着物の牛乳のシミの落とし方は?対処法を徹底解説
着物に着くシミにはいろいろなものがありますが、意外と面倒なのが牛乳のシミです。タンパク質が多い牛乳は、一般的な水溶性の汚れに比べて落としにくく、着物のシミ抜きの方法を間違えると取れなくなってしまうこともあります。
最近では外出先で牛乳がたっぷり入ったカフェ・ラテ等を飲むという人も多いことでしょう。着物についた牛乳のシミの対処法や注意点は、あらかじめ知っておくと良いですよ。

着物の牛乳のシミの落とし方
牛乳にはタンパク質や動物性脂肪が多く含まれています。そのため、水性の汚れとは言っても、水洗いだけや作用の優しい中性洗剤だけだと汚れが取り切れず、成分が残ってしまうこともあるのです。
普段着の洋服であれば酵素入り等の強い洗剤を使って牛乳汚れを落とせますが、着物には強力な洗剤はNGです。油分汚れはベンジンで、残った水性汚れは中性洗剤で…と、段階的に汚れを落としていきましょう。
ちなみに牛乳の汚れ成分が繊維に残ると、イヤな匂いのもととなるだけでなく、変色ジミやカビの原因にも。少し手間はかかりますが、油分汚れと水性の汚れの両方を落とすシミ抜き方法をお試しください。
※この方法では水洗いの工程があるので、ご家庭での水洗いNGな着物はシミ抜きができません。洗濯表示をよくご確認ください。正絹(シルク)等、水洗いに対応していない着物については、次の項目で対処法をご案内しています。
1.ベンジンで油分の汚れを落とす
まずはベンジンを使って、牛乳の油分の汚れ(脂肪分)を分解していきます。
用意するもの
- ベンジン:クリーニング専用品。カイロ用はNG
- 大きめのタオル:汚れて捨てても良いもの
- ガーゼや柔らかいタオル:汚れて捨てても良いもの
- 和装用のハンガーか物干し
シミ抜きの手順
- 大きめのタオルを敷いて、その上に着物を広げておきます。
- ガーゼにベンジンしみこませます。ケチケチせずに、たっぷり使うのがポイントです。
- シミの部分をガーゼで軽く叩きます。ベンジンで汚れが溶け出し、タオルに汚れが落ちていきます。常にタオルやガーゼはきれいな場所が着物にあたるように、接地面を動かしていきましょう。
- 汚れがとれたら、再度ガーゼにたっぷりとガーゼをしみこませます。
- シミの輪郭部分をガーゼで叩いて、濡れた部分がはっきりと見えないようにぼかしこみます。
注意点
※ベンジンは気化しやすく、吸い込むと危険です。かならず換気をしましょう。また病人や高齢者・赤ちゃん・ペットが居る部屋では作業しないでください。
※ベンジンは引火性です。作業中、火器類は絶対に使用しないでください。
※着物によっては色落ち・変色する可能性があります。裏側等の目立たない場所で、事前に変色テストをしておきましょう。
2.中性洗剤で水性汚れを落とす
ベンジンで脂肪分の汚れを分解したら、次は中性洗剤で残った水性汚れを落としていきます。
用意するもの
- 中性の洗濯用洗剤:おしゃれ着洗い用のもの
- 洗濯用ネット:着物が畳んで入るサイズ
- 和装ハンガーまたは物干し
- アイロン
シミ抜きの手順
- 着物は畳んで、シミがある部分が表に出るようにしておきます。
- 浴槽や手洗い場等に冷たい水をためて、中性洗剤を適量溶かしておきます。
- 畳んだまま着物を全体的に漬けて、優しく押し洗いをします。
- シミがある部分には少量の中性洗剤の原液を漬けて、指でごく優しく撫でるように洗っておきます。
- シミ汚れが取れたら、2回水を取り替えて、すすぎを行います。すすぎの際も、冷たい水を使ってください。
- 洗濯ネットに入れて、洗濯機の脱水機能で40秒程度脱水をしておきます。あまり長く脱水するとシワになりますのでご注意ください。
- 和装ハンガーにかけて、直射日光にあたらない場所で陰干しし、乾燥させます。
- シミが取れているかよく確認してから、アイロンで形を整えます。
注意点
※着物に牛乳のシミが付いている場合には、洗濯にぬるま湯や温かいお湯を使ってはいけません。牛乳のタンパク質が熱で固まってしまい、繊維にこびりついてしまいます。必ず冷たい水を使いましょう。
※アイロン前にはシミが取れているかよく確認しましょう。汚れが残った状態でアイロンの熱を加えると、牛乳のタンパク質が固まって取れないシミになります。
自宅では汚れが落ちないこともある?
次のような場合には、水洗いができる着物でも牛乳のシミが取れないことがあります。
時間が経って乾いた牛乳のシミ
牛乳のシミは乾くと繊維に定着してしまい、ご家庭では落ちにくいシミになってしまいます。
変色している牛乳のシミ
汚れが残っているのに気づかず着物をしまった場合等には、あとから変色ジミが見つかりやすいです。このような古いシミは、ご自宅では落とすことができません。
熱で固まった牛乳のシミ
上でも解説しましたが、牛乳は熱が加わると取れにくいシミになります。汚れ残りに気づかずにアイロンをあてた場合等は、特に落ちにくくなっている可能性があります。
牛乳のシミにカビが生えた場合
残っている牛乳の成分からカビが発生した場合、カビ菌はご自宅では除去できません。
シミの状態が上のような場合には、無理にご自宅でお手入れを続けず、早めに専門店に相談をしましょう。
水洗いできない着物の場合は?
牛乳の汚れは基本的に「水性」の汚れなので、汚れを取るには水洗いをする必要があります。
しかし正絹(シルク)やウール等の素材は水洗いをすると縮んでしまうため、ご家庭では洗うことができません。
このような「家庭で水洗いができない着物」に牛乳のシミが付いてしまった場合には、早めに専門店に相談をしましょう。またお手入れをするお店を選ぶ時には、次のような点に気をつけることが大切です。
「洗い張り」もできるお店を選ぶ
着物に付いた牛乳の汚れは、一般的な着物クリーニングである「丸洗い」では落とすことができません。「丸洗い」とは石油溶剤を使ったドライクリーニングで、油溶性の軽い汚れを落とすことはできるのですが、牛乳のような水性汚れを落とすのはニガテなのです。
着物についた牛乳の汚れを落とすには、職人の手作業による「シミ抜き」や、程度によっては「洗い張り」が必要になります。
洗い張り(あらいはり)とは、着物を一度ほどいて反物の状態に戻し、水にさらして洗う伝統的な洗濯の方法のことを言います。水性の汚れが多量に付いてしまった場合や、シミの症状が重い場合などには、この「洗い張り」がお手入れとして選ばれることが多いです。
「洗い張り」は専門的な技術を必要とします。そのため着物クリーニングを扱うお店でも「洗い張りはできない」というところが少なくありません。着物に牛乳のシミが付いてしまった場合には、「手作業でのシミ抜き」や「洗い張り」ができるか、事前に確認をしておくことをおすすめします。
おわりに
着物に付いた牛乳のシミは、時間が経つほどに取れにくくガンコなシミになっていきます。自分で着物のシミ抜きをする場合でも、お店に相談をする場合でも、できるだけ早く対処することが大切です。
なお当店では、手仕事によるシミ抜きや洗い張り等、幅広い着物のお手入れを承っております。着物に付いた牛乳のシミなど、着物のトラブルにお困りの際にはぜひお気軽にご相談ください。