の汚れとは、その名のとおり「油に溶ける性質」を持った汚れのこと。汚れには油分が多く含まれています。
油溶性汚れの例
- ファンデーション汚れ
- 口紅の汚れ
- オリーブオイルのシミ
- バターのシミ 等
油溶性汚れは、石油から生まれた溶剤である「ベンジン」を使うと分解がしやすいです。ベンジンでのシミ抜きでは水を使わないため、ご家庭では水洗いできない袴でもシミ抜きができます。
準備するもの
- ベンジン:薬局やドラッグストアで、数百円程度で買うことができます。カイロ用のベンジンは使えないのでご注意ください。
- 大きめのタオル:汚れて捨てても良いものを準備します。
- ガーゼや柔らかい布:こちらも捨ててものを準備します。薄い色か白を使いましょう。
- ハンガー:ボトム用のもの。挟み跡がつきやすいので、挟む際にはガーゼ等を間に挟んで使います。
下準備
- 窓を開けるか換気扇を回します。ベンジンは揮発性が高く、空気中に飛び散ります。その成分は刺激が強いので吸い込むと有害です。作業中は常に換気しておきます。
- ライターやコンロ、電気ストーブ等の火器類を使うのは中止します。作業中はこれらの火器類は使えません。ベンジンは引火性があるので、火事を起こす危険があります。
- 袴の染料によってはベンジンで色落ちや変色を起こす可能性があります。裏地等の目立たない部分に少量のベンジンをつけて、変色テストをしましょう。
シミ抜きの手順
- 大きめのタオルを敷き、その上に袴を広げます。
- ガーゼか布にベンジンを染み込ませます。ドボッと濡らしてかまいません。
- シミの部分をガーゼか布で、トントンと軽く叩いていきます。
- ベンジンで汚れが溶け出し、下のタオルに汚れが落ちていきます。常にガーゼか布のきれいな場所が着物に触れるように、ガーゼを動かしましょう。
- 汚れが取れたら、もう一度ベンジンをガーゼに染み込ませます。
- ベンジンで濡れた部分と乾いている部分の境目がわからなくなるように、ガーゼで叩いて輪郭をぼかしていきます。
- 袴をハンガーにかけます。挟む部分にはガーゼか布を噛ませて、跡にならないようにします。通気性の良い場所で自然乾燥させます。
※ベンジンを含ませたガーゼ・布で、シミの部分をゴシゴシこすったり強く叩いたりはしないでください。色ハゲやスレの原因になります。
※「ぼかし」の工程を省略してしまうと「輪ジミ」の原因になります。かならずベンジンで濡れた箇所と乾いている箇所の輪郭がハッキリわからなくなるようにぼかしましょう。
シミ抜きの注意点
袴についたシミの状態によっては、ベンジンではシミが落とせません。
- 時間が経っている古いシミ:付いてから数日以上経過しているもの
- 大きなシミ:シミが直径2センチ以上あるもの
- 色が変わっているシミ:酸化等で変色を起こしているもの
- 一度洗ったシミ:油汚れだけが残っているもの
このようなシミについては専門店でシミ抜きを依頼しましょう。
袴についた水溶性汚れのシミ抜き方法
次に袴についた水溶性汚れのシミ抜き方法を見ていきます。水溶性汚れとは、水で溶けやすい汚れのこと。水分が多いのが特徴です。
水溶性汚れの例
- 汗の汚れ
- お茶のシミ
- ジュースのシミ
- お酒のシミ 等
また水溶性汚れと油溶性汚れ、両方の性質を持つものもあります。水と油が混じっている汚れです。このような汚れは「混合性汚れ」と呼ばれます。
混合性汚れの場合には、上の1.で解説したベンジンでのシミ抜きをした後に、この2.で紹介する方法で水溶性汚れを落とします。
混合性汚れの例
- カレーのシミ
- 牛乳のシミ
- ラーメンの汁のシミ
- ドレッシングのシミ 等
水溶性汚れを落とすには、中性洗剤を使って水洗いを行います。ご家庭で水洗いができない着物の場合には、水溶性汚れ・混合性汚れはシミ抜きができません。下の4.の項目を参照してください。
準備するもの
- 中性の洗濯用洗剤:おしゃれ着洗い用のもの(エマール、アクロン等)
- 洗濯用ネット:四角い形のもの、袴が畳んで平らに入るサイズ。100均のものでOK
- ハンガー:ボトム用のもの。
- ハンドタオルかガーゼ:数枚。ハンガーで袴を挟むときに使います。
- バスタオル:4枚程度
- アイロン:スチームアイロンは不可
※水洗いした袴はかなり型くずれするので、アイロンで形を整えるプロセスが絶対に必要です。アイロンが無いご家庭の場合には、専門店に着物を持ち込みましょう。
※シミ抜き前に、必ず洗濯表示をご確認ください。
シミ抜きの手順
- 袴はシミがある部分が表になるように畳んでおきます。
- 洗面ボウルや浴槽に水またはぬるま湯をためて、おしゃれ着用の中性洗剤を溶かしておきます。
- 着物を軽くシャワーで濡らしてから、シミのある場所に少量の中性洗剤の原液を付けて、指でやさしく洗います。こすらないようにしましょう。
- 袴を洗濯用ネットに入れてから、1.で作った洗濯液に全体的に漬けます。
- 優しく両手で押し洗いをします。
- シミ汚れが取れたら、2回水を取り替えて、すすぎを行います。
- 袴を2枚のバスタオルで挟んで、水を吸い取ります。バスタオルを取り替えて軽くポンポンと叩き、しっかりと水分を吸い取りましょう。
- ボトム用のハンガーに袴をはさみます。挟む際にガーゼか布をしっかりあてて、挟んだ跡が残らないようにしておきます。
- 両手で軽く叩くようにしてシワを取り、形をよく整えておきます。
- 直射日光のあたらない風通しの良い場所で、十分に自然乾燥させます。
- シミが取れているかよく確認してから、アイロンで形を整えます。
※袴についたシミが「牛乳」「母乳」「たまご」等のタンパク質が多いシミの場合には、シミ抜きには冷たい水を使いましょう。熱いお湯ではタンパク質が固まって、取れない汚れになってしまいます。
注意点
次のようなシミは、ご家庭でのシミ抜きでは落とすことができません。
- 色素の多いシミ:ワインやぶどうジュースのシミ等
- 乾いたシミ:付いてから数日経って繊維に定着したシミ
- 洗濯を繰り返したシミ:残った汚れが繊維に定着したシミ
袴についた不溶性汚れのシミ抜き方法
袴に付くその他の汚れとしては「不溶性の汚れ」があります。不溶性とは、水にも油にも溶けないという意味です。顔料の汚れ等、岩や砂等が原料となっている汚れが不溶性汚れとなります。
不溶性の汚れの例
- マスカラの汚れ
- 泥汚れ
- インクの汚れ
- ペンキの汚れ
- サビの汚れ
- 墨汁の汚れ、墨の汚れ
これらは水にも油にも溶けないので、ご家庭では袴のシミ抜き等の対処方法がありません。できるだけ早く専門店に相談しましょう。
家で袴のシミ抜きができない時には?
- 家で袴を洗えない
- シミが古い、大きい等でシミ抜きで落ちなそう
- シミの原因がよくわからない
上のような場合には、「着物」「呉服」に強い専門のお店でのシミ抜きが必要になります。
ドライクリーニングだけではシミは落ちません
袴についたシミ・汚れは、丸洗い(ドライクリーニング、機械洗浄)をするだけではキレイに落とすことができません。一般的な洋服のクリーニング店だと、袴は丸洗いするしかできないこともあるので要注意です。
「着物のシミ抜き」ができるお店を選ぶ
袴に汚れが付いた場合には、職人が在籍していて、手作業での「着物のシミ抜き」をキチンと行えるお店を選ぶことが大切です。
悉皆屋(しっかいや:着物のお手入れ全般を扱う専門業者)や、着物専門のクリーニングのお店等に相談をしてみましょう。
おわりに
袴のシミ・汚れに対処する方法はお役に立ちそうですか?袴はレンタルする方も多いですよね。レンタルの場合には、料金にクリーニング料金が含まれているのが一般的です。汚れが付いたら無理に自分でシミ抜きをせず、そのままでレンタル屋さんに相談することをおすすめします。
袴のシミ・汚れは、どのような原因の場合でも「できるだけ早くシミ抜きをする」ということが大切です。早く対処するほどシミ抜きの手間もラクですし、クリーニングする場合の料金も安く済みますよ。