着物の羽織にシミができた時の対処法

着物の羽織(はおり)は、着物のおしゃれを粋に楽しむことができるアウターです。もともとは男性向けのものでしたが、徐々に洒脱な女性向けの着物用アウターとしても発達し、様々な長さ・色柄の羽織が登場しています。レトロな雰囲気になるコーディネートも多数あるため、、アンティーク着物の人気に乗って、羽織にチャレンジするという若い人も増えているようです。
さてこの羽織、シミができた時にはどうやって対処したら良いのでしょうか?

まずは羽織シミの原因を確認!
羽織のシミ抜きを始める前に、まずは汚れの原因を特定しましょう!汚れの内容によって、シミ抜きの対処法はかなり変わります。また家では羽織のシミ抜きをやっても落ちない、お店に早く持ち込んだ方が良い…ということもあるんです。
油性のシミ・汚れ
油性のシミは水分をほとんど含まず、油・または脂溶性の成分で構成されています。ベンジン等の溶剤を使って溶かして落とすことができます。
水性のシミ・汚れ
水性のシミはほとんどが水(水分)をベースとしています。汗やお酒のように、色が薄く、一見するとシミがわかりにくい汚れもあります。水性シミは水によく溶けますが、油性の溶剤等には溶けません。
混合性のシミ・汚れ
混合性のシミは、油分も含まれているけれど、水性の汚れ(水ベースの汚れ)も混じっているシミです。油性・水性の両方の特徴を持っています。
不溶性のシミ・汚れ
- ペンキの汚れ
- サビの汚れ
- 墨汁・炭の汚れ
- マスカラの汚れ
- ジェルインクボールペンのシミ 等
不溶性のシミ・汚れは、汚れの物質のもとが「金属(鉄等)」や「砂・岩」等の何にも溶けない成分で構成されています。水にも油(溶剤)にも溶けないので、家では羽織のシミ抜きができません。
羽織についたシミの原因が「不溶性」と思われる場合には、自分ではシミ抜き対処をせず、なるべく早く専門店に相談をしましょう。
水性・油性・混合性・原因別の羽織のシミ抜き方法
羽織の油性汚れをシミ抜き
羽織の油性汚れはベンジンでシミ抜きしていきます。
用意するもの
- ベンジン
- 柔らかい布またはガーゼ(汚れても良いもの)
- タオル(汚れても良いもの)
- 着物/羽織用のハンガー(物干しでも代用可。洋服用ハンガーは型崩れしやすいです)
作業前の準備
※窓を開けて換気します。ベンジンは揮発性が高く、吸い込むと刺激の強い危険な物質です。常に換気してください。
※ベンジンは引火性なので、ライターやストーブ、コンロ等の火器類の使用は全て中止します。
※羽織の素材・染料によっては、ベンジンで色落ち・変色が起きることがあります。目立たない箇所や共布を使っての変色テストをおすすめします。
※シミの状態によってはご家庭で羽織のシミ抜きができないことがあります。最後の項目までチェックしてから作業を始めましょう。
シミ抜き手順
- 下にタオルを敷き、羽織のシミがある箇所を広げます。
- 柔らかい布がビッショリと濡れるくらいに、ベンジンを染み込ませます。
- ベンジンで濡らした布で、羽織のシミがある部分を軽く叩いていきます。
- 汚れが少しずつ布や下のタオルに移ります。少しずつ布・タオルを動かし、常にキレイな面が当たるように作業します。
- 汚れが取れたら、再度ベンジンで布を濡らします。
- ベンジンで濡れている箇所の境目がハッキリしなくなるように、ぼかしていきます。衿等の場合には衿全体(縫い目の部分まで)を濡らすと輪ジミになりにくいです。
- 羽織を専用ハンガーにかけて乾かします。
※「ぼかし」が不十分だと輪ジミになります。注意してください。
※ベンジンで濡らした布で羽織を強く擦ったり叩くのはNG。羽織の表面が白っぽく毛羽立つ「スレ」という現象が起こると、羽織を元に戻せなくなります。
※水洗い可能な羽織の場合、作業後すぐに中性洗剤で部分洗い→全体洗いした方が、さらに輪ジミを防ぐことができます。
羽織の水性汚れをシミ抜き
羽織の水性汚れを落とすには、ご家庭の場合、素材への負担が優しい中性洗剤を使って水洗いを行います。
事前に確認しましょう
※家で水洗いができる素材かどうか、洗濯表示等を必ず事前に確認してください。正絹(シルク)やウールの羽織はご家庭では水洗いができません。また染料によっては、麻の羽織も激しく色落ちすることがあります。
※シミの状態によっては家ではシミが落ちないことがあります。このページの最後の項目まで必ず確認しましょう。
用意するもの
- 中性タイプの液体洗濯洗剤(エマール、アクロン等)
- 洗面器等の容器
- 洗濯用ネット(畳んだ羽織が平らに入るサイズ)
- バスタオル2枚
- 着物用ハンガー(物干しでも代用可)
- アイロン、アイロン台、霧吹き、あて布
※水を使ったシミ抜き・仕上げ洗いでは羽織が型くずれすることがあります。安全ピン等で仮止めをするか、カンタンに縫い止めておくことをおすすめします。
※羽織紐は事前に外しておきます。
シミ抜きの手順
- シミがある部分に30℃~35℃前後のぬるま湯をかけて濡らします。
- 洗面器にぬるま湯を少し入れて、中性洗剤を垂らし、よく溶かして薄めます。
- 薄めた洗剤液をシミ部分につけて、優しくなじませます。ゴシゴシこすらないようにしましょう。
- よくすすぎ、シミの状態を確認します。汚れに応じて2~3回繰り返します。
- シミが取れたら、羽織を畳んで洗濯ネットに入れます。
- 全体を仕上げ洗いします。バスタブまたは洗面ボウル等にぬるま湯を入れて、中性洗剤を適量入れます。
- 洗濯ネットごと、羽織を洗剤液に沈めます。両手で優しく押し洗いしましょう。
- ぬるま湯を取り替え、2~3回すすぎます。
- ネットのまま羽織を洗濯機に入れて、脱水機能で30秒くらい脱水します。シワになりやすい羽織、型崩れが不安な羽織の場合は省略して構いません。
- バスタオル2枚で羽織を挟み、軽く叩いて水分を吸い取ります。
- ハンガーか物干しに羽織をかけ、直射日光を避けて自然乾燥させます。
- シミの状態をよく確認してから、アイロンがけで仕上げます。(製品によってはアイロン不要のものもあります)
※汚れの原因がタンパク質系(卵液、血液、牛乳等)の場合は、洗濯にぬるま湯を使わず冷たい水にします。お湯を使うとタンパク質が固まり、取れない汚れになります。
※シミ抜きしても汚れが取り切れない場合は、その部分にアイロンをあてないようにしましょう。高熱をあてると汚れが定着してしまいます。
羽織の混合性汚れをシミ抜き
羽織についた汚れが混合性のシミの場合には、まず「油性のシミ抜き」を行ってから、「水性のシミ抜き」をすぐに行いましょう。
注意
油性用のシミ抜き(ベンジンでのシミ抜き)だけで混合性汚れのシミ抜きを終わらせないでください。水性の汚れ成分は一見すると目立たないのですが、後から成分が酸化し、クリーニング店でも落ちない「変色シミ(黄変)」になる可能性が高いです。
家で落ちない羽織のシミもある?
羽織のシミ・汚れが次のような場合には、残念ながら自分でのシミ抜きでは落とすことができません。
時間が経ったシミ・汚れ
汚れが付いて数日~一週間以上が経過し、定着してしまった汚れはご家庭では対処できません。強い洗剤等を使うと素材が傷んでしまう可能性が高いです。
広い範囲のシミ
目安としては直径3センチ~5センチ以上。また汚れが縫い目をまたいでいる場合、糸に汚れが染み込んでいるのでプロに任せた方が良いです。
古いシミや黄ばみ
汗等の汚れ成分が酸化して生まれた「変色シミ・黄変(おうへん)」は、ご家庭では取れません。着物に強い専門業者に相談しましょう。
雨シミ・水シミ
正絹(シルク)が水滴等で部分的に濡れて、その部分が縮んだことで「シミ」のように見えている状態です。これもご家庭では直せません。悉皆屋(しっかいや:着物のお手入れ全般を扱う専門業者)に早めに依頼しましょう。
おわりに
着物の羽織には、ご自宅でも洗える化学繊維素材もありますが、水濡れにとても弱い正絹のものもあります。そのため一口に「羽織のシミは自分でシミ抜きできる?」と質問されると、「シミの原因と素材で違います…」ということになってしまうんですね。話が長くなり申し訳ないのですが、ここだけは仕方の無いところと思ってお許しください。
「素材がよくわからないなあ」「お気に入りの羽織を自分でシミ抜きして失敗したら困る」と感じたら、お早めに専門店に相談をしましょう。当店『きもの創夢』でも、羽織のシミ抜きや全体的なクリーニング等をお受けしています。羽織のお手入れでわからないことがありましたら、お気軽にご相談くださいね。