着物に油性ペン・マジックペンの汚れが…シミ抜き対処の正解は?
油性ペンやマジックペンはとても便利な文房具ですが、着物等の衣類にシミ汚れとして付いてしまうこともあるのが困りものですね。さてこの着物についたマジックペン・油性ペンの汚れは、自分でシミ抜きできるのでしょうか?
着物の油性ペン・マジックペンの汚れは自分で落とせる?
着物についた油性ペン・マジックペンのシミ・汚れ落としができるかどうかは「着物の種類(素材等)」と「ペン汚れの状態」によって変わります。着物のシミ抜きを実際に始める前に、必ず次のポイントをチェックしましょう。
1.着物の洗濯表示を確認しよう
着物の油性ペン・マジックペンのシミを取るには「水洗い」のプロセスが必要です。着物の洗濯表示、証紙等を見て「洗濯機洗い」または「手洗い」に対応しているかを確認しましょう。
ドライクリーニング指定のある着物、素材等が不明な着物は、水洗いによって激しく縮んだり劣化してしまうため、油性ペン・マジックペンのシミ抜きはできません。
※留袖・振袖等のフォーマル着物は、その多くが正絹(シルク)で作られているため、水洗いや水を使ったシミ抜きは行えません。
2.使ったペンの種類はわかりますか?
「マジックペン」「マーカー」等と呼ばれるペン類には、実は様々な種類のインクが使われています。できれば汚れの原因となったマジックペンがどのような種類なのか、確認ができるのが理想的です。
- 水性染料マーカー
- 水性顔料マーカー
- 油性染料マーカー
- 油性顔料マーカー
- アルコール系染料マーカー
顔料系インクは元々が鉱石類なので水にも油にも溶けないですが、繊維への定着力は比較的弱く、水洗いができればキレイに落とせることもあります。しかし染料インクの場合だと定着力が非常に強いため、溶剤や水洗いだけでは落としきれない可能性が高くなります。汚れの原因が染料系マーカーである場合には、無理をせず専門店にシミ抜きを依頼した方が良いでしょう。
また「お名前書き用」等、衣類向けマジックペンのインクは繊維への定着力が非常に強いです。基本的にご家庭ではシミ抜きができません。早めにプロに相談しましょう。
3.新しいシミですか?
自分で対処ができる着物のマジックペン・油性ペンの汚れは、ついた当日もしくは1~2日程度の経過までの「新しいシミ」に限ります。これは油性ペン・マジックペンのインクの定着力が強く、一度乾くと取れにくくなってしまうためです。
着物に付いたマジックペン・油性ペン汚れが「付いてから数日以上」が経過している場合や「いつ付いたかわからない」場合には、できるだけ早く着物専門の店でシミ抜きして貰いましょう。
4.シミの大きさは?
着物のマジックペン・油性ペンのシミ抜きは、失敗をしやすいです。シミが大きくなるほど色素汚れが多いため、シミが残ったり、輪ジミになってしまいます。
ご家庭で対処ができる大きさの目安は、直径1~2ミリの「点」程度まで。
それ以上のハッキリとした大きさのあるシミや、長く線を引いたような汚れの場合は汚れが落ちきらない確率が高いので、プロにシミ抜きをしてもらった方が良いです。
5.特殊加工品・高級品ではありませんか?
次のような製品は、ご家庭でのシミ抜きを行うことができません。
- 刺繍(ししゅう)がある
- ビーズやスパンコール等の縫い付けがある
- 金糸銀糸・金箔銀箔の箔加工がある
- 縮緬である
- 絞りである
- ガード加工済みである
- 柿渋染等の天然染色製品である
また、いわゆる「高級品」「伝統工芸品」にあたるような着物は、素材や染料が繊細であり、ご家庭の溶剤・洗剤で変色をする可能性が高いです。
当ページでご紹介するシミ抜き方法は、普段着向け、街着等の気軽な着物を対象にしたものであるとお考えください。
着物の油性ペン・マジックペンのシミ抜き方法
では着物に付いた油性ペン・マジックペンのシミ抜き方法を見ていきましょう。
【用意するもの】
- 消毒用アルコール
- 食器用洗剤(液体タイプ)
- 洗濯用洗剤(液体・中性タイプ)
- 酸素系漂白剤(液体タイプ)
- 柔軟剤
- タオル
- バスタオル
- ガーゼまたは小さなタオル
- 綿棒
- 歯ブラシ(毛のやわらかいタイプ)
- 洗濯用ネット
- 着物用ハンガー
- アイロン、アイロン台(スチームアイロンはNG)
※アルコールや洗剤・漂白剤の使用で変色や色落ちが起きる可能性があります。共布・裏地等を使用した変色テストを行うことをおすすめします。
※全体の水洗いを行うため、衿元等が型くずれする恐れがあります。ぐし縫いで衿元を軽く縫い付けておくか、安全ピン等で固定をしておくことをおすすめします。
1.汚れを溶剤で浮かせる
まずはガンコなインク汚れを溶剤(アルコール等)で溶かして、浮かせるようにして取り除いていきます。
- 下にタオルを敷いてから、着物を広げます。
- 綿棒を使って、アルコールを汚れの部分に染み込ませます。
- ガーゼで軽く叩くようにして、汚れをガーゼやタオルに移し取っていきます。丈夫な素材の場合には、歯ブラシを使って裏から叩いてもOKです。
- 汚れが広がらないように、常にガーゼやタオルはキレイな面が当たるように動かしていきます。
溶剤で汚れを浮かせる時には、布地をゴシゴシと強くこすらないのが大切なポイントです。また素早く布に汚れを写し取らないと、インクの色素汚れが広がってしまいます。注意しましょう。
2.汚れを洗い流す
汚れを浮かせたら、洗剤で残った汚れをていねいに洗っていきます。
- 食器用洗剤を少量、汚れの部分に付けます。(デリケートな素材の場合には、洗剤を水で薄めてから使用してください)
- 水をほんの少し付けて、指で洗剤をなじませます。
- 洗面器等に水をはり、洗濯用洗剤を溶かしておきます。
- 汚れの部分に酸素系漂白剤を少量付けてから、3)で作った洗濯液に5分程度漬けておきます。
- 指でやさしくつまむようにして洗います。
- 水でよくすすぎます。
3.全体を仕上げ洗いする
汚れが取れたら、シミ抜きをした部分が輪ジミ等になるのを防ぐため、全体を仕上げ洗いします。
- 着物は畳んでネットに入れます。シミがある部分を外側に出すようにしておくと良いです。ネットは形と大きさがピッタリと合ったものを選ぶと、シワになるのを防げます。
- バスタブや洗面ボウル等に水を入れてから、中性洗剤を入れてよく溶かしておきます。
- ネットごと着物を漬けて、両手で優しく押すように洗います。
- 水を取り替えて、2回すすぎを行います。
- 最後に水をはってから柔軟剤を入れてよく溶かし、着物を全体的に漬けてから軽くすすいで仕上げます。
- ネットごと着物を洗濯機に入れて、30秒~40秒程度の脱水をさせます。(型崩れしやすい製品は省略してもOK)
- バスタオルで着物を挟むようにして、軽くトントンと叩き、水分を吸い取っていきます。
4.型崩れを直し乾燥させる
最後の乾燥の工程は、アイロンがけの有無等によって変わります。
濡れると縮みやすい素材の場合
木綿などの縮みやすい着物は、濡れた状態ですぐにアイロンがけを行なった方が縮みを元に戻しやすいです。
- 濡れたままで着物をアイロン台に広げます。
- アイロンを高温に設定し、強く引っ張るようにしてアイロンをかけていきます。
- 半乾き程度にまで仕上げてからハンガーにかけます。
- 直射日光を避けて自然乾燥させます。
一般的なアイロン仕上げの素材の場合
化繊等の一般的なアイロン仕上げでOKな素材の場合は、乾かしてからアイロンで形を整えます。
- タオルで脱水させた着物をハンガーにかけて、形を整えます。
- 直射日光を避けて乾かします。
- アイロンを洗濯表示の設定にあわせた熱さに設定し、シワを伸ばし、形を整えていきます。
- 一度ハンガーにかけて熱をよく冷ましてから保管します。
ノーアイロンの素材の場合
一部の素材では、アイロンがけが不要な場合もあります。
- 濡れたままで着物をハンガーにかけます。
- 両手で軽く布を引っ張るようにしてシワを取り、形をよく整えておきます。(目立つシワや型崩れがあるまま乾かすと、形が定着してしまいます)
- 直射日光を避け、風通しの良い場所で乾燥させます。
おわりに
着物についたマジックペンや油性ペンのシミは、色素がとても多く、かなり落としにくい汚れのひとつです。汚れが少し浮かせられても外側に広がってしまい、シミが大きくなるだった…といった失敗例も多く見られます。
反対に早い段階で最初からプロにおまかせして貰えれば、汚れがキレイに落とせることも多いです。(ここだけの話ですが、小さいシミのうちに相談しておいた方が、シミ抜き価格もお安く済みますよ。)
当店『きものサロン創夢』でも、マジックペンや油性ペン等の着物のシミ抜きを受け付けています。「シミ抜きに困った!」という時には、どうぞお早めにご相談ください。