着物にビールやお酒のシミが…正しい応急処置と対処法は?
披露宴や成人式、卒業式、パーティー等、着物を着るシーンはお祝いの席が多いですね。そのため「着物にビールのシミが付いた」「着物にお酒がかかって汚してしまった」といったお酒による着物のトラブルはとても起こりやすいものです。
お酒を自分で飲む方はもちろん「自分は飲まない」という人も、着物にビールやお酒のシミが付いてしまった時の応急処置や対処法を知っておきましょう。
着物にビールやお酒のシミが付いた時の応急処置
着物にビールやお酒のシミが付いた時の応急処置の方法は、着物の素材によって変わります。自分の着物の素材に合わせた応急処置法を取りましょう。「着物の素材が今はわからない……」というときは、「水洗いができない方」の応急処置をします。
水洗いができる着物の場合
- ポリエステル着物
- ウォッシャブルウールの着物 等
ご家庭での水洗いに対応している着物は、水を含んでも縮みにくく、また色落ち・変色等を起こしにくいです。
そのため応急処置の際に、水分を含ませることができます。
- ハンカチ等でシミの部分を抑えて、シミの水分を十分に取ります。
- 別のハンカチかタオルを水で濡らしてから固く絞り、トントンと軽く叩いて汚れを取り除きます。(ゴシゴシこすらないようにしましょう。)
- 最後に乾いたきれいなハンカチで軽く叩いて、水分を取り除きます。
※飲食店の「おしぼり」は応急処置に使わないでください。香料や洗浄成分が着物を傷めることがあります。
※応急処置後の帰宅後には、必ず「しみ抜き」の処置をしましょう。「シミの色が目立たないから」とそのまま放置すると、後から変色シミやカビ等のトラブルが起きる原因になります。
水洗い不可・色落ちしやすい着物の場合
- 正絹(シルク)の着物
- 振袖・留袖・訪問着等のフォーマル着物
- 天然染色の着物
- 伝統工芸品の着物 等
正絹(シルク)等の着物は水を含めば含むほど縮みやすく、その部分が輪染みになりやすいです。
「その場でシミを取ろう!」とムリに水分を与えると、かえって酷い輪染みになってしまうことがあります。優しく水分を取るだけの応急処置にするのが正解です。
- ハンカチまたはタオルで、水分を優しく吸い取ります。
- 裾や袖等で裏からタオルを当てられる場合には、裏・表の両方からタオル・ハンカチをあてて、トントンと叩くようにして水分を取っておきます。
着物のビールやお酒のシミの落とし方は?
着物についたビールやお酒のシミは、帰宅後に自分でしみ抜きすることができるのでしょうか?これも、着物の素材によって「OK」か「NG」かが違います。
水洗いOKの着物の場合
- ポリエステル着物
- ウォッシャブルウール着物 等
水洗いができる着物の場合には、お酒のシミがついても「中性洗剤」を使ったしみ抜きが可能です。ただし、早めにしみ抜きをすることが大切!できればシミを付けた当日中、遅くても翌日にはスピーディにしみ抜きを行います。
用意するもの
- 中性洗剤(おしゃれ着洗用のもの)
- 洗濯用ネット(たたんだ着物が入るサイズ)
- 柔軟剤
- 洗面器、浴槽、洗面所ボウル等
- アイロン(スチームアイロンはNG)
- 着物専用ハンガーまたは物干し竿
※染料によっては色落ち・変色が起きる可能性はあります。不安な場合には事前に目立たない箇所でテストを行っておきましょう。
※刺繍・金箔等の箔押し・ビーズ・レース等、特殊加工のある部分のしみ抜きや水洗いはできません。
しみ抜きの方法
- 洗面器・洗面所のボウル等に水を入れて、中性タイプの洗濯用洗剤を適量入れます。
- 着物をシミがある部分を表に出して畳み、全体的に水にひたします。
- 上から軽く押して、優しく押し洗いをします。
- シミがある部分には、少量の洗剤原液をつけて、ごく優しくつまみ洗をします。ゴシゴシこすらないようにしましょう。
- 水を取り替えて、2回すすぎます。
- 洗面器にもう一度水を入れて、柔軟剤を適量入れます。
- 柔軟剤が入った水に着物を全体的に浸します。
- 着物を畳んだ状態でネットに入れて、洗濯機で40秒程度脱水します。
- 着物を専用ハンガーまたは物干し竿にかけて、陰干しで自然乾燥させます。
- アイロンで仕上げます。
※数日経って乾いてしまったお酒のシミや、後から発見したビール・お酒のシミは、「洗える着物」でもご自宅で落とすことは難しいです。早めに専門店に相談しましょう。
水洗い不可の着物の場合
- 正絹(シルク)の着物
- 振袖・留袖・訪問着等のフォーマル着物
- 天然染色の着物
- 伝統工芸品の着物 等
着物やビールのシミは、水で溶ける「水溶性」のシミです。そのため、自分で行う着物のしみ抜きでは「水洗い」が絶対に必要になります。(ベンジン等の溶剤では、着物のビールやお酒のシミは取ることができません)
正絹等の着物は水を含むと縮んでしまうという性質を持っています。そのため、残念ながら「お酒・ビールのシミ」が正絹の着物や天然染料の着物に付いた場合は、ご自宅ではしみ抜き等の対処ができません。
できるだけ早く、着物のしみ抜きができる専門店に持ち込むことが大切です。
ビール・お酒のシミをしみ抜きするお店の選び方
ビールやお酒のシミが付いた着物をクリーニングに出す場合、お店はどのように選べばよいのでしょうか。
「きもの丸洗い」ではお酒のシミは落ちません
一般的な着物のクリーニング方法である「きもの丸洗い」とは、洋服で言うところ「ドライクリーニング」と同じで、石油系の溶剤を使い、専用の機械で着物を全体的に洗う方法です。
ドライクリーニングで落とせるのは、皮脂汚れ等の軽い油溶性の汚れ。「お酒・ビールのシミ」といった、水溶性の汚れは落とすことができません。
- 着物を専門に扱うクリーニング店・お手入れの専門店であること
- 機械洗い(丸洗い)だけでなく手作業に対応していること
- 「着物のしみ抜きができる」とホームページ等でキチンと書いてあること
お酒・ビールのシミが付いた着物をしみ抜きしてもらう時には、上のような条件を満たしたお店を選びましょう。
「洗い張り」ができるか確認しよう
ビールやお酒のシミの範囲が広く、グッショリと濡れるほどにお酒で着物を汚してしまった……このような場合には「洗い張り(あらいはり)」ができるお店を選んだ方が安心です。
「洗い張り」とは、着物を一度ほどいて反物の状態に戻し、それから水洗いをする洗浄の方法のこと。着物の汚れの程度がひどい場合には、しみ抜きだけでは汚れが落とせず、この「洗い張り」が必要になることもあります。
「洗い張り」は専門の職人さんが行う、とても難しい技術です。どこのお店でもできるというものではないので「悉皆屋(しっかいや:着物のお手入れ全般を扱う専門店)」または着物の購入店舗に相談をしてみましょう。
おわりに
着物についたビールやお酒のシミは、一度乾くと少し目立たなくなるため「クリーニングをしなくていいかな」と思ってしまう人も多いです。
ところがビールやお酒のシミは後になってから「この部分だけなんとなく色がおかしい」という形で目立ってきます。さらにお酒は栄養価も高いので、カビ菌が繁殖しやすく、カビによるシミやカビ臭さの原因にもなってしまうのです。
シミは付いてから時間が経てば経つほど、専門店でもしみ抜きが難しくなっていきます。「お酒のシミが付いた!」と思ったら、早めに対処をすることが大切ですよ。