着物についた嘔吐(おうと)・吐瀉物(としゃぶつ)のシミを落とす方法は?応急処置も解説
着物でのお出かけ先では、思いもよらないトラブルも起こるもの。飲み会で誰かが吐いてしまったり、乗り物で気分が悪くなってしまったり…このようなトラブルで、着物に嘔吐・吐瀉物(ゲロ)のシミが付いてしまうケースは意外と多いです。
着物に嘔吐物・吐瀉物のシミが付いてしまったら、どのように対処をすればよいのでしょうか?
着物に嘔吐・吐瀉物のシミが付いた時の応急処置
着物に嘔吐物・吐瀉物(ゲロ)のシミが付いてしまった場合、次のような応急処置を行ってはいけません。
おしぼりで拭く
おしぼりやウェットティッシュ等は応急処置で絶対に使わないでください。これらの製品には「アルコール」「香料」「除菌向けの成分」等が多く含まれています。天然染料等のデリケートな成分が多い着物の場合、おしぼりの成分で変色が起きてしまうこともあるのです。
水で濡らす
正絹(シルク)やウール等、水洗いができない着物に「濡らしたタオル」を使って応急処置をするのは厳禁です。もちろん、水道で直接布地を濡らす等の対応も絶対にしてはいけません。
正絹(シルク)等の生地は、極端に水濡れに弱いです。吐瀉物のシミが取れても、水濡れした部分が縮んでしまって、今度は「水シミ」になってしまいます。濡れた範囲が広い場合や、濡れの程度・着物の種類によっては、専門店でも着物を元に戻せないこともあるのです。
強くこする、叩く
汚れを落とそうと、強くこすったり叩いたりするのもNGです。汚れが繊維の奥に押し込まれて、取れにくいシミになってしまいます。
表面の汚れだけを乾いた紙やタオルで取ろう
着物に嘔吐物・吐瀉物のシミが付いてしまった場合には、紙ナフキンやティッシュペーパー、乾いた布等を使って、表面の汚れだけを取り除くようにしましょう。これ以上の処置は外出先ではできません。
着物の嘔吐のシミの落とし方
着物についた嘔吐物・吐瀉物(ゲロ)のシミをキレイに落とすには、まずその性質を知ることが大切です。嘔吐物・吐瀉物は、水をベースにした水溶性汚れが多いのですが、そこには直前に食べたものや胃酸等も含まれています。
脂肪分(脂溶性の汚れ)やアルコール、タンパク質等も多量に含まれる「混合性のシミ」というわけです。そのため脂溶性の汚れはベンジンで落とし、残った水性汚れを水洗いで落とすという二段階のシミ抜きが必要になります。
※着物についた嘔吐物・吐瀉物のシミ抜きでは、上で解説したとおり「水溶性の汚れ」を落とすための「水洗い」が必要になります。ご家庭での水洗いができない着物については、次の項目で対処法を案内していますのでご参照ください。
1.ベンジンで油溶性汚れを落とす
まずは油汚れを分解する「ベンジン」を使って、吐瀉物に含まれる脂溶性の汚れを取りましょう。
準備するもの
- ベンジン:薬局やドラッグストアで売っています。カイロ用は使えません。
- 大きめのタオル:汚れて捨てても良いものを準備します。
- ガーゼや柔らかい布:こちらも汚れて良いものを準備します。薄い色か白を使います。
下準備
- 窓をあけるか換気扇を開けて、部屋の換気をし続けます。ベンジンは揮発性が高いので、部屋を密閉してはいけません。
- ライターやコンロ、電気ストーブ等の火器類を使うのは中止します。ベンジンは引火性があるので、火事を起こす危険があります。
- ベンジンは、染料によっては色落ちや変色を起こすことがあります。ベンジンを少量裏地や共布等につけて、変色テストをしておきましょう。
シミ抜きの手順
- 大きめのタオルを敷いて、その上に着物を広げます。
- ガーゼか布にベンジンをたっぷりと染み込ませます。
- シミの部分をガーゼか布で軽く叩いていきます。ベンジンで汚れが溶け出し、タオルに汚れが落ちていきます。
- 常にガーゼか布のきれいな場所が着物に触れるように、ガーゼを動かしていきましょう。
- 汚れが目立たなくなったら、もう一度ベンジンをたっぷりとガーゼに染み込ませます。
- シミの輪郭部分をガーゼで外側に向かって叩き、ぼかしていきます。衿等の小さいパーツにシミがある場合には、衿全体(縫い目のキワまで)にベンジンを塗り拡げてOKです。
- すぐに次の「水洗い」の手順に移ります。
※ベンジンを含ませたガーゼ・布で、シミの部分をゴシゴシこすったり強く叩いたりはしないでください。色ハゲやスレの原因になります。
2.水洗いで水性汚れを落とす
着物についた嘔吐物・吐瀉物の水性汚れを落とすために、次は中性洗剤を使って水洗いを行います。
準備するもの
- 中性の洗濯用洗剤:おしゃれ着洗い用のもの(エマール、アクロン等)
- 洗濯用ネット:着物が畳んで平らに入るサイズ、四角い形のもの
- 和装ハンガー:着物専用のもの、物干しでも代用できます
- アイロン:スチームアイロンは不可
※水洗いした着物はかなり型くずれするので、アイロンで形を整えるプロセスが絶対に必要です。アイロンが無いご家庭の場合には、専門店に着物を持ち込みましょう。
シミ抜きの手順
- 着物はシミがある部分が表になるように軽く畳んでおきます。
- 洗面ボウルや浴槽に冷たい水をためて、おしゃれ着用の中性洗剤を溶かしておきます。
- 着物を軽く水で濡らしてから、シミのある場所に少量の中性洗剤の原液を付けて、指でやさしく撫でるように洗います。
- 洗濯用ネットに入れて着物を1)で作った洗濯液に全体的に漬けて、優しく両手で押し洗いをします。
- シミ汚れが取れたら、2回水を取り替えて、すすぎを行います。すすぎの際も、冷たい水を使いましょう。
- 洗濯ネットのまま、洗濯機に入れます。脱水機能を使って、30秒~40秒、軽く脱水を行います。長く脱水するとシワの原因になるので避けます。
- 和装ハンガーにかけて、両手で軽く叩くようにしてシワを取り、形をよく整えておきます。
- 直射日光のあたらない風通しの良い場所で、十分に自然乾燥させます。
- シミが取れているかよく確認してから、アイロンで形を整えます。
※着物に吐瀉物・嘔吐物のシミがある場合、水洗いでは必ず「冷たい水」を使いましょう。ぬるま湯・熱湯等を使用すると、嘔吐物に含まれるタンパク質が固まってしまい、取れにくいシミや黄ばみ等の原因になります。
着物の嘔吐・吐瀉物のシミを家で落とせない時には
着物についた嘔吐物(ゲロ)のシミの状態や、着物の種類によっては、ご家庭ではシミ抜きをすることができません。
家で落ちない嘔吐物のシミ
- シミができてから数日以上が経過している
- 汚れた部分が後から黄ばみや変色シミになった
- シミの部分にカビが生えた
- ベンジン・中性洗剤でも汚れが落ちきらない
- 着物を家で水洗いできない
このような場合には、専門店でのシミ抜きやその他対策が必要になります。お店選びの際には、次の点に気をつけましょう。
ドライクリーニングだけでは汚れが落ちない
着物の一般的なクリーニング方法である着物丸洗い(ドライクリーニング)だけでは、着物についた嘔吐物・吐瀉物のシミは取ることができません。
丸洗いとは石油系溶剤を使った機械洗いのことで、油溶性汚れを落とすのは比較的得意ですが、嘔吐物のような水性汚れの多いシミを取るのは苦手です。
「シミ抜き」「洗い張り」ができる店を選ぶ
着物に嘔吐物・吐瀉物のシミ汚れが付いた場合には、「着物のシミ抜き」「着物の洗い張り」等、着物専用の細かなお手入れメニューがあるお店に相談をしましょう。
シミの程度によっては「シミ抜き」だけで汚れが落ちることもありますが、汚れの範囲が広い場合等には「洗い張り(着物をほどいて洗う方法)」が必要になることもあります。
悉皆屋(しっかいや:着物のお手入れ全般ができる専門業者)等、着物に強い店に相談することが大切です。
おわりに
着物についた嘔吐物・吐瀉物のシミは、汚れが完全に取り切れないと手強い「黄変(おうへん)」という変色シミやカビ等の原因になってしまいます。どんなに小さなシミでも「汚れが付いた!」と気づいた時に、早めに対処することが大切です。