着物に付いたバターのシミを落とすには?よくある質問Q&A
パンにたっぷりバターを塗ったり、バターソースのステーキや魚料理を楽しんだり……フランス料理等の西洋料理には、バターは欠かせない調味料ですよね。でもこのバター、コース料理等で着物に垂らしてしまった…というトラブルが意外と多い食品でもあるんです。
バターは油脂成分が80%と油分が多いので、着物のシミ抜きをする場合にはこの汚れをしっかりと取り除くための対処が必要になります。
バターのシミを外出先で応急処置する方法は?
ティッシュペーパーや紙ナフキン等で優しく抑え、汚れをそっと吸い取るようにしましょう。外出先での応急処置はここまでで十分です。濡らしたり、濡れタオルやオシボリ等で拭くのは止めましょう。
バターはとても油分が多いので、水を加えても汚れが弾かれてしまいます。濡らせば濡らすほど汚れは広がるばかりです。また、着物の素材が正絹(シルク)等の場合、濡らしてしまうとその部分が縮んで「水シミ」ができてしまうことも!シミを濡らすのは厳禁なのです。
着物のバター汚れは家でシミ抜きできる?方法は?
家で水洗いができる着物なら、原則としてはご自宅でシミ抜きすることが可能です。ドラッグストア等でも買える「ベンジン」で油汚れを溶かし出してから、残った汚れを洗剤で洗い落としていきます。
シミ抜き前に確認しよう
洗濯表示や素材を確認
着物のバター汚れを落とすには、最後に残った汚れ(塩分等の汚れ)を取るために水洗いの工程が必要です。着物がご家庭で水洗いできるか必ず確認しましょう。
色落ちテストをしよう
染料や素材によっては、ベンジンや洗剤で色落ちや変色が起きることがあります。共布または裏面等の目立たない箇所で、変色テスト・色移りテストを行いましょう。
シミの状態を確認
シミの状態によっては、ご家庭では汚れが落ちないことがあります。Q&Aの最後の項目まで確認してから作業を始めましょう。
シミ抜きに必要なもの
- ベンジン
- 柔らかい布(汚れて良いもの)
- タオル(汚れて良いもの)
- 台所用洗剤(液体タイプ)
- 歯ブラシ(柔らかい毛質のもの)
- 容器(小皿などでもOK)
- 中性タイプの洗濯用洗剤(おしゃれ着洗い用のもの)
- 洗濯用ネット(着物を本畳して平らに入るサイズ)
- バスタオル2枚
- 着物用ハンガー(物干しでも代用可)
- アイロン、アイロン台、あて布、霧吹き等
※ベンジンは揮発性が高く刺激が強い物質です。事前に窓を開け、作業中は常に部屋を換気します。
※ベンジンは引火性です。作業中の火器類の使用は厳禁です。
シミ抜きの手順
- 汚れても良いタオルを敷いてから、着物を広げます。
- 柔らかい布をベンジンで濡らします。
- シミを布で軽く叩いて、汚れを少しずつ溶かしていきます。汚れが布やタオルに移るので、キレイな面に当たるように少しずつ動かしながら作業します。
- 汚れが完全に取れたら、もう一度ベンジンで布を濡らして、輪郭をぼかすように叩いておきます。
- 40℃~45℃のお湯をシミの部分にかけて濡らします。(着物が高温NGNの場合には、30℃以下等の冷水を使います。以下の作業も同じです)
- 小皿にお湯を入れてから台所用洗剤を入れて薄めます。
- 薄めた台所用洗剤を歯ブラシに付けて、シミがある部分を軽く叩いたり、指でなじませていきます。
- 汚れが十分に浮いたら、お湯でよくすすぎます。
- 着物を畳んで洗濯用ネットに入れます。
- 35℃程度のぬるま湯をバスタブや洗面ボウルに入れて、中性洗剤を適量溶かしておきます。使用量は製品パッケージ裏の説明書「手洗い」の項目を参照しましょう。
- 着物をネットごとぬるま湯に漬けて、両手で優しく押し洗いします。
- お湯を取り替えて、2~3回すすぎます。
- 洗濯ネットごと洗濯機に入れて、30秒程度脱水させます。型崩れが気になる場合には省略しても構いません。
- バスタオル2枚で着物を挟んで水分を取ります。
- 専用ハンガーにかけて形を整え、直射日光を避けて乾燥させます。
- アイロンを素材に適した温度に温め、シワを取り形を整えます。
注意点
※ベンジンで強く擦ったり叩いたりするのはやめましょう。表面が白っぽくなる「スレ」の原因になります。
※バターの乳脂肪は37℃~40℃前後で液体脂肪になり溶け出すため、シミ抜き時に高温のお湯を使っています。しかし素材によっては高温使用が縮みの原因となるので、この場合には冷水に切り替えます。
バターのシミ抜きはベンジンだけではダメ?
ベンジンだけで着物に付いたバターのシミ抜きを終わらせるのはおすすめしません。バターの脂肪分はベンジンで溶かし出せますが、塩分等の汚れが着物の繊維に残ってしまうためです。
塩分(ナトリウム)等の汚れは時間が経つと酸化し、通常のクリーニングでは落ちない変色シミ(黄変など)の原因になってしまいます。家で水洗いができない着物にバターのシミができた場合には、専門店でシミ抜きをしてもらった方が安心です。
歯磨き粉やクレンジングオイルは使えない?
一般的な衣類(洋服)のバターのシミ抜きには使っても問題ありませんが、着物のシミ抜きには歯磨き粉やクレンジングオイルは使わない方が良いです。
歯磨き粉は研磨力があるため、着物の表面を毛羽立たせてしまったり、白っぽくスレさせてしまう恐れがあります。またクレンジングオイルはベンジンと違って揮発しない(空気に飛び散らない)ので、油の成分が繊維の中に残ってしまう可能性が考えられます。
またクレンジングオイルには製品ごとに異なる香料や界面活性剤が使われているため、万一の変色・褪色等のリスクがとても高いです。着物等のデリケートな衣類のシミ抜きには使わない方が良いでしょう。
着物のバター汚れが家で落ちないこともある?
「乾いたシミ・古いシミ」「変色しているシミ」「大きすぎるシミ」などは、ご家庭では対処ができません。着物の取り扱いに強い悉皆屋や専門クリーニング店に相談をしましょう。
時間が経った汚れは落ちない
バター等の油汚れは、時間が経つと繊維に定着して落ちにくくなります。ご家庭で対処できるのは付いてから3~4日程度までが限度です。一週間以上が経過していたり、いつ付いたかわからないシミはシミ抜きで落ちない可能性が高いです。
洗濯で残った油汚れは落ちない
洗濯・乾燥を繰り返したり、アイロン等を当てたりした後で浮いてきた油シミはご家庭では落とすことができません。
縫い目の汚れに注意
着物に付いたバターのシミは範囲が広いほど汚れが残りやすいです。特に「縫い目」にシミがまたがっている場合は要注意。縫い糸に油汚れが染み込んでいるため、後から油シミが浮いてきたり、縫い糸が脆くなって切れる恐れがあります。
おわりに
着物に付いたバターの汚れは、早めにお店に相談すれば「シミ抜き(部分洗い)」でキレイにしてもらえます。しかし時間が経って油汚れが酸化してしまうと、一般的なクリーニング店では対処が難しくなってしまうので要注意です。
なお当店『きもの創夢』では、時間が経ったバターのシミなどの手強い汚れについてもご相談を受け付けています!漂白・染め直し等の対処もできますので、「もう無理」と諦めるまえにぜひご相談くださいね。