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シミの対処方法

着物のシミ隠しの味方!染色補正をプロが解説

着物のシミ隠し 銀・金箔

着物に取れないシミが付いてしまった…こんな時、大切な着物を着るのを諦めてしまうのは悲しいですよね。着物についたシミがどうしても取れない時は、プロによる「着物のシミ隠し」を試してみませんか?着物のクリーニングや加工をする専門のお店なら、着物に柄や色を足して、シミを上手に隠すことができるのです。

坂根克之
坂根克之
こんにちは。着物関係一筋50年 きものサロン創夢(そうむ) 坂根克之です。ここでは着物のシミ隠し「染色補正」について、着物のプロが詳しくレクチャーしていきます。着物の取れないシミやアラをなんとかしたい!という時、ぜひ参考にしてみてくださいね。

プロも取れない着物のシミを隠す「染色補正」

着物のシミ抜きの方法については、当ブログでも色々ご紹介をしていますよね。しかし、シミの種類によってはご自宅ではシミが取れない…ということも勿論あります。

さらに言いますと、専門家でもすべての着物のシミをカンタンに復旧できるわけではありません。特殊な着物のシミやについては、専門家でも「シミを取るだけで回復させる」ということが難しいケースが多いです。

そんな時の「取れないシミのシミ隠し・アラ隠し」として頼りになるのが、染色補正という手段なのです。まずはどんな時にシミ抜きだけでは対処ができないのかを見ていきましょう。

着物の生地が弱くなっている

振袖や留袖、訪問着等の着物の多くは「正絹(しょうけん)」という絹100%の生地で作られています。絹はとても品質が高い繊維ですが、それでも数十年の時間が経てば少しずつ脆く、弱くなっていきます。いわゆる経年劣化です。

数十年前の着物にシミがある–このような場合、着物の生地が漂白作業等に耐えられないケースが多いです。無理に汚れを取ろうとすると、その部分に穴が空いてしまいかねないわけですね。このようなトラブルに対処するために、着物のシミ隠しとして染色補正を行うことが多いです。

着物のシミが古くて変色している

着物に付いた汚れは、古くなっていくほど元々の着物の染料を破壊して、地色を変えていきます。多く見られるのがファンデーションの汚れによる変色です。黒や紺色の地色の着物が変色して一部が薄いピンクっぽくなったり、薄い黄色っぽく色抜けしたりします。

このような変色が起きている場合には、シミ抜きだけでは問題が解説しません。染色補正(一部分または全体の染め直し)で変色部をカバーしていきます。

黄変が起きている

黄変(おうへん)とは、汗などの成分が少しずつ酸素と結びつくことで起きる酸化ジミです。最初は「黄ばみ」として始まり、少しずつ薄い茶色へ、さらに濃い茶色へと色が深まっていきます。汗ジミは付いた時には色がなく目立たないため、そのまま保管をして、数年経ってタンスから出したら黄変していたといったケースが多いです。

この黄変に対処するには、まず漂白をしなくてはなりません。部分的に強い漂白を行うため、元々の染料が抜けてしまいます。そこで染色補正で部分的または全体的な染め直しをして、漂白した部分を目立たないように対処していきます。

また黄変が非常に古いものの場合だと、漂白を何度も繰り返さなくてはならないため、生地が漂白に耐えられない可能性が高くなっていきます。このような場合にも、無理に漂白で対処するのではなく、シミ隠しをした方が良いです。

あくまでも目安ではありますが、黄変が茶色・焦茶色になってしまっているといった場合は、シミ隠し(染色補正)での対処がメインとなると考えた方が良いでしょう。

着物の加工部分が変色している

着物の柄を描くために使われる染料や加工材料の中には、時間が経つことで少しずつ変色したり、色が悪くなってしまうものもあります。このような経年劣化による色変わりも、見た目に「シミ」のように見えてしまうことも。このような場合も部分的な染色補正(加工の修復)などを行えば、着物が息を吹き返すことも多いです。

着物のシミの範囲がとても広い

着物のしみ抜きの料金は、基本的にシミの大きさで決まります。そのため例えば「着物の背中全体にシミが広がっている」といった広範囲のシミや、着物全体にシミが散らばっているといった場合、シミ抜き料金が非常に高額になってしまう可能性もあるわけです。

このような場合、無理に完全なシミ抜きを行うのではなく、シミ隠しとして染色補正を加えた方がリーズナブルに着物をキレイにできることもあります。

シミではなく日焼け等で褪色している

「なんだか着物の色がおかしい」とお店にお持ち込みいただいた着物が、日焼けなどで褪色しているというケースも多いです。着物の染料は紫外線(直射日光)などで少しずつ破壊されてしまい、少しずつ色あせを起こしていきます。

また長期保管中の防虫剤等による酸化窒素ガス、亜硫酸ガス等が原因で「ガスやけ」をしていることも。このような変色や褪色をカバーするにも、シミ隠しである染色補正が役立ちます。

染色補正で着物のシミ隠し!

着物 柄足し 花びら
着物のシミ隠しができる染色補正(せんしょくほせい)には、様々な方法があります。全体を染めるだけでなく、部分的に染めてリーズナブルにシミ隠しをすることもできるんですよ。着物のシミ隠し方法の一部をご紹介します。

柄足し

柄足し(がらたし)による着物のシミ隠しとは、現在の着物の柄に近い模様を描き足していき、着物のシミをカバーする方法です。「柄(がら)」を「足す(プラスする)」から『柄足し』というわけですね。

着物の柄の部分にシミが付いたり、柄に近い部分にシミがある時などに使用します。シミやアラの状態などによって、描き足す柄の大きさなどを調整できるのが魅力です。

色掛け

色掛け(いろかけ)による着物のシミ隠しとは、着物の地色の部分全体に現在よりも濃いめの染色をほどこす方法です。今までより強い「色」を「かける」から『色掛け』、こちらもシンプルなネーミングですね。

地色が薄いと黄ばみや変色などが目立ちやすいですが、濃い色に染め替えれば見た目にわかることはありません。着物が広範囲で色あせ・色やけ等のトラブルを抱えてしまった時でも、色掛けであれば対処ができます。着物の印象を大胆に変えられる方法でもあります。

胡粉加工

胡粉(ごふん)は、貝殻から作った白い顔料のことです。顔料(がんりょう)とは、ここでは着物の柄を描くためにプロが使う絵の具のようなもの…と覚えておくと良いでしょう。

着物の柄の白い部分は、時間が経つと黄ばんでしまったり、色がくすんでしまいやすいものです。アンティーク着物等だと「それも味」とする人もいますが、礼装用着物等の柄が黄ばんでいるのは困りますね。

胡粉加工で胡粉を上から塗り直せば、真新しい白さが甦ります。もちろん、白い柄部分にできたシミにも使えるシミ隠しのワザでもあります。

小紋加工

小紋加工(こもん・かこう)は、着物全体に細かな小紋を散らすことで、着物のに起きた広範囲の変色やシミを隠す方法です。色掛けほどの大胆な色変更ではありませんが、地色がワントーン程度落ち着いた雰囲気になります。

色掛けをして大きくイメージチェンジをするのはちょっと…といった時に、小紋加工で対処ができることもあります。

金加工・銀加工(金彩加工)

着物にキラキラと輝く模様があったら、それは金加工(金彩)かもしれません。金彩とは、金銀や金箔などを使って着物の模様を描く方法です。時間が経つと色が鈍ってしまいやすいのですが、これも染色補正で修復することができます。

またシミがある付近に金彩・銀彩などがある場合、金加工を増やして華やかにして、シミを目立たなくすることもできます。

着物シミ隠しはどこでできる?

さて魅力的な着物シミ隠しの方法である「染色補正」ですが、どのようなお店で依頼ができるのでしょうか。

一般のクリーニング店 ×

洋服を扱う一般的なクリーニング店の場合、着物のシミ隠しはほぼできないと考えた方が良いです。そもそも古い着物のシミに対する知識が無い…というお店も多いので、パッと見て「これは無理ですね」と断られておしまいだった、という声もよく聞きます。

着物のシミを相談するなら、着物を専門に取り扱うお店の方が絶対に安心です。

呉服屋さん △

着物のシミ隠しについて、着物を購入した呉服屋さんに相談する人も居ます。これも間違いではないです。大きな呉服屋さんなら、着物のシミ抜きやシミ隠しの業者ときちんと繋がりがあります。

ただ問題なのは、呉服屋さんが間に入るので、その分だけ手数料(つまりマージンですね)が発生する可能性も高い、という点です。また直接的に業者とやりとりするわけでないので、染色補正が終わり、お手元に着物が届くまで時間がかかることもあります。

着物クリーニング店 △

着物専門のクリーニング店については、対応がまちまちです。もちろん専門の染色補正師が在籍していて、キチンと対処ができるお店もあります。しかし最近では「着物専門のクリーニング」と言いながら、実質は着物を洗濯機で大量に回しているだけ…といった粗悪なお店も増えているのが実情です。

着物クリーニング店にシミ隠しを依頼するのであれば、まずはそのお店が信頼できる店舗なのかよく確認することをおすすめします。できればネット対応だけでなく、実店舗があるお店を選ぶこと。また補修の実績がどれくらいあるのか等も確認しておきたいところです。

悉皆屋(しっかいや)○

悉皆屋(しっかいや)とは、着物のクリーニングやシミ抜き、サイズ直しなどの加工、染色補正など、着物のお直しに関することを一手に扱う専門業者のことを言います。

呉服屋さんに着物をシミ隠しを依頼した場合も、実は呉服屋さんが作業をお願いしているのはこの「悉皆屋さん」なのです。悉皆屋であれば、シミ抜き対処ができない場合のシミ隠しについても、様々な方法を提案してもらえます。もっとも安心して着物を任せられる専門家と言えるでしょう。

着物シミ隠しにかかる料金はいくら?

着物のシミ隠しについて、「魅力は感じるけど、料金がいくら位かかるんだろう」と気になっている人も多いことでしょう。ただ、とても申し訳ないのですが、「シミ隠しは×円位でできますよ!」とご案内をすることができません。

というのも、シミ隠しのための染色補正はすべてプロの染色補正師による手作業です。描く絵が大きければ大きいほど、たくさん時間がかかります。

そのため、描く柄の大きさ、対処する範囲によって料金が変動することがほとんど。また、柄に何色をつかうのか、金彩の有無等によっても、料金が変わってしまいます。

ちなみに当店の場合ですと、3センチ四方くらいに柄を素描した場合で料金は3,850円~(税込)となっております。参考にしてみてくださいね。

キチンと見積もりを出すお店を選ぼう

上にも書きましたが、着物のシミ隠しは「描き足す柄の大きさ」や「色の多さ」等で料金が動くものです。そのため一度着物をお預かりして状態をチェックし、お客様のご要望などを伺いながら「料金はこれ位かかります」とお見積り(みつもり)を出すシステムが一般的です。

着物の状態を見もせずに「シミ隠し料金はいくらです」と一律に言い切るお店があったら、少々怪しいと思った方が良いかもしれません。事前にキチンと見積を出して、お客様に了解をもらってから作業に入るお店を選びましょう。

着物シミ隠しって見た人にバレる?

「せっかく着物のシミ隠しをしたのに、周囲にバレたら嫌だなあ」と心配している人も居るかもしれませんね。でも大丈夫です!キチンとした染色補正師におまかせすれば、周囲から見て「柄足し」などがわかることはありません。

ただ柄足しの場合には顔料を上から描き足していくので、布地を手で触った時に、その部分だけ手触りが少し違うことになります。「シミ隠しが見た目でバレる」ということはありませんが、「触ればお直しした部分がわかる人もいる」というわけです。

でも、人が着ている着物の柄の部分に素手で触れる人っていませんよね。どうぞ安心して、シミ隠しをご検討ください!

おわりに

今回は着物のシミ隠しに頼れる最終兵器とも言える「染色補正」について詳しくご案内をしました。洋服でも染め替えなどの対処をするお店はありますが、柄足しなどまでするお店はなかなか無いですよね。

着物独特の「着物を長く着るための技術」は、江戸時代よりはるか昔から培われてきました。歴史と伝統のリペア技術で、大切な着物をぜひ甦らせてみてください!

シミや変色などカバーできます!

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