着物に付いたボールペンやインクのシミ抜き方法8ステップ
着物のボールペンのシミや万年筆などのインクのシミ、染み抜き等の対処を諦めていませんか?着物の種類やボールペンのインクの種類によっては、自分でボールペンのシミの対処ができることもあるんです。
着物の洗濯はOK?NG?
着物についたボールペンやインクのシミの染み抜きを始める前に、まずは着物が「自宅での水洗い」に適した製品かどうかを確認しましょう。ボールペンなどのインクの汚れを自宅で落とすには、水洗いの工程が必要です。
インクを溶剤で溶かし出すだけだと汚れが広がるだけなので、部分的な水の使用ではなく、着物全体をしっかりと水洗いできるかが重要なポイントになります。
洗濯表示を確認
水洗いの可否を確認するのに簡単なのは、洗濯表示のタグを見ることです。「手洗い」または「洗濯機洗い」の表示があればOK。反対に「水洗いNG」「ドライ(セキユ)」の指定がある製品は、ご自宅では洗うことができません。
素材を確認
- ポリエステル ほとんどが自宅で洗える製品です。ただし色落ちしやすいものもあります。
- 木綿 洗えるものもありますが、縮み・色落ちが激しい製品が多いです。高級品は原則全て水洗いはNG。
- 麻 洗えるのは日常着向けのものだけ。また色ハゲ・変色しやすく、自宅の染み抜きはできれば避けた方が良いです。
- 正絹(シルク)激しく縮むので水洗いはできません。シルク混紡も同様です。
- キュプラ 水洗いはできません。
- ウール ウォッシャブル対応の製品以外は水洗いできません。
- 素材不明 シルクやウール棍棒の可能性があるので、水洗いは避けた方が良いです。
特殊な素材や繊細な加工はNG
- 刺繍(シシュウ)がしてある
- 箔押し
- レースやシフォン素材
- メタリック加工
- ビーズ加工
- スパンコール縫い付け など
加工部分が劣化したり、色落ちすることがあるため、水洗いはできません。
インクの種類は水性?油性?
着物についたボールペンや万年筆のインクの種類によって、染み抜きの難易度が変わります。
水性インク
アルコールなどの溶剤にはやや溶けにくいですが、水洗いをしっかりすれば比較的落ちやすいインクです。早い段階の染み抜き(小さめのもの)であれば「洗剤+水洗い」で落ちることもあります。
油性インク
アルコールなどの溶剤には溶けるのですが、インクが繊維に定着しやすく「汚れが広がりやすい」シミです。何度も水洗いと洗剤洗いを行なってインクを取り除く必要があるため、水洗い可能な製品でもデリケートな製品は染み抜きを避けた方が良いです。
ゲルインク
水性・油性両方の特性を持っていて、さらに顔料(鉱物)がインクに使われているため、油性と同様、またはそれ以上に広がりやすく落としにくいシミです。できれば自宅での染み抜きは避けて、早めにプロに依頼することをお勧めします。
着物のボールペン染み抜きの用具を準備
着物のボールペン染み抜きでは、次の用具を使います。
- 消毒用アルコールまたはエタノール
- キッチン用洗剤
- 洗濯用中性洗剤
- 酸素系漂白剤(液体タイプ)
- 重曹
- 柔軟剤
- 洗濯用ネット
- タオル 2?3枚
- ガーゼまたは小さなタオル
- 歯ブラシ(毛の柔らかいもの)
- バスタオル
- 着物用ハンガー
- アイロン
- アイロン台
- 当て布
※着物の種類によっては使用しない用具もあります。
※着物の共布がある場合にはご準備ください。
アルコールでインクを溶かす
着物についたボールペンのシミを落とすには、まず繊維に付いたインク汚れを溶剤で溶かし出す作業が必要です。ここではご家庭でも手に入れやすい消毒用のアルコール(またはエタノール)を使います。
【ご注意ください!】
着物の素材・染料によってはアルコールで変色・色抜けなどが起きる場合があります。事前に裏地・共布などを使った変色テストをすることを強くお勧めします。
- 下にバスタオルを敷いて、着物を広げます。
- ガーゼまたは小さなタオルにアルコールを染み込ませます。
- アルコールを染ませたガーゼで、シミの部分を軽く叩いていきます。
- 丈夫な素材の場合には、歯ブラシを使って軽く叩くと汚れがより溶けやすいです。
素材や染料が丈夫な場合には、直接アルコールを垂らして溶かし出す方法も使えます。しかし素材へのダメージもその分だけ大きくなりやすいので注意しましょう。
洗剤で汚れを洗う
着物に付いたボールペンのインク汚れを溶剤で浮かせたら、すぐに洗剤で汚れを取り去る作業に入ります。
- シミの部分にキッチン用洗剤(デリケート素材の場合は中性洗剤)を少量つけます。
- 優しく指で揉み洗いします。
- 水で軽く濯ぎ、汚れの状態をチェックします。
汚れを落とす力はキッチン用洗剤が強いですが、天然染料を使った製品などには不向きです。
この場合には、ダメージの少ない洗濯用中性洗剤を使ってください。また、よりデリケートな素材の場合には、洗剤の原液を使わず、洗剤を水で薄めたものをガーゼや歯ブラシなどで付けた方が良いです。
漂白剤+重曹で洗浄力アップ
ポリエステルなどの丈夫な製品の場合には、より染み抜きの効果を高めるアイテムを使うことで染み抜きしやすくなります。
- 上の洗剤で洗う工程の途中で、酸素系漂白剤(液体タイプ)を少量加えます。
- さらに重曹を少量加えます。
- 3~5分程度置いてから、優しく指でつまむように洗います。
- 水ですすいで汚れの状態を確認します。
なお天然染料などを使っている製品や色柄ものの場合には、重曹は使えません。また重曹は弱アルカリ性のため、木綿・麻などの素材を縮めてしまう可能性もあります。洗濯表示で「中性」の指定がある製品には、この方法は使用しないでください。
全体を仕上げ洗い・すすぎ
着物に付いたボールペンやインクの汚れが落ちたら、全体を仕上げ洗いします。
- 着物を畳んで洗濯ネットに入れます。
- バスタブなどに水を入れて、洗濯用中性洗剤を適量溶かします。
- 着物を入れて、両手で押すように優しく洗います。
- 水を取り替えて、また押すようにして、すすいでいきます。濯ぎは2回繰り返します。
- 最後に水に柔軟剤を少量入れて溶かし、着物を全体的に漬けて馴染ませて仕上げます。
- 洗濯ネットのまま洗濯機に入れて、30秒程度脱水させます。(この工程は省略してもOK)
- バスタオルで挟んで軽く叩き、水分を取っていきます。
乾燥とアイロン
着物に付いたボールペンの染み抜き後の乾燥や仕上げ手順は、製品によって少しずつ異なります。
木綿など縮みが気になる着物の場合
- 着物が濡れている状態でアイロンの準備をします。
- 高温のアイロンで布を引っ張るようにしてアイロンがけをして、着物の収縮を元に戻していきます。
- 半乾き程度でハンガーにかけて自然乾燥させます。
化繊などの縮みにくい着物の場合
- 着物用のハンガーにかけて形を整えます。
- 乾燥してからアイロンを洗濯表示タグの指定温度にまで温め、形を整えます。
アイロン不要の着物の場合
- 着物用のハンガーにかけて、軽く手で叩くようにしながら皺を伸ばし、形をよく整えます。
- 自然乾燥で仕上げます。
なお自然乾燥の際には、直射日光に当てないように気をつけましょう。色あせなどの原因になります。
家で落ちないボールペンの染みも!シミ抜き注意点
着物についたボールペンやインクのシミは、状態によっては自分では落とせないことがあります。
古いシミは落とせない
着物についたボールペンやインクのシミを自分で染み抜き対処できるのは、汚れがついた即日2~3日程度までです。インクは定着力が強いため、時間が経つほど汚れが染まってしまい、ご家庭では落とせなくなります。
大きなシミは失敗しやすい
ボールペンなどのインクのシミは、インク量が多いほど「広がるだけ広がって、落ちない」「輪染みになる」といった失敗になりやすいです。ご家庭で落とせる着物のボールペン染みの目安は直径1?2ミリ程度まで。直径や長さ3ミリを超えるシミは、プロにおまかせした方が安心です。
柄部分は染み抜きしない方がいい
着物の柄の部分はさまざまな染料が使われているため、色落ちや変色が起きやすいです。柄部分にシミがついた場合には、自分での染み抜きは避けた方が無難です。
プロのボールペン・インク染み抜き作業
おわりに
着物についたボールペンやインクのシミは、一般的な洋服のクリーニング屋さんでも「お断り」になってしまうことがある位に難易度の高いシミです。自分で行う着物の染み抜きは難しそう…と思ったときは、着物専門のクリーニングに相談をした方が早くて確実ですよ。
当店『きものサロン創夢』も悉皆屋(しっかいや)という着物のお手入れの専門店ですので、着物についたボールペンの染み抜きなどを承っています。「着物のボールペンのシミが取れない!」とお困りの時には、どうぞお気軽にご相談ください。