着物に醤油をこぼしたら?応急処置&シミ抜き方法を解説
着物を来た日のお出かけでは、お刺身やお寿司など、日本らしい祝いの食事をいただく人も多いのではないでしょうか。そんな時に起こりやすいトラブルが「着物に醤油のシミを作ってしまった」というものです。
着物についた醤油のシミは、着物の種類でその応急処置や対処法の内容が大きく違います。着物によっては比較的カンタンに醤油のシミを落とせるのですが、ものによってはクリーニング店でも難しいシミとなってしまうこともあるのです。
着物に醤油のシミが付いた時の応急処置
着物に醤油をこぼしてしまった時の応急処置方法は、着物の素材等によって変わってきます。
水洗いできる着物の場合
- ポリエステル着物
- ウォッシャブルウール着物
- 一部の木綿きもの など
- ティッシュペーパーや紙ナフキンを使って布の両面から優しく抑え、醤油の水分を吸い取ります。
- タオルを水で濡らしてから固く絞り、シミの部分を軽く叩くようにして汚れを取り除きます。
- 別の乾いたタオルやハンカチで優しく叩き、水分を取っておきます。
※飲食店の「おしぼり」や「ウェットティッシュ」はNG。使われている香料やアルコールで、着物の生地や染料が傷むことがあります。
※応急処置をしたあとは、できるだけ早く(理想は当日中)に下で解説する「シミ抜き」の処理を行います。(応急処置だけで済ませると、あとからシミが浮き上がってくる可能性があります)
水洗いができない着物の場合
- 正絹(シルク)の着物
- 天然染色製品の着物 など
- ティッシュペーパーや紙ナフキンを使って布の両面から優しく抑え、醤油の水分を吸い取ります。
- 外出中はその部分に触れないようにしておきます。
※水洗い不可の着物に水分を与えると、醤油の汚れが広がったり、濡らした部分が縮んでしまうことがあります。水分を与えないようにしましょう。
※強くシミ部分を抑えたり、こすったりするのはNGです。汚れが繊維の奥に押し込まれてしまいます。
着物についた醤油のシミ抜き方法
醤油の汚れは水に溶けやすい水溶性の汚れです。そのため、しょうゆのシミを自分で落とすには、「水洗い」のプロセスが必要になります。シミ抜きを行う前に、着物の洗濯表示等をよく確認しましょう。
※ポリエステル着物や木綿きものでも、特殊加工がある着物や天然染料を用いた着物ではご家庭での水洗いができません。必ず洗濯表示をご確認ください。
用意するもの
- 中性タイプの洗濯洗剤:液体タイプ、エマールやアクロン等。
- 洗濯用ネット:畳んだままで着物が入る大きさのもの。
- 着物ハンガー:襟~袖が一直線になっているタイプです。物干し竿でも代用できます。洋服用ハンガーは型崩れの原因になるのでNGです。
- アイロン:スチーム・ドライが選べるもの
シミ抜きの手順
- ぬるま湯を洗面ボウル等にためて、洗濯用洗剤を適量溶かしておきます。使用量は製品パッケージ裏の説明書を参照しましょう。場所が無い場合には浴槽を使ってもOKです。
- 着物はシミがある部分を表にして畳んでおきます。
- 着物全体をぬるま湯に漬けます。
- 醤油のシミがある部分に、洗剤原液を少量つけます。指で優しく撫でるようにして洗います。
- 醤油のシミが目立たなくなったら、両手で着物全体を押し洗いします。
- 水を取り替えて、2回すすぎます。
- 着物を洗濯用のネットに入れて、洗濯機で40秒程度脱水します。
- 着物ハンガーにかけて、形を整えて干します。直射日光が当たらない場所を選んで干しましょう。室内干しの場合は、扇風機等で風をあてると早く乾きます。
- アイロンで仕上げをします。
※汚れが取れない時に強くこすったり、何度も洗い直すのはやめましょう。色ハゲ・毛羽立ち等の原因になります。
落ちない醤油のシミもある?
醤油のシミの状態によっては、着物のシミ抜きをしても汚れがうまく落とせない場合があります。
シミが付いてから時間が経っている
醤油のシミは乾くと繊維に定着し、落ちにくいシミになります。この場合は、ご自宅でのシミ抜きをするのは難しいです。
シミの範囲が広い
シミの範囲が直径5センチを越えるような大きなシミについては、家庭ではシミ抜きができません。
以前にシミ抜きに失敗している
以前のシミ抜きで汚れが落ちきらず、洗濯や自然乾燥・アイロン等を繰り返していると、汚れが繊維に定着して固まってしまっています。この場合もご家庭では汚れを落とせません。
油性の汚れが混ざっている
肉汁やドレッシング等の油性の汚れが醤油に多く混じっている場合、上の方法だけでは油性汚れが分解できず、油ジミが残ってしまいます。
、
思いあたる点がある場合には、下の項目等も参考にしながら、早めに専門店に相談をしましょう。
着物の醤油シミに漂白剤や酢はNG!
Tシャツ等の普段着の洋服の場合だと、醤油シミが付いた時には次のようなものでシミ抜きをする人も多いのではないでしょうか。
- 酸素系漂白剤
- 酵素入り洗剤
- 酢
- クエン酸 等
しかし着物の場合には、残念ながら上のような洗浄力の強い洗剤や漂白剤、酸性の液剤等は使うことができません。
着物の中には、「洗える着物」であっても、強い成分に耐えられない素材や染料のものがたくさんあります。
漂白剤で布地が変質したり、酢やクエン酸等で着物が変色してしまうと、専門店でも着物を元に戻すことができません。とてもリスクの高いお手入れ方法なのです。
上でご紹介したシミ抜き方法で醤油のシミが取れなかった場合には、無理にご自宅でお手入れを続けずに、早めに専門店に相談をしましょう。
着物の醤油シミはクリーニングで落ちる?
- 自分でシミ抜きをしたが汚れが取れない
- 古いシミなので家では落とせなそう
- 正絹の着物等、家では洗えない着物に醤油のシミが付いた
- 自分で着物のお手入れをするのは不安
上のような場合には、着物のクリーニングを行う専門店で醤油のシミを取ってもらいます。なお、醤油のシミはどのようなクリーニングでも落ちるわけではありません。
お店によってできるサービスも違うので、クリーニング店は慎重に選ぶことが大切です。
「丸洗い」では醤油シミは落ちない
一般的な着物のお手入れである「着物丸洗い」とは、機械を使ったドライクリーニングのことです。この「丸洗い」は石油溶剤を使った油溶性汚れ向けのクリーニング方法なので、水性汚れである醤油のシミは落とすことができません。
「丸洗い」しかできない店舗
スタッフが着物に詳しくない店舗
上のようなお店は避けた方が良いでしょう。「着物の受付もする洋服のクリーニング店」等だと、スタッフさんが着物の汚れに詳しくなく、適切なメニューを案内できないことも多いです。
「シミ抜き」や「洗い張り」ができる店を選ぶ
着物についた醤油のシミを取るには、専門の技術者による次のような対策が必要になります。
- シミ抜き:職人さんが手作業で行うシミ除去の作業です。シミが新しかったり、比較的小さいシミの場合等に行われます。
- 洗い張り:着物をほどいて、反物の状態に戻し、水洗いをする伝統的な洗浄方法です。シミの範囲が広かったり、シミが縫い目をまたいでいる場合や、シミが古い場合等にはこの方法が必要とされることもあります。
シミの状態や着物の種類によっても適切なクリーニングのメニューは変わってきます。悉皆屋(しっかいや:着物のお手入れ全般を扱える専門業者)や、職人が在籍する着物専門クリーニング店等、着物に強い店に相談をしましょう。
おわりに
着物についた醤油のシミは時間が経つとどんどん「取れないシミ」になってしまいます。ガンコなシミになるほど、クリーニングの料金も上がってしまいがちです。
「シーズンの終わりに」等と先送りをしていると、大切な着物をダメにしてしまうこともあります。自分で処理する場合も、お店に持ち込む場合も、できるだけ早く対処をしましょう。