着物のシミはベンジンで対処?使い方や注意点を解説
「着物のシミ抜き等のお手入れにベンジンを使う」という情報を耳にしたことがある人は多いことでしょう。ベンジンは使い方に慣れてしまえば、日頃のちょっとしたお手入れに使うことができるとても便利な存在です。でもその反面、使い方にはコツも要りますし、ベンジンでは落とせない着物の汚れもあります。
ベンジンの扱いを間違うと着物をダメにしてしまうこともあるので、十分な注意も必要です。
着物のシミ抜きに使う「ベンジン」とは?
ベンジンとは原油から精製して作られた「揮発油」のことです。油を溶かし出す作用を持っているので、工業製品の掃除に使われたり、家庭用としては「シミ抜き」等に用いられます。
【ベンジンの特徴】
- 揮発性が高い(すぐに空気に飛散するので布が乾くのが早い)
- 水を使わずにお手入れができる
- 薬局やドラッグストア等で手軽に買える
以上のような利点があることから、水を使ったお手入れがしにくい正絹着物等のお手入れに用いられることが多いです。薬局やドラッグストアでは安いものでは数百円程度からでも購入ができます。ただ着物のお手入れ用には、ある程度の値段がしても、品質のしっかりとしているものを準備することをおすすめします。
ベンジンで落ちる着物のシミの種類は?
ベンジンは上でも解説したとおり油から生まれた溶剤なので、油溶性の汚れを落とすのは比較的得意です。
【油溶性の汚れの例】
- ファンデーションの汚れ
- 口紅の汚れ
- チョコレートやマヨネーズ等の油分が多い食品のシミ
- 軽い皮脂汚れ
上記のような種類の汚れで、なおかつ「最近ついたばかりの汚れ」「直径が1センチ以下程度の小さなシミ」であれば、着物のシミにベンジンで対処できる可能性が高くなります。
水溶性・不溶性の汚れは落ちない
ベンジンは着物のシミをなんでも落とせるわけではありません。次のような水溶性・不溶性の汚れなどは落とせないので、注意が必要です。
【水溶性の汚れの例】
【不溶性の汚れ】
- マスカラの汚れ
- ゲルインクボールペンのシミ
- 泥はね
- サビの汚れ など
【その他のシミ】
汚れの種類が上のようなものであったり、着物の汚れの種類がわからない場合には、ベンジンでの対処は避けた方が良いです。
古い汚れは落とせない
着物にベンジンで対処ができるのは、シミが付いた当日か翌日など、シミが付着してから間もない状態の時です。
汚れが乾いて繊維に定着してしまうと、ベンジンだけでは汚れを溶解させにくくなっていきます。
無理に汚れを取ろうと何度もベンジンを使うと、布にダメージがかかって毛羽立ち(布の表面がケバケバになる)や色ハゲ等が起こる可能性が高いです。
また時間が経って着物のシミが変色してしまったもの、カビによるシミなども、ベンジンは対処ができません。
範囲が広すぎる汚れも×
ベンジンは「汚れの原因を溶かし出して、軽く叩くようにして落とす」という方法で着物の汚れを取り除いていく溶剤です。汚れの量が多すぎる場合だと、取り除くために何度も布を叩かなくてはならず、着物へのダメージが蓄積してしまう恐れがあります。
- シミの範囲が直径2センチを越えている
- シミが何箇所にもある
上のような場合には、ベンジンを使った自宅での着物のシミ抜きは避けた方が無難です。
ベンジンを使った着物シミ抜き方法
ではベンジンを使う場合、着物のシミ抜きはどのように行えばよいのでしょうか。
用意するもの
- ベンジン(クリーニング専用のもの)
- バスタオル(汚れても良いもの)
- ガーゼや柔らかいタオル(汚れても良いもの)
- 和装用のハンガー(きものハンガー)
※ベンジンは帰化しやすいので、マスクで鼻・口を保護することをおすすめします。
※ゴム手袋等で肌を保護することをおすすめします。
※洋服用ハンガーを使うと着物が型くずれしてしまいます。和装用ハンガーが無い場合には、物干し等を使用してください。
前準備
- 作業中は窓をあけるか、換気扇を回して換気をします。
- ストーブ、コンロ、ライター等の火器類はすべて止め、作業中は使わないようにします。
- 裏側等の目立たない部分に少量のベンジンを付けて、変色や色落ち等が起きないかどうかテストを行っておきます。
シミ抜きの手順
- バスタオルを敷いて、その上に着物を広げます。
- ガーゼ等にベンジンをたっぷりとしみこませます。
- シミの部分をガーゼで軽く叩いていきます。
- ベンジンで汚れが溶け出し、タオルに汚れが落ちていきます。常にタオルやガーゼはきれいな場所が着物にあたるように、接地面を動かしていきましょう。
- 汚れが十分にとれたら、再度ガーゼにたっぷりとガーゼをしみこませます。
- シミの輪郭部分をガーゼで叩いて、濡れた部分がはっきりと見えないようにぼかしこんでいきます。襟等の小さなパーツの場合には、ベンジンを襟全体に塗り拡げてもOKです。
- 水洗いができない製品の場合には、和装用のハンガーにかけて、風通しの良いところで十分に乾燥させます。水洗いが可能な製品の場合は、中性洗剤等で手洗いをして仕上げることをおすすめします。
失敗するかも?ベンジンの注意点
ベンジンを使った着物のシミ抜きでは、扱い方を失敗すると、着物をダメにしてしまうことがあります。「しまった」と後悔する前に、次のような点には十分に注意しましょう。
ゴシゴシとこすらない
「汚れが落ちないから」とベンジンを含ませた布で着物をこすったり、強く叩くのは絶対にやめましょう。摩擦で起こった毛羽立ちや色ハゲは、最悪の場合、専門店でも元に戻せないことがあります。
作業時間には余裕を持つ
ベンジンでの汚れ落としは、少しずつ汚れを溶かして落としていくという方法です。短時間で一気に汚れが落ちるわけではありません。
作業時間には十分に余裕を持って、少しずつ、少しずつを繰り返していくようにしましょう。
輪染みにならないようにぼかす
ベンジンでの汚れ落としが十分ではなかったり、輪郭をぼかす作業を飛ばしてしまうと、乾いたあとに「輪染み(わじみ)」ができてしまいます。
「輪染み」を作らないように、汚れはキチンと取り切ること。また、汚れを取り除いたあとには、濡れた箇所がクッキリと見えないように、十分にぼかしこみましょう。
おわりに
ベンジンを使ったシミ抜き対処法では、上のような「摩擦による布へのダメージ」や「輪ジミ」といった失敗例が多く見られます。
万一失敗しても外からは見えにくい長襦袢、街着として着る気楽な着物など、「練習用」と考えられる着物で十分にお手入れの練習をすることを強くおすすめします。
振袖・留袖・訪問着など、大切なフォーマル着物に本番一回でベンジンを使うというのは避けた方が良いです。上でも述べましたが、ベンジンなどの自己対処で着物を毛羽立たせたり色ハゲさせてしまうと、その後に専門店にお直しをご依頼いただいても着物を元に戻せないことがあります。
小さなシミで付けたばかりの状態ならば、専門店のシミ抜き(部分洗い)の料金は比較的お安くなっています。「ちょっとこの着物はシミ抜きに失敗したくないな…」という時には、早めに専門店にご相談くださいね。