着物のドレッシング汚れは応急処置なしが正解?シミ抜き方法も解説
フルコースでもカフェ等でのランチでも、高確率で出てくるのがドレッシングのかかったサラダですよね。その分、「着物で出かけたらドレッシングのシミを付けてしまった」というトラブルはかなり多く見られます。
ドレッシングのシミは一見すると色が薄くカンタンに取れそうなのですが、実はかなりの手強い汚れです。シミ抜き方法を間違ってしまうと汚れがかえって広がって、その後の対処が大変になってしまいます。
着物のドレッシングのシミ・応急処置は最低限で!
振袖や留袖・訪問着等の着物にドレッシングをハネさせてしまった時、応急処置はどのようにしたら良いのでしょうか。
おしぼりで拭く
ウェットティッシュで拭く
濡れタオルで拭く
上のような応急処置は、実は全部NGなんです。ドレッシングには多量の油が含まれており、水で濡らすだけでは分解させることができません。
「汚れを取らなくては」と着物をたくさん濡らすと、汚れの範囲が広がってしまう可能性が大。またトイレの石鹸水等を使うと着物の変色や変質を起こす恐れがあるので、これも厳禁です。
さらに着物の素材によっては布が縮んで、被害がさらにひどくなってしまうこともあります。極端な話をすれば、無理に濡らす対処をするよりは「応急処置をしないで放っておく」方が何倍もマシ!というほどなのです。
水分だけを吸い取っておく
着物にドレッシングのシミができてしまった時の応急処置は、次のように行っておきます。
- 固形物が付いている場合は、ティッシュペーパー等で丁寧に取り除いておきます。
- 布の表と裏から紙ナプキン等でそっと抑え、ドレッシングの水分だけを優しく吸い取ります。
ゴシゴシと擦ったり、強く叩いたりするのはNG。汚れを繊維の奥に押し込んで、かえって取れにくいシミにしてしまいます。
ドレッシングのシミは、一度ついてしまうと残念ながら外出先では完全に目立たなくすることができません。無理に汚れを取りきろうとせず、水分を取ったらできるだけ触らないようにしておきましょう。
着物のドレッシング汚れを落とす方法
ドレッシングの汚れは、レモン果汁や玉ねぎ等の野菜の汁・お酢等の「水溶性の汚れ」と、オリーブオイルやサラダオイル等の「油溶性の汚れ(脂溶性)」が混じっている混合性の汚れです。
そのため着物のドレッシング汚れを自分で落とすには、「油性の汚れ(油)を分解させる」→「水性の汚れを落とすために水洗いをする」という二段階のプロセスが必要になります。
着物のドレッシングのシミ抜きをしたい場合は、まず着物が「家庭での水洗い」に対応しているかどうか、洗濯表示等を確認しましょう。正絹やウール等の水洗いができない着物については、このページの最後の項目で対処法をご案内しています。
用意するもの
- ベンジン:クリーニング用のもの。カイロ用はNGです。薬局やドラッグストアで購入できます。
- タオル:汚して捨てても良いものを数枚用意します。
- ガーゼか小さめのタオル:こちらも汚れて良いものを用意します。汚れの範囲が小さい場合は綿棒等でもOKです。
- 中性洗剤:洗濯用の液体タイプ。おしゃれ着用洗剤
- 洗濯用ネット:畳んだ着物が入るサイズのもの。100円ショップでも買えます。
- 着物専用ハンガー:洋服用ハンガーは型崩れするので使用NG。物干し竿でも代用できます。
- アイロン、アイロン台:シワがきちんと伸ばせるもの。
下準備
- 窓を開けるか、換気扇を回します。作業中は常に換気状態にしておきます。
- 電気ストーブ、コンロ、ライター等は使用を中止します。ベンジン作業中は火器類は使用禁止です。
- 肌が弱い人・気管が弱い人は、ゴム手袋やマスク等で防御をします。
- 素材・染色によってはベンジンで色落ち・変色が起きることがあります。本格的な作業前に目立たない場所に付けて、変色や色落ちをしないかテストをしておきましょう。
シミ抜きの手順
- 大きめのタオルを敷いて、上に着物を広げます。
- ガーゼにベンジンをたっぷりしみこませます。
- ガーゼでシミ部分を軽く叩いて、汚れを下に落としていきます。常にガーゼやタオルのキレイな面が触れるように、ガーゼを動かしていきましょう。
- シミが十分に取れたら、もう一度ガーゼにベンジンをたっぷりと染み込ませ、輪郭をぼかしこみます。
- 洗面ボウルや浴槽にぬるま湯を入れて、中性洗剤を適量溶かします。
- 着物を畳んでシミを表側に出し、ぬるま湯に全体的に漬けます。
- シミがあった部分に中性洗剤を少量つけて、優しく撫でるようにして洗います。
- 両手で着物全体を優しく押して、押し洗いをします。
- 水を取り替えて、2回すすぎを行います。
- 着物を洗濯ネットに入れて、洗濯機で40秒脱水させます。
- 着物専用ハンガーにかけて形を整え、直射日光のあたらない場所で陰干しします。
- アイロンをかけてシワを取り、形を整えます。
※ベンジンでシミを取る時には、強くこすったり叩いたりしないでください。色がハゲたり、布地が毛羽立つ原因になります。
※汚れが取れた後は、輪郭をよくぼかしましょう。濡れた部分とそうでない部分の境目がハッキリしていると、輪ジミの原因になります。
家で落ちないドレッシング汚れもある?
シミの状態によっては、上の方法では着物のシミ抜きができない場合があります。
シミの直径が2センチ以上ある
シミの範囲が広すぎると、汚れをご自宅では取り切れず、残った成分が後から変色してガンコなシミとなってしまうことが多いです。、
シミが縫い目をまたがっている
縫い目にシミがある場合、縫い糸が汚れを吸い込んでいる可能性が高いです。汚れが糸に残るとカビ、糸の変質等の原因となってしまいます。
シミが付いてから時間が経っている
自分でシミ抜きができるのは、シミが付いてから当日~翌日程度までです。ドレッシングのシミが付いて乾いてしまうと、家では汚れが落ちなくなります。
後から油シミが浮いてきた
シミ抜きが不十分で油汚れが残っていると、後から油が残った部分が変色シミとして目立ってきます。このような着物の古いシミは、自宅では取り切ることができません。
赤ワインビネガーや醤油等が混じっている
赤ワイン酢や醤油、サフラン、ターメリック等の色素が非常に強い成分が含まれている場合、繊維がそれらの成分に染まっている可能性があります。
シミが上のような状態になっている場合には、無理に自宅でシミ抜きをせず、早めに専門店に相談をしましょう。
洗えない着物・落ちないシミは専門店で
- 正絹やウール等の洗えない着物にシミが付いた
- 着物のドレッシングシミが落とせない
- 着物に大きなドレッシングのシミができた
- 自分で着物のシミ抜きをするのは不安
このような場合には、できるだけ早く着物を専門に扱うクリーニングのお店で「シミ抜き」をしましょう。クリーニングの際には次の点に気をつけます。
丸洗いだけではドレッシングのシミが取れない
「丸洗い(きもの丸洗い、機械洗いのドライクリーニング)」だけでは、ドレッシングのシミは落ちません。ドレッシングのシミを落とすには、職人による手作業でのシミ抜き作業が必要になります。
洋服クリーニングをメインにしたチェーン店舗等では、「きものクリーニングは丸洗いしかやらない」というところも多いです。手作業でのシミ抜きをやっているか、ドレッシングのシミが落とせるかを先に確認しておきましょう。
状態によっては「洗い張り」も必要
縫い目をまたがるような広い範囲のシミや、古いシミ等の場合、より専門的な「洗い張り」や「漂白」等の作業が必要になることもあります。
「古いシミも落とせる」「洗い張りもできる」等、着物のお手入れのメニューを幅広く行っているお店を選ぶことをおすすめします。
おわりに
着物についたドレッシングのシミは、放っておくと古い油ジミとして徐々に目立つシミになるだけでなく、カビの発生や虫害(虫食い)等の原因にもなります。
食事の際にはハネ予防のハンカチやナフキンをしっかりと使って着物や帯を保護しましょう。そして万一ドレッシング等をハネさせてしまった場合には、できるだけ早く対処をすることが大切です。