着物に尿・おしっこのシミ…応急処置と染み抜き方法の正解は?
「着物におしっこの汚れをつけてしまった!」お宮参りや七五三等、赤ちゃんや小さなお子さんが着物を身につけるイベントだと、このようなトラブルは多く見られるものです。またもちろんお子さんだけでなく大人でも、トイレの失敗で着物に尿をつけてしまうトラブルはよく見られます。
着物におしっこ・尿の汚れを付けた場合、応急処置や対処法が洋服の場合とはだいぶ違います。洋服感覚で着物のおしっこのシミの対処を行うと大事な着物をダメにしてしまうことも。
着物についた尿・おしっこのシミの応急処置は?
まずは外出先で着物に尿・おしっこのシミを作った時の応急処置について知っておきましょう。対処法は二通りあります。
水洗いOKな着物の場合
例
- ウォッシャブルウールの着物
- 洗える木綿着物
- ポリエステルの着物 等
この他、ご家庭での水洗いはNGですが「撥水加工処理」がされている着物についても、こちらの応急処置方法が使えます。
応急処置の手順
- ティッシュペーパー等で濡れた部分を優しく抑え、水分をできるだけ吸い取ります。布の両面から抑えるようにすると、水分をしっかり吸い取ることができます。
- タオルを水に濡らしてから固く絞り、シミの部分を軽くトントンと叩くようにして汚れを吸い取ります。
- 別の乾いたタオル・ハンカチで優しく叩き、残った水分を吸い取っておきます。
※トイレットペーパーは使用しないでください。紙が水分で溶け、ペーパーの繊維が布の繊維に混じってしまうことがあります。
※飲食店のおしぼり・ウェットティッシュ等の使用はNGです。香料やアルコールを多く含むため、着物の変色や色落ち等の原因になります。
水洗いNGな着物の場合
例
- 正絹(シルク)の着物
- 天然染料を使った着物
- 素材が不明の着物
- 刺繍や特殊加工がある着物 等
「着物が家で洗えるか洗えないかわからない、判断ができない」という場合は、こちらの応急処置法を選んでおきましょう。
応急処置の手順
- ティッシュペーパーや乾いたタオルで布の両面からシミの部分を優しく抑え、水分を吸い取ります。
- 外出中はその部分に触れないようにしておきます。(範囲が大きい場合には、できるだけ早く着替えますが、着物を脱いだあとも濡れタオル等は使わないでください)
※正絹(シルク)等の水洗い不可の着物を濡らしてしまうと、おしっこの汚れが広がったり、濡らした部分が縮んで、被害が大きくなってしまいます。「濡れタオル」「水洗い」などの対処は厳禁です。
※ゴシゴシこすったり、強く叩かないでください。スレの原因になります。
着物についたおしっこ・尿の汚れのシミ抜き方法
着物についたおしっこ・尿のシミは、水に溶けやすい「水溶性の汚れ」です。反対に、油系の溶剤(ベンジンなど)には溶けません。
そのため、着物についたおしっこのシミをご家庭で落とすには「水洗い」のプロセスが必要になります。ご家庭で着物のおしっこ・尿のシミのシミ抜きを行う前に、着物の洗濯表示を見て、水洗いができるかどうかよく確認しましょう。
※素材がポリエステルや木綿・麻等の着物でも、特殊加工がある着物や水洗いで風合いが落ちる着物は「水洗いNG」となっていることがあります。必ず洗濯表示やメーカー指定をご確認ください。
※シミの状態によっては、ご家庭でのシミ抜きでは汚れが落ちない場合があります。このページの次の項目も確認しておきましょう。
用意するもの
- 中性タイプの洗濯洗剤:液体タイプのもの。エマール、アクロン等です。
- 洗濯用ネット:畳んだままで平らに着物が入る大きいタイプ。
- バスタオル:柔らかく色が薄いものが理想的です。
- 着物ハンガー:和装専用のハンガーで、襟~袖が一本の棒のようになっているものです。干せる場所が適切であれば、物干し竿でも代用可。洋服用ハンガーは型崩れの原因になるので使えません。
- アイロン、アイロン台:スチーム・ドライが選べるもの
シミ抜きの手順
- 水を浴槽や洗面ボウル等にためて、洗濯用中性洗剤を適量溶かします。詳しい使用量は製品パッケージ裏等にある説明書を見てみましょう。
- 汚れがついた部分を1)の洗剤液につけて、10分程度だけ浸け置きにしておきます。(長時間のつけ置きはNGです)
- シミがある部分に少量の中性洗剤原液をつけて、優しく撫でるように洗っておきます。
- 着物を畳んでネットに入れ、浴槽や洗面ボウルの洗剤液の中に漬けます。両手で優しく全体を押し洗いしましょう。
- 水を取り替えて、2回すすぎます。
- 洗濯機で40秒程度脱水します。
- バスタオルで挟んで、優しく抑えて水気を取ります。
- 着物ハンガーにかけて形を整え、直射日光を避けて陰干しします。9)乾いたらシミの状態を確認し、アイロンで仕上げをします。
※シミがある部分をゴシゴシとこすりあわせるのは止めましょう。白っぽく色が落ちる「スレ」、毛羽立ち等の原因になります。
※長時間の脱水は取れにくいシワ、型崩れの原因になるので避けます。
自己処理できない着物・シミの種類は?
着物の種類やシミの状態によっては、着物に付いたおしっこ・尿のシミを自分で処理できないことがあります。
家庭での水洗いができない着物
正絹(シルク)の着物など、家庭で水洗いをすると縮む着物、色あせなどが起きる着物は自分では尿のシミ抜きをすることができません。
ついてから時間が経っている尿のシミ
着物についた尿・おしっこのシミは、ついてから間もない状態で水洗をすれば比較的カンタンに落とすことができます。
しかし時間が経ってシミが完全に乾いてしまうと、尿にふくまれるアンモニア等の成分が繊維に定着し、ご家庭では落とすことができないシミになってしまいます。
- シミをつけて数日以上が経過している
- 尿もれ等でシミが少しずつ何回も付いている
- いつ付けたシミなのかよくわからない
上のような場合には、自己処理では汚れを落とすのは困難です。早めに専門店に相談をしましょう。
おしっこ・尿の汚れがある着物をクリーニングに出せる?
「この着物の尿のシミは家では落とせなそう」「自分でシミ抜きをするのは不安」このような場合、着物をクリーニングに出すことになりますが、お店選びでは次のような点に気をつけましょう。
「丸洗い」では尿汚れは落ちないので注意
一般的なクリーニング方法である「丸洗い(きもの丸洗い)」では、着物についた尿・おしっこのシミは取れません。
尿・おしっこの汚れは、上でも解説したとおり、水にとける水溶性のシミです。ところが「丸洗い」は、石油から生まれた油の溶剤を使って機械洗いをする方法。水性汚れを落とすのは苦手なのです。
着物についた尿・おしっこの汚れを落とすには、手作業でシミ抜きをするか、「洗い張り」という伝統的な洗い方をする必要があります。
店舗によって「お断り」をされることがある
「洋服のクリーニング店で着物も一部受け付ける」といった店舗の場合、着物のクリーニングメニューが上の「丸洗い」しかないことも多いです。
このような場合、おしっこ・尿のシミがついた着物はお断りされてしまったり、「洗ったけれど汚れが落ちきらなかった」と返却をされてしまうケースも見られます。
悉皆屋・着物専門の店舗を選ぶ
尿・おしっこのシミがついた着物のシミ抜き・洗浄を依頼する場合、着物のお手入れを専門に扱う悉皆屋(しっかいや)や、職人が在籍する着物専門クリーニング店を選びましょう。
おわりに
着物についた尿・おしっこのシミは、汚れが残っていると着物の変色やカビ等の原因にもなってしまいます。自分でシミ抜きをする場合でも、クリーニングに出す場合でも、早めに処理をすることが大切です。