着物の袖汚れは落とせる?自分でできるしみ抜き方法とは
着物の袖は広く開いているため、内側まで他の人からよく見えます。そのため袖の裏に汚れやシミがついていると、「あの人の着物、汚いなあ……」とバレバレになってしまうというわけですね。「袖の内側だから見えにくいはず」と思わず、袖についたシミ・汚れは早めに対処をすることが大切なんです。
着物の袖の汚れの対処法は、洋服のしみ抜きとはやり方が少々異なります。
着物の袖汚れ落としの基本
着物の袖にもっとも付く汚れは、手首との接触で付く「皮脂の汚れ」です。皮脂の汚れは油性(油溶性)の汚れなので、ベンジンを使うことで浮き上がらせることができます。
石油を精製して作られた溶剤で、機械洗浄、ご家庭ではしみ抜きやシールはがし等に用いられます。薬局やドラッグストア、ネットショップ等でも買うことができます。価格も数百円~千円前後と、比較的手頃です。
ベンジンは気化性(空気にすぐに飛び散る)という性質を持っているので、ベンジンで濡らした布地はすぐに乾きます。水を使わずお手入れができ、布地を長時間濡らさないことから、正絹(シルク)等のお手入れにも使うことができる便利な存在です。
用意するもの
着物の袖の汚れ落としでは、次のものを用意します。
※着物の袖についたシミの種類、状態等によっては、ベンジンのしみ抜きでは汚れが落ちないことがあります。下の項目まですべてチェックしてから準備を行いましょう。
- ベンジン(薬局等で売っているものでOK、カイロ用はNG)
- 柔らかい布(木綿ガーゼ、さらし等の天然繊維が理想的)
- 汚れても良いタオル
- 獣毛のブラシ、獣毛の歯ブラシ(あれば馬毛、豚毛等。ナイロン毛はNG)
- 着物用のハンガー
しみ抜き前の準備
しみ抜きを行う前に、次のように準備をしておきます。
- 窓を開けるか換気扇を回します。ベンジンは空気中に飛び散りやすいので、常に換気をしておきましょう。
- ストーブやライター、ガスコンロ等の火器類の使用は厳禁なので、すべて作動を止めておきます。
- 素材・染料によっては、ベンジンで変色・色あせ等が起きる可能性があります。裏の目立たない部分等に少量のベンジンをつけて、変色が起きないかテストをしておきましょう。
しみ抜きの手順
- 下にタオルを敷いてから、着物の袖を広げておきます。
- 獣毛ブラシまたは柔らかい布に、ベンジンをたっぷりと染み込ませます。
- 汚れが気になる部分にベンジンを塗り拡げ、軽く叩くようにして動かしていきます。
- 汚れが下に落ちていくので、タオルを動かし、常にキレイな面が触れるようにしておきます。
- 汚れ落としが済んだら、仕上げとして柔らかい布にもう一度ベンジンをたっぷりと染み込ませます。(ブラシを使っていた場合でも、仕上げには布を使ってください)
- 優しく大きく拭くようにして、ベンジンで濡れた部分の輪郭がわからなくなるよう広げてぼかしていきます。
- 袖以外に、襟元等も皮脂汚れが付きやすい箇所ですので、同じようにして皮脂汚れを取っておきます。
- 着物用のハンガーにかけて乾かします。
しみ抜きの注意点
着物の袖の汚れ取りをする時には、次の点に気をつけます。
※汚れが落ちない場合等に、強く何度もこすり続けるのは絶対に止めましょう。その部分だけが色が白っぽくなったり、うっすらと毛羽立つように見える「スレ」が起こってしまいます。
※ベンジン使用の際には必ず「ぼかし」を行うようにしましょう。汚れを取っただけで作業を終わらせると、濡れた部分の輪郭が残って「輪ジミ」になってしまいます。
※皮脂汚れが黒いシマのような「黒ずみ」になっている場合には、皮脂のタンパク質等が酸化して硬い層になっているため、ベンジンでは汚れを落とすことができません。この場合には、早めに専門店に着物の袖の汚れとりを相談しましょう。
着物の袖の裏は長襦袢に隠されていないため、皮脂汚れがとても溜まりやすい箇所です。上の「ベンジンでの着物のしみ抜き」を方法を覚えておいて、定期的に皮脂汚れのしみ抜きを行うようにしましょう。
こまめにお手入れを行うことで、着物をクリーニングに出す頻度も少なくすることができますよ。
着物のその他の袖汚れ、家でしみ抜きできる?
上では着物の袖についた「皮脂汚れ」のお手入れについて紹介しましたが、その他のシミ・汚れが付いた場合にはしみ抜きはできるのでしょうか。自己処理の可否は、「シミの原因」「シミの状態」によって変わってきます。
油溶性の汚れの場合
- ファンデーション汚れ
- オリーブオイルのシミ 等
油溶性の汚れは、早い段階であれば上の「皮脂汚れ」と同じしみ抜き方法で汚れを落とすことも可能です。できるだけ早くお手入れをしましょう。
なお時間が経って汚れが定着してしまっている場合には、自己処理だと汚れが落ちきらないので要注意。また、大きさが500円玉を超えるようなサイズの場合も、ベンジンでは汚れが落ちきらない可能性が高いです。
水溶性の汚れの場合
- お茶のシミ
- 醤油のシミ 等
水溶性の汚れ(水性のシミ)は、早い段階であれば水洗いをすることで比較的スムーズに落とすことができます。着物に負担をかけないように、作用が穏やかな中性洗剤を使用しましょう。
ただしこれは、ウォッシャブルウール等の水洗い対応の着物の場合のみです。正絹(シルク)の着物等、水洗いに対応していない着物の場合は、水溶性汚れを家で落とすことができません。
混合性の汚れの場合
- ラーメンのスープ
- カレーのシミ
- 母乳のシミ等
混合性の汚れとは、水性の汚れと油性の汚れの両方が混じっているシミのことです。この汚れを落とすには、まず油性の汚れを十分に浮かせてから、あらためて水性の汚れを落としていく必要があります。
ウォッシャブルウールや洗える木綿着物等で、ついて間もないシミであれば、上で解説した「ベンジンのしみ抜き」で汚れを落とし、その後に中性洗剤を使って手洗いすることで、シミを落とせる可能性もあります。
なお水溶性汚れと同様に、正絹着物等の家庭での水洗いができない着物については、混合性汚れは自己処理ができません。
【家で落ちない汚れ・不明な汚れは専門店へ】
シミの種類が自宅では落とせないものだったり、原因がよくわからない場合には、無理に自宅で着物のしみ抜きを行わず、専門店に相談をしましょう。
着物の袖汚れはクリーニングで落ちる?
「着物の袖の汚れが気になる…」「家では汚れが落ちなそう」こんな場合、クリーニングに出す時には次のような点に気をつけましょう。
黒ずみ汚れや食品のハネ等は「しみ抜き」を依頼!
着物の袖に溜まった古い黒ずみや、食品のハネによるシミ、その他水性の汚れ等は、一般的なクリーニングである「丸洗い(きもの丸洗い)」では落ちません。
職人の手作業による「しみ抜き」、シミの種類等によっては「洗い張り」が必要となることもあります。洋服クリーニングのお店等だと、「着物のしみ抜き」や「洗い張り」等ができないことも多いので注意しましょう。
着物に強いお店に相談を
着物の袖汚れについては、悉皆屋(しっかいや:着物のお手入れの専門業者)や、着物専門のクリーニング店に相談をするのが一番確実です。
当店でも「他店で断られた」といった着物の袖口シミの相談を承っています。お気軽にご相談ください。
おわりに
着物の袖口は、こまめにベンジン等でお手入れをしているとキレイな状態を長く保つことができます。しかし「面倒だから」と放置をしてしまうと、自分では取れない頑固でやっかいな汚れが溜まってしまうことに。
あまりにも古い汚れだと、専門店でも汚れを取るのが難しい…となってしまうこともあります。着物を脱いだら袖口をよくチェックして、気になる時には早めに処理をすることが大切ですよ。