着物にシャンパンをこぼしたら?応急処置等のよくある疑問
シャンパンやスパークリングワインは、開栓の「ポン!」という音がお祝いに向いており、見た目にも華やかであることから、パーティー等で飲まれることが多い飲み物のひとつです。そのため、「着物にシャンパンを零してしまった」「着物にスパークリングワインのシミをつけてしまった」というトラブルも頻繁に見られます。
着物にシャンパンの汚れをつけてしまったら、どのような応急処置や対処をするのが良いのでしょうか。
1.シャンパンをこぼした時の応急処置の正解は?
着物にシャンパンをこぼした時には、乾いたタオル・ハンカチ・布ナフキンまたは薄い色の手ぬぐいで水分を吸い取るだけにしましょう。次のような応急処置はしない方が良いです。
水で濡らす
おしぼりで拭く
ウェットティッシュで拭く
強くこする
シャンパンが出るお祝いの席に着る着物というと、ほとんどの方が正絹(シルク)の着物や先染め織物等、水洗いができない着物をお召しになっていることでしょう。
シルク等の着物は水濡れに弱く、水分を与えれば与えるほど縮んだり、輪染みになりやすい傾向があります。応急処置では水分を取るだけにした方が安心です。
特に「おしぼり」や「ウェットティッシュ」等、消毒用のアルコールや消臭成分・香料等を含んだ布や紙で着物を拭くのは絶対にやめましょう。成分が着物の染料を変色させるなど、シミの症状を悪化させてしまうことがよくあります。
また「早く乾かそう」と、ゴシゴシこすったり、何度も繰り返し応急処置をするのもおすすめしません。摩擦の影響で毛羽立ちや色ハゲ等が起きると、最悪の場合には専門店でも着物を元に戻せないことがあります。
2.シャンパン汚れは自分でシミ抜きできますか?
「ご家庭で水洗いができない着物」の場合には、シャンパンの汚れを自分でシミ抜きすることはできません。
シャンパンの汚れは、果汁やアルコール・糖分等を主成分とした、水に溶けやすい水溶性の汚れです。そのため、シミ抜きやクリーニングでは「水」を使うことが必要になります。
しかし一般のご家庭で「水洗いができない着物」に水を使ったシミ抜きや水洗いをすると、着物が縮んだり、別の輪染み(水シミ)ができてしまうのです。「水洗いができない着物」にシャンパンをこぼした場合には、すぐに専門店にシミ抜きの相談をしましょう。
水洗い可能な着物の場合は?
ポリエステルやウォッシャブル対応のウール着物の場合、シャンパン汚れが付いてから時間が経っていなければ、中性洗剤を使ってシミ抜きをすることができます。
3.シャンパンのシミは着物丸洗いに出せば落ちる?
着物に付いたシャンパンのシミは、「丸洗い(きもの丸洗い)」では落ちません。
「着物の丸洗い」とは、洋服で言うところのドライクリーニングのことで、石油系の溶剤を使っています。皮脂汚れ等の軽い油溶性汚れを落とすことはできますが、汗汚れやシャンパン等の水性の汚れを落とすのは不得意です。
水性汚れを落とすための「シミ抜き」または「洗い張り」等ができる専門店を選びましょう。
5.シャンパン汚れ、目立たなくてもクリーニングは必要?
着物にシャンパンをこぼした場合、シミの色が目立たなくても、シミ抜き等のお手入れは必ず行いましょう。
シャンパンの汚れに含まれるのは、次のような成分です。
- アルコール
- 果汁
- 糖分 等
これらの成分は、時間が経って乾くと少しずつ繊維に定着して「剥がれない汚れ」になります。さらに時間が経つと汚れが酸化して、着物の「変色シミ」を作ってしまうのです。
また糖分等が多いシャンパンのシミは、カビ菌が生える原因にもなります。
時間が経過してからの変色ジミやカビの発生といったトラブルになると、着物を元に戻すための専門店での対処も大掛かりになっていきます。最悪の場合には、「もうシミが取れない」ということにもなりかねません。
できるだけ早く専門店に相談をすることをおすすめします。
6.よくシャンパンを飲むのでシミの予防をしたい
お祝いやパーティーで着ることが多い着物には「ガード加工」をすることをおすすめします。ガード加工では、繊維にフッ素成分をコートさせて「撥水(はっすい)加工」を行います。撥水処理をすることで水はコロコロと水滴状になって弾かれるため、水分の多い汚れがつきにくくなるのです。
ガード加工では表面を完全に塞ぐのではなく、繊維の一本一本に撥水成分を浸透させます。絹等の布地そのものが持つ風合いや通気性が損なわれることはありません。お仕事等で着物をよく着る人には、とても助かる加工と言えます。ガード加工は悉皆屋等の着物のお手入れ専門店でできるので、相談してみてはいかがでしょうか?
完全防水ではないので注意
撥水加工は「完全防水」ではないので、大量の水分を弾けるわけではありません。シャンパンの場合、軽いハネ程度であれば防汚加工で対処ができますが、ボトルからドボドボと零したといったシミにはガード加工でも対処が難しいです。その点はご了承ください。
4.クリーニング屋でシャンパンで汚した着物を断られた
一般的な洋服クリーニング店や、激安系の着物クリーニング店だと、シャンパンで汚した着物は「受付不可」となるケースは珍しくありません。これは「水性の汚れが付いた着物」に対処ができないためです。
上の「項目3.」の質問でも触れましたが、着物に付いたシャンパンのシミは「水溶性の汚れ」なので、着物丸洗い(機械洗い)だけでは汚れを落とすことができません。ところが、チェーン系のクリーニング店や激安系のお店だと、着物のクリーニングが「丸洗いしかできない」ということがあるのです。
シャンパンで汚れた着物を元に戻すには、次のような専門的なケアが必要になります。
シャンパンで汚れた着物の対処例
- 職人の手作業によるシミ抜き
- 洗い張り(シミが広範囲で重症の場合等)
- 染色補正(変色ジミになっている場合等)
「近所のクリーニング店でお手入れを断られた」といった場合には、上のような様々な対処ができる専門店(悉皆屋、着物のクリーニング専門の店、購入店舗等)に一度相談することをおすすめします。
状態によっては専門店でも対処NG?
次のような場合には、専門店でも着物の受け入れができない場合もあります。
- 古い変色シミで着物が脆くなっている
- 刺繍や箔押し等の特殊加工が変色している
- 応急処置の失敗で激しい毛羽立ちや色ハゲが起こっている 等
特に応急処置でゴシゴシ擦った結果、生地自体がダメになってしまっているといった場合、専門店でもリカバリーができないケースが見られます。「自分でなんとかしよう」とムリをせず、早めにプロにおまかせしましょう。
おわりに
着物に付いたシャンパンのシミは、ワイン等に比べると色素が薄いため、「乾いたら目立たなくなったから」と専門店でのお手入れを後回しにしてしまう人が少なくありません。
しかし色が薄くても、シャンパンのシミの成分はワインと同じです。放っておけばどんどんガンコで取りにくいシミになっていきます!大切な着物を守るためにも、早めに対処をしましょう。