着物にできた輪ジミ、原因と対処法を解説!
着物の「輪ジミ(輪染み)」とは、汚れなどが輪(リング、円)を描くように残っているシミのことです。「輪」とは言いますが、あまりにも汚れの範囲が広い場合には輪が大きすぎて、一本の線のようになっていることもあります。
着物に輪染みができる原因は、ベンジンでのケアの失敗や水濡れなど様々です。原因によっては着物の輪染みに自分で対処できるケースもありますが、早めに専門店に相談をしたほうが良いケースもあるので、しっかりと見分けていきましょう。
着物に輪ジミができる原因とは?
着物に輪ジミができる主な原因としては、次のようなものが挙げられます。
ベンジンでのシミ抜きの失敗
ベンジンはよくご家庭での着物のシミ抜きに使われますが、汚れをしっかりと溶かしきっていないと、輪郭部に汚れが溜まって残り、輪ジミとなることがあります。
また、ベンジンで汚れを除去したあとに「輪郭部をぼかす作業」をしないことで、輪ジミの原因となることも。「ぼかし」をしないとベンジンで濡れた箇所とそうでない箇所の境目の部分にクッキリと跡が残り、これが輪ジミになってしまいます。
水濡れによるウォータースポット(水シミ)
正絹(シルク)等の水濡れに弱い着物は、濡れるとその部分が収縮(しゅうしゅく:ちぢんでしまうこと)してしまいます。水滴が付いたところ、水が染み込んだところだけが縮んで色の反射の仕方がかわるので、汚れが付いていないのに「シミ」ができたような跡になってしまうのです。
このようなシミのことは「水シミ」や「ウォータースポット」とも呼ばれます。
雨・雪等による汚れの残り
悪天候の日に着物を着たら、雨や雪などでぐっしょりと着物が濡らしてしまった…このような場合は、雨水のハネに含まれている泥やガソリン等の汚れが濡れた部分の輪郭に溜まって、輪ジミとなっていることもあります。
水濡れによる染料の偏り
着物の染め方や染料によっては、激しく濡れると、着物を染めている染料(せんりょう)が溶け出してしまうことがあります。溶け出した染料が偏って残って乾き、「輪ジミ」のようになってしまうこともあるのです。
汗等の汚れの酸化
汚していなかった筈の着物を久しぶりに出してみたら、茶色っぽい輪ジミができている……これは、汗等の汚れが時間が経つ毎に酸素と結びついてできてしまった「黄変(おうへん)」という酸化シミです。
黄変は最初は薄い黄色っぽい変色として症状が出ますが、時間が経つ毎に少しずつ薄茶色、茶色、焦げ茶色…と色が濃くなっていきます。
着物にできた輪ジミの対処法
着物に輪ジミが出来てしまった場合には、どのように対処をしたら良いのでしょうか。
ベンジンはシミ抜きをやり直す
最近行ったベンジンのシミ抜きで着物に輪ジミが残ってしまった場合は、もう一度ベンジンでのシミ抜きをやり直してみましょう。
【注意するポイント】
- ベンジンはケチケチせず、たっぷりと使います。
- 汚れは一度に全部溶かしきれないので、少しずつ時間をかけて落としていきます。
- 濡れた部分とそうでない部分の輪郭を最後によくぼかしましょう。襟などのパーツの場合は、襟全体(縫い目の部分まで)ベンジンを塗り拡げます。
ベンジンでのシミ抜き方法については、当サイトのこちらのページでも詳しくご案内しています。あわせてご参照ください。
なお、ベンジンでシミ抜きをしてから時間が経っている場合には、自分で輪ジミを直すのは難しいです。専門店に相談をしましょう。
水滴や雨汚れは「水洗い」か「洗い張り」
水滴によるウォータースポットや雨汚れなどで輪ジミができている場合、水洗いOKな着物については水洗いをして対処します。
【水洗いの手順】
- 必ず事前に水洗いができる製品かどうか確認しましょう。
- 着物を本畳みまたは袖畳みにして、洗濯用ネットに入れます。汚れがある部分が表に出るようにいれましょう。
- 洗面器や浴槽等に水を張って、中性洗剤を適量溶かします。
- 着物をネットごと漬けて、やさしく押し洗いをします。
- 水を取り替えて、2回すすぎを行います。
- 洗濯機の脱水に40秒程度かけて、脱水します。脱水のしすぎはシワのもとになるので注意しましょう。
- 和装ハンガーまたは物干しにかけて、直射日光のあたらない場所で自然乾燥させます。
- アイロンで仕上げます。
水洗い不可の着物は?
水洗いができない着物の輪ジミについては、専門店での「洗い張り(あらいはり)」等の対処が必要になります。一般的なクリーニングである「丸洗い(機械洗浄)」だけでは、輪ジミは落とすことができません。
洗い張りとは、一度着物をほどいて、職人が手作業で水洗いをすることを言います。一般的なクリーニング店では洗い張りには対応していないので、着物を専門に扱うお店に相談をしましょう。
染料の偏りは「染色補正」が必要
水濡れ等で染料が流れ出て着物の「輪ジミ」になっている場合、ご家庭では対処ができません。
また、一般的なクリーニング店でも着物の染料系のトラブルは応対してもらえず、お断りになる可能性が高いです。
着物の染料系のトラブルでは、染色補正士による「色掛け」や「柄直し」等、より専門的な対処が必要になります。色を部分的に染め直したり、柄を書き足したりすることで、着物をできるだけ良い状態へと戻していくのです。
染料が流れている場合には、「染色補正」「染め直し」等の相談ができるお店を選びましょう。
酸化ジミ・黄変ジミには「黄変抜き」
時間が経って黄色・茶色に浮き上がってきた黄変ジミの「輪ジミ」は、一般的なシミとは違って、繊維自体が変色してしまっている状態です。
黄変ジミを取るには、専門的な技術を持った職人による漂白作業や、場合によっては染色補正が必要となります。これを「黄変抜き」と言います。
「黄変抜き」は、一般的な着物のシミ抜きを扱うお店でも「やっていない」というところが多いです。「洋服クリーニングだが着物も扱うチェーン店舗」などではほぼ黄変抜きはできません。着物を専門に扱うお店で、なおかつ「黄変抜き」ができるかどうか、事前に確認しておきましょう。
原因不明・よくわからない時は悉皆屋へ
「着物の輪ジミの原因が特定できなかった」「どんなお店に着物の輪ジミ取りをお願いしたらいいのか、よくわからない……」
そんな時には、悉皆屋に相談することをおすすめします。
悉皆屋(しっかいや)とは、着物のお手入れ全般を扱う昔ながらの専門業者です。一般的なシミ抜きやクリーニングはもちろん、上でご紹介した「洗い張り」や「染色補正」「黄変抜き」等の専門技術によるお手入れも請け負っています。
おわりに
一口に「着物の輪ジミ」といっても、その原因にはいろいろなものがあります。着物の輪ジミをキレイに落とすには、原因をしっかりと把握して、その原因に合わせた対処をすることが大切です。
着物のお手入れ全般を扱う悉皆屋(しっかいや)であれば、着物の状態をチェックしたあとで、どのようなお手入れで着物を輪ジミをリカバリーできるか的確なご案内が可能です。大切なお着物を「輪ジミがあるから」と諦める前に、ぜひお気軽にご相談ください。