袴は洗える?クリーニング?プロが教える袴お手入れの基本
「袴(はかま)」は、男性の和装の礼装には欠かせないボトムスです。また大正時代からは女学生が制服として袴を身に着ける文化が定着し、現在でも大学生・短大生の女性が卒業式に袴を身につける姿が多く見られます。近年では、小学校の卒業式で袴を着るお子様も増えましたね。
さてこの袴ですが、家で洗えるのでしょうか?それともクリーニングするものなのでしょうか?ネット上では様々な情報が混じり合ってしまっていて、何が正解なのかわからず、お困りになっている人がたくさん居るようです。
袴は自分で洗えるの?「袴の種類」を知りましょう
まず「袴が自宅で洗えるか」という点について結論から述べます。「その袴の種類によって大きく違う」が回答です。ひとくちに「袴」と言っても、実は用途が色々あります。そのため「袴は洗える」とか「袴の洗い方」という情報が混在していて、混乱してしまう人が多いのです。あなたの袴はどの種類なのでしょうか?
1.スポーツ用の袴(練習着)
スポーツ用の袴とは、剣道や剣技等の際に着用する「稽古着・練習着」としての袴です。
【例】
- 剣道用袴(練習用)
- 剣技用の袴
- 一部の舞踊などの練習用袴
これらのスポーツ用の袴は、その多くが分厚い綿等で作られていますが、近年では軽くて洗いやすいテトロン等、化繊の製品も登場しています。そして多くは「家で洗える」製品です。たくさん汗をかいてザブザブ洗うことを想定されて作られています。ある意味で「普段着」の袴なのです。
※剣道・剣術等で身につける袴でも、特別な儀式の際に身につける袴(儀礼用の袴)等の中には、ご自宅では洗えないものもあります。ご注意ください。
2.お子様用のウォッシャブル袴
お子様用のウォッシャブル袴とは、最近の七五三や卒業式などの袴ニーズに答えた、お手入れのしやすい袴です。
【ウォッシャブル袴の例】
- ポリエステル100%、ポリ混紡等の製品
- 「洗濯機洗いOK」または「手洗いOK」の洗濯表示がある
- 袴の裾が分かれておらず、スカート状になっている
- レンタル用などのリーズナブルな製品
こちらもキッズ製品として「洗う」ということを想定して作られているので、ご自宅での洗濯が可能です。ただし製品によっては「手洗いOK」の表示があっても、クリーニングをした方が仕上がりが良いというものはあります。
3.礼装用・おしゃれ着としての袴
礼装用袴・おしゃれ着としての袴とは、次のような際に身につける袴のことを言います。
【礼装用・おしゃれ着袴の例】
- 結婚式用の男性用袴
- 通夜葬儀等で身につける男性用袴
- その他「和装」としての一般的な男性用袴
- 卒業式等で身につける女性用袴
- ウォッシャブル加工の無い七五三用の袴
これらの袴は、扱いがフォーマル着物(留袖や振袖、訪問着等)と同じです。原則として自宅での洗濯には適していません。
まずは自分の持っている袴がどのような用途のものか、洗濯表示などがあるかを詳しく確認してみましょう。
「洗える袴」の洗濯方法
次に、洗える袴のうち、キッズ用等のウォッシャブル袴の洗い方について解説していきます。(スポーツ用の袴については、剣道着等の取り扱い専門店で取り扱い方法をご確認ください。)
洗濯のために用意するもの
- 中性洗剤(エマール、アクロン等のおしゃれ着用洗剤)
- 洗濯ネット(袴を軽く畳んで平らに入るサイズ)
- 柔軟剤
- バスタオル2枚
- アイロン、アイロン台、あて布等
袴の洗濯手順
- バスタブや洗面器等にぬるま湯(30℃以下)を入れて、中性洗剤を適量加え、よく溶かしておきます。
- 袴は軽く畳んで、洗濯ネットに入れておきます。(汚れが気になる部分があれば、外側にして畳みます)
- 袴をネットごと、全体的に洗濯液に漬けていきます。
- 上から両手で優しく押して「押し洗い」をします。
- 汚れが気になる部分については、ネットから出して優しく撫でるように洗います。
- 水を2回取り替えて、すすぎを行います。
- 最後のすすぎの際に柔軟剤を水に適量加えて、袴の全体に行き渡らせるようにします。
- 洗濯機の脱水コースを使い、30秒~40秒程度だけ軽く脱水します。
- 乾いたバスタオル2枚で袴を挟んでトントンと叩き、水分を取り除いていきます。
- 形を整えて、直射日光の当たらない場所で自然乾燥させます。
- 素材に合わせたアイロン温度でアイロンがけを行い、形をキレイに整えます。
(製品によってはアイロン不要のものもあります)
おしゃれ着・礼装袴を家で洗わない方が良い理由
「自分の袴は木綿なので、家で洗えるのでは?」「袴をクリーニングに出すお金が惜しい」といったご質問はとても多くいただきます。しかしおしゃれ着・礼装のための袴については、ご自分での洗濯はおすすめができません。これには3つの理由があります。
1.縮む可能性が高い
木綿・麻等の一般的には水洗い可能な素材であっても、礼装用の袴の場合には「ご自宅での水通し」を想定していない可能性が高いです。このような袴は、水洗いをするだけで激しく収縮するリスクが考えられます。
例えば木綿繊維の場合、水通しによる収縮率は最大では8%近くにもなります。1メートルあたりで8センチ縮むわけです。50センチの長さがある袴なら4センチ縮む計算です。
洋服のボトムス(特にズボン)で丈が4センチ違ったら、その印象が大きく変わることは想像が付く方が多いことでしょう。短すぎる袴は「寸足らず」「つんつるてん」の、借り物のような姿になってしまうわけです。
袴は着付けで多少のサイズ調整はできますが、激しく縮んだ場合だと調整でも対応が厳しいことがあります。水洗いで激しく縮んでしまった袴は、その後に専門店に持ち込んでも元には戻りません。
2.型崩れしやすい
袴には前後にヒダがあります。洋服でいうところの「プリーツ」ですね。このヒダの美しさが、袴のとても重要なポイントとなっています。ワイシャツで言えば襟元、着物で言えば帯の美しさに代わるような点です。
ところがご自宅で洗濯をしてしまうと、このヒダが激しく崩れてしまいやすいです。また一般的な洋服のプリーツと比べ、袴の折り目はちょっと複雑なので、アイロンがけにも高度な技術が必要となります。
袴のアイロンの難しさといったら、実は「洗濯のプロ」でも失敗する人がいるほど。「洋服専門のクリーニング屋さんに袴を出したら、プレスが下手でヘンなクセが付いてしまった!」といったトラブルも多く見られるほどなんです。キチンとした見た目を重視するなら、和装専門店でのプレスが理想的と言えます。
3.色あせ・色落ち・色ムラのリスク
袴を水に初めて通す時には、かなり染料が落ちることが多いです。特に繊維への定着力が弱いのが麻と、一部の化繊素材です。「現在着用している色合い」を重視するのであれば、ご自宅での水洗いは避けた方が無難です。
また新品の礼装・おしゃれ着袴の場合、ヒダを崩さないための糸を付けたまま洗うと、その部分だけ染料が落ちきらずに色ムラを起こすことがあります。色ムラを防ぐためには糸を外し、洗濯・プレス後には再度縫い止めを行わなくてはなりません。
礼装用・おしゃれ着用の袴について、「現在のきれいな形を保ち」「現在のきれいな色合いをキープする」という点を重視するのであれば、ご自宅での洗濯は避けた方が無難なのです。
袴の基本のお手入れ
ではおしゃれ着として、また礼装用として使う袴は、どのようにお手入れをしたら良いのでしょうか。袴の基本的なお手入れ方法を解説していきます。
1.陰干しをしましょう
着用後の袴をすぐに畳んではいけません。繊維の中にたくさん汗等の湿気が溜まっているためです。そのまま畳んで保管すると、カビや虫食い等のリスクが上がってしまいます。
袴を着たらきちんと陰干しをしましょう。「陰干し」とは着物を直接太陽の光にさらさずに、空気にあてて水分を飛ばす星方のことを言います。
【袴の陰干し】
- 袴をハンガー等にかけます。
- 屋内または屋外の直射日光の当たらない場所に干します。
- 湿度によっては、エアコン・除湿機等で除湿をします。扇風機の弱風をあててもOKです。
2.汗をかいたら「汗抜き」をプラス
着物を着た日がとても暑かったり、暖房が効いていて汗ばんでしまった…という場合には、袴の内側の裾等にも汗が付いてしまっていることがあります。
汗の成分が繊維に残ると、「黄変(おうへん)」という変色シミの原因にもなります。ご自宅でできる汗抜き(汗取り)のお手入れで、汗ジミ・変色シミを予防しましょう。
【袴の汗抜き】
- 柔らかいタオルを水で濡らし、固く絞ります。
- 袴は裏返しておきます。
- 汗が付いた部分をタオルで軽く叩きます。
- 別の乾いたタオルで叩き、水分を吸い取ります。
- 通常よりも長めに陰干し(上の項を参照)を行います。
3.ブラシをかけましょう
一度着用した袴は、一見すると汚れていなくても、チリやホコリなどが表面に付着しています。陰干しで水分を飛ばした後には、衣類用のブラシでホコリをキレイに落としましょう。
使用するブラシは和装用のものが理想的ですが、毛質の柔らかいものであれば、洋服用のものでも使用できます。ただし「衣類用埃取り」や「衣類用コロコロ(粘着テープ)」等は使用しないでください。デリケートな袴の繊維の表面を傷め、毛羽立たせたり、白っぽくさせてしまうことがあります。
おしゃれ着袴・礼装用袴をクリーニングに出す頻度
では袴をクリーニングでお手入れする場合、どの程度の頻度で出せばよいのでしょうか。
シーズンに一度は「丸洗いクリーニング」
袴は「1回着たら絶対にクリーニング」というものではありません。目立つ汚れが無いのであれば、数回繰り返して着ても大丈夫です。ただ、シーズンに一度(シーズンの終わり)には「丸洗いクリーニング」をして、全体的なチリやホコリ汚れを落としておくと安心です。
また「この後の着用予定がまったく無い」という場合には「丸洗いクリーニング + 汗抜きクリーニング」をしてから保管するのがおすすめ。長期保管の間、黄変等のトラブルが起こるリスクを減らせます。
【例】
・お正月に袴を着る
↓
(キレイに着たので通常のお手入れのみでOK)
↓
・前撮りで袴を着る
↓
(キレイに着たので通常のお手入れのみでOK)
↓
・春の卒業式に袴を着る
↓
(丸洗い+汗抜きクリーニングでお手入れ)
↓
・この後の着用予定は無し(ご自宅で長期保管)
袴を汚したらすぐに「しみ抜き」
食べこぼしや飲み物のハネ、泥汚れ等で袴を汚してしまった場合には、すぐに汚れの原因に合わせた「しみ抜き(部分洗い)」を行う必要があります。正絹(シルク)やウール等、礼装用・おしゃれ着用の袴の場合、基本的にはご自宅でのしみ抜きはできません。袴に付く汚れの種類のほとんどが、ご家庭では対処できない水溶性汚れや混合性汚れであるからです。
シミは時間が経てば経つほど取れにくくなります。反対に小さな汚れを早めに処理すれば、しみ抜きの料金も安く済みます。「袴を汚した!」という時には、早めに専門店に持込んだ方が良いです。
借りた袴のクリーニングは?
袴がレンタルであったり、どなたかから借りた場合にはどうしたら良いのでしょうか。
● レンタル袴の場合
レンタルの袴は、基本的にレンタル料金にクリーニング代が込みになっています。汚してしまった場合でも、正直に申告すれば原則としてそれ以上のクリーニング代がかかることはありません。
ただし、汚れの種類が次のような場合には、クリーニング代が実費で請求されることがあります。
- ワイン、ぶどうジュース等の着色が強いシミ
- 汚れの範囲が広い
- 汚れが縫糸にまで染み込んでいる
- シミ・汚れによるニオイが酷い
- 破れ、ほつれ等で補修が必要である 等
クリーニング代や補修の規定については、レンタル契約時の約款で詳細が定められています。契約書の内容をよく確認してみましょう。
● 借りた袴をお返しする場合
親族の方やご友人等から袴を借りた場合には、クリーニングに出してからお返しをした方がマナー的には良いですね。ただ、袴等の和装品については、一般的なクリーニング店(洋服のクリーニング店)に出さない方が良いこともあります。上でも少し書きましたが、袴の取り扱いに慣れていないクリーニング店が袴のヒダを崩してしまう…といったトラブルもあるためです。
袴の持ち主が普段お使いの和装用クリーニング店や悉皆屋があるのならば、そちらを教えていただいて、指定されたお店にクリーニングに出すことをおすすめします。
また特に持ち主の方から指定が無い場合には、和装のクリーニング専門店か、着物の取り扱い専門店である悉皆屋(しっかいや)に依頼をすると安心です。
おわりに
「袴は洗えるのか、それともクリーニングに出すのか」という疑問について解説しましたが、参考になりましたでしょうか。上でも解説したとおり、「袴」と一口に言っても、その用途やランクは様々です。気軽にドンドン洗っていく練習着のような袴もあれば、結婚式に来ていくワンピースやドレスと同じ程度の扱いとなる袴もあります。
洋服に「普段着」と「おしゃれ着」「フォーマル服」があるのと同じです。まずはお持ちの袴がどの用途、どのランクに当たるのかをよく見直して、適切なお手入れをするようにしましょうね。